小金沢ライブラリー

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映画感想―『ハプニング』

2009年10月11日 | 映画感想

~あらすじ~
ある日、ニューヨークのセントラルパークで人々が突然時が止まったかのように立ちつくし、唐突に自らの命を絶つという事態が発生。この異常現象はアメリカ全土へ拡がりをみせ、多数の犠牲者を生んでいくが……。


~感想~
『シックス・センス』で斯界の度肝を抜き、『アンブレイカブル』『サイン』『ヴィレッジ』と新作を出すたびに評価を落とし『レディインザウォーター』で興行成績もどん底に沈んだが、僕の中では映画で叙述トリックを仕掛ける異才として、毎回楽しみにしてきたM・ナイト・シャマラン監督の新作がこの『ハプニング』である。
さすがのシャマランも自身の監督生命を危ぶんだのか、それとも前作の大コケでふところがさみしくなったのか、手堅くいたって普通のホラー映画に仕上がっていて、これまでのような一種キワモノと呼べる要素(霊、宇宙人、怪物など)を封印し、アインシュタインの言葉とされる「ミツバチがいなくなれば人類は四年で滅びる」を軸にした、起承転結の整った、非常にまとまりのある映画になっている。
シャマラン作品に否定的だった向きも、この『ハプニング』に限っては評価しているようなのだが……。ファンから言わせてもらえば、こんなのゴミみたいな映画である。
なぜなら『ハプニング』にはどんでん返しが一切ない。僕はシャマラン作品に整合性や完成度なんて求めてはいない。キワモノでも強引でもこじつけでもバカ映画でも、あっと驚くどんでん返しがなければそれはシャマラン映画ではない。
展開になんら裏切りがなく、ホラーらしく因果を置き去りにしたまま物語が終わるや、僕は呆然とした。
どんでん返しがないシャマラン映画なんて、牛肉の乗ってない牛丼のようなものではないか。米丼ではないか。最高級の米に極上のタレがかかっていてもせいぜいタレ丼だ。
僕にとって『ハプニング』は救いようのないクソ映画である。小さくまとまりやがって……。


評価:なし 0
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ミステリ感想-『花窗玻璃 シャガールの黙示』深水黎一郎

2009年10月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
仏・ランス大聖堂から男が転落死した。地上81.5mにある塔は、出入りができない密室状態で、警察は自殺と断定。だが半年後、また死者が。二人の共通点は死の直前に、シャガールの花窗玻璃を見ていたこと……。
ランスに遊学していた瞬一郎が、壮麗な建物と歴史に秘められた謎に迫る。


~感想~
抜群の安定感を誇る作者が、丁寧にものした安心の品質。
物理トリックながら非常にわかりやすく、かつここだけでしかできない仕掛けで、舞台をランスに設定した意味もあるのはさすが。
瞬一郎の放浪譚という側面からも楽しめ、おなじみの芸術論もしっかりと脇を固める実に手堅い造り。
こだわり抜いた結果、その反面、小うるさくなってしまった「美しい日本語論」と、一段組とは思えない重厚感あふれるルビの山にはうんざりさせられるが、最近のミステリファンなら無問題だろう。
本格ミステリとして全く隙のない作品。深水ブランドは今回も裏切らない。


~追記~
taipeimonochromeさんの考察がいつもながらすばらしいのでご紹介。
こんな趣向まで隠されていたとは、深水黎一郎、そして見抜いたtaipeiさん恐るべし。
こういった感想を読むと、僕みたいな三文感想なぞに存在意義はあるのだろうかと思ってしまうなあ。
まあ隙間産業みたいなものを目指してやっていきますが。


09.9.24
評価:★★★☆ 7
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映画感想―『[●REC] レック』

2009年10月08日 | 映画感想

~あらすじ~
ローカル局のレポーター・アンヘラはカメラマンと共に消防隊の密着取材をしていた。
深夜、老婆の叫び声を聞いたという通報を受けて現場アパートに急行すると、そこにはこの世の者とは思えぬ老婆の姿があった。
その後、突如として封鎖されるアパート。その中で拡がり出すある病原菌。閉ざされた空間で、次第にあらわになる謎、明らかになるほど増していく恐怖の出来事を克明にカメラはとらえ続ける。


~感想~
『クローバーフィールド』で再燃した(?)手持ちカメラによる記録映像を模した作品で、その趣向のおかげか、スペイン産ホラー映画というイメージから危惧されるものはうまいこと隠され、それなりに緊張感のあるホラーに仕上がってはいる。
とはいえ心拍数が上がらないのは『ワン・ミス・コール』と同じで、『28日後…』の設定をそのまま持ってきたような物語はありきたり。だんだんサイコホラーというよりも巨大おばけ屋敷の『戦慄迷宮・ザ・ムービー』かなにかを観ているような気分になってきてしまうのも困りどころ。
ラストでいきなりストーリーに背景と説明を付けてしまうのも駄目なホラーにありがちな蛇足っぷりで、(意図していないだろうし、余計なお世話だろうが)どこまでもB級なホラーだったことだけは、ある種の評価に値するだろうか。
ちなみにこの映画、「最高に怖い映画を教えろ」スレで多くの人が名を挙げていたので借りてみたのだが。
最近の人はこーゆーのが怖いんだ~。ふーん。


評価:★★ 4
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映画感想―『デビル』

2009年10月07日 | 映画感想

~あらすじ~
ニューヨークの実直な警官トムの家に下宿人としてやってきた、快活なアイルランド青年ローリー。
しかし、その天使の笑顔の裏側には、国際手配されたIRAのテロリスト、“エンジェル”という悪魔の顔が隠されていた。


~感想~
調子の悪い=イマイチなときのブラピは品川に見えてしかたない傾向があるが、この映画では終始、品川に見えてしまっていた。
つまるところ、わざわざ映画にするまでもないような平板な話で、ストーリー的には見るべきところはない。
アイルランド紛争を描く序盤こそ引きつけるものの、以降は哀しい背景を持つ男の演技を品川にできるはずもなく、盛り上がるようで盛り上がらない中途半端な物語をゆったりとしたペースで流され、熱狂的なファンならば「翳のあるブラピかっこいい!」となるだろうが、興味のない僕としては「翳のある品川△(さんかっけー)ッス」と半笑いで済ませるしかなかった。
総じてきわめて退屈な映画であり、こういった映画の楽しみかたがわからない僕は、本当のところ映画好きではないのかもしれないという思いを強くした。


評価:★ 2
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映画感想―『1303号室』

2009年10月06日 | 映画感想

~あらすじ~
真利子が訪れたのは、海の見える高級マンションの1303号室。ここに引っ越したばかりの妹が謎の投身自殺を遂げたため、その遺品整理にやってきたのだ。
だが、マンションにやってきた刑事の話から、この部屋を借りた若い女性がみな投身自殺をしていることが判明する。


~感想~
あらすじを見てもらえばわかるとおり要するに『呪怨』なので、片手間に観ていても全くストーリーを見失うことのない、ユーザーフレンドリー(?)な作品である。
というか、こんなB級ホラーのくせに描写に変に凝っていて、亡き妹の遺品整理をしているときは泣かなかったのに、お笑い番組を見ているときに、ふと気づくと笑いながら号泣している、といった無駄にリアリティを求めているのが実にかったるい。亡き妹をしのぶパートはどっちかひとつで良かったはずだ。
こんな難癖みたいなケチをつけたくなるのも、終盤にB級どころかC級ホラーに転落するからで、それまでつちかってきた雰囲気を台無しにする、山岸由花子でラブ・デラックス!!な妖怪バトルが展開されてしまうのだ。
どうせバカ映画なんだから、余計なところでちゃんとした映画ぶるなと言いたくなる。そりゃあ『呪怨』のカヤコさんもたいがい化け物だったけど、こっちはスタンド能力を持ってるなんて化け物にも程があるだろ。


評価:☆ 1
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ミステリ感想-『追想五断章』米澤穂信

2009年10月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬にひかれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。
調査をつづけるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。22年前のその夜はたしてなにがあったのか?


~感想~
ミステリとしては短いながらによくできた小品なのだが、そんなことよりも小説としての登場人物へのあまりの突き放し方に不快さを感じてしまった。
↓以下ネタバレ↓
リドルストーリーを探す物語だけに、この話の結末もリドルストーリーだろうと当たりをつけていたので、「その後」を全く描かない幕の閉じ方は気にならなかったのだが、それにしてもあまりにも登場人物への、平凡な市井の人物たちに向ける目線が冷たすぎはしまいか。
彼らは大きな間違いを犯したわけではない。大学を辞めることも、田舎に帰ることも、ちまちま古書店をつづけることも、過去を引きずることも、なんらの悪ではないのだ。
だが作者は冷めた視線で彼らを突き放し、「その後」どうなったのか、彼らの行く先に光や影はおろか、なにも暗示しようとすらしない。完全に無である。
おそらく意図的にそうしたのであろうが、まるで平凡な人生を送ることの、それ自体が悪であり負け犬であるかのような突き放し方は、読んでいて終始不快だった。


まあ本格ミステリというジャンルに、そんな難癖をつけること自体が愚かなのだが、しかし単に「黒米澤」と片付けてしまうには、なんとも後味の悪い物語であった。


09.9.21
評価:★★☆ 5
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マンガ感想-『Q.E.D. 証明終了 4』加藤元浩

2009年10月04日 | マンガ感想
「1st,April,1999」★★★☆ 7
~あらすじ~
日本企業の悪辣な開発援助で窮地に陥ったクラビウス王国のバウム外務次官は、秘策を胸に来日する。
一方、燈馬は前年に優勝してしまったエイプリルフール・クラブの企画に頭を悩ませていた……。

~感想~
たがいに関わりのないと思われた事柄がいくつも連関し、最後に見事な結実を見せる。
エイプリルフールという題材にふさわしい、意外性のある結末が切れる。のだが……
↓以下独り言↓
グリアの行動のツメが甘く、燈馬の独断による助けがなければ、この計画は成立しないのではなかろうか?


「ヤコブの階段」★★☆ 5
~あらすじ~
MITでエバが研究を進めていた人工生命が、不可解な行動を始めた。
同じころ、日本の都心では原因不明のシステムダウン事故が発生し……。

~感想~
本格ミステリにはたとえば歴史背景、神話伝承、そんなに大げさなものでなければ童謡や都市伝説などの意匠を用い、それと絡めることで雰囲気作りをする技がよく使われる。
この作品の場合は旧約聖書の「ヤコブの階段」がそれで、人工生命という科学の最先端に位置するモチーフとうまく組み合わせ、小粒な話を佳作にまで押し上げることに成功している。
「本格ミステリは雰囲気」説を後押しする、いい見本かもしれないと思ったり。
コメント

映画感想―『ミラーズ』

2009年10月03日 | 映画感想

~あらすじ~
大火災で廃屋と化したデパートの夜警を勤めることになった元刑事のベンは、警備中にその建物の中にある不気味な鏡に触れてしまう。
突如として鏡に映る奇怪なイメージやメッセージ。続発する原因不明の死亡事件。焼けただれたデパートの呪われた過去。最愛の家族まで危険にさらしてしまうベンは、鏡をめぐる忌まわしい秘密を解き明かさねばならなくなる。


~感想~
要するにテレビが鏡に変わっただけの『リング』なのだが、アメリカが製作しキーファ・サザーランドが主演するだけでグロホラー映画がB級アクションになってしまうのが困ったところ。
後半になるにつれキーファの陰からジャック・バウアーが顔をのぞかせ、
「クソぉっ!!」
「俺は暴力に訴えたくない!!」
「撃たれたくなければ言うとおりにしろ!!」

と完全に『24』の世界に突入。こうなってしまっては当然のごとく、最後はラスボス VS バウアーの壮絶な一騎打ちに。
拳銃一丁でラスボス(ちなみに正体はアメリカらしく悪魔だ)と渡り合い、爆風に吹き飛ばされながらも勝利を収める我らがバウアーの勇姿に涙が止まらない。すごいね、銃社会。
さすがは『リング2』で貞子を井戸の中に閉じ込めて退治したハリウッドホラー、前半あれだけがんばってホラーっぽい雰囲気を出したのはなんだったんだろうか。
そんなわけで『24』ファンでグロ耐性のあるホラー好きなら楽しめるのかもしれないバカ映画である。


評価:★☆ 3
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