2025年2月26日、ウクライナがいよいよ停戦に合意することが確実となってきた。
今から約2年前の2023年初頭、ウクライナ関連のニュースでは『戦局を動かすゲームチェンジャーか――ドイツ製戦車供与』との見出しが踊り、ドイツ製「レオパルト2」戦車の投入によってウクライナが戦争勝利の糸口をつかむと大きく報じられていた。
今から約2年前の2023年初頭、ウクライナ関連のニュースでは『戦局を動かすゲームチェンジャーか――ドイツ製戦車供与』との見出しが踊り、ドイツ製「レオパルト2」戦車の投入によってウクライナが戦争勝利の糸口をつかむと大きく報じられていた。
ちょうどその頃、筆者は2023年2月27日に発表した『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 4) -日本政府の隠蔽と虚言-』において、ウクライナとロシアの戦争の行方について自説を述べた。今回、停戦が目前に迫ったことを受け、その一部を再録することにする。
2018年5月22日付、Spiegel誌に「ドイツ空軍大ピンチ 使える戦闘機は4機だけ? 背景に「財政健全化」と「大連立」」(「Luftwaffe hat nur vier kampfbereite "Eurofighte」)[i]とする記事を掲載していた。
『……
ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に深刻な問題が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっている。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも云われている。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかり。ロシアやイランの脅威がちらつくなかで欧州の盟主は内憂外患である。
……
空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などと予算不足の実情をあげているのだ。
……』
上記の記事を補足するように、2019年02月11日、月刊PANZER「ドイツ「戦車王国」の黄昏 稼働するのは全盛期のわずか3%、どうしてそうなった?」[ii]では、レオパルト2の稼働率を公表している。
『……
ドイツ陸軍「レオパルト2」戦車の稼働数、68両――これは2017年12月に、ドイツ国防省から公表された「主要兵器システムの重要な運用準備に関する報告書」に記載された数です。桁(けた)が間違っているのではないかと、目を疑ってしまいます。この報告書によれば、ドイツ陸軍が保有するレオパルト2は244両ですが、うち176両は保管状態(その約70%は訓練なら使用可能)で、稼働状態にあるのは差し引き68両とのことです。
……』
以上のように貧弱なドイツ軍であるが、その貧弱な空軍が2022年にわざわざ日本まで飛来しきている。その様子を、2022月8月15日、産経新聞「ドイツ空軍、戦闘機などインド太平洋に派遣 日米韓などと多国籍演習」[iii]から見てみる。
『……
ドイツ連邦空軍は15日から、主力戦闘機ユーロ・ファイターを中心とする軍用機群をインド太平洋地域に派遣する。独軍の発表によると、オーストラリアで多国籍空軍演習に参加するほか、日本や韓国、シンガポールを訪れる予定。安全保障で民主主義圏の連携に加わり、中国の軍事的威嚇に対抗する狙いがある。
ドイツ軍が、戦闘機をインド太平洋地域に派遣するのは初めてとなる。軍用機群はユーロ・ファイターが6機、輸送機A400Mが4機、多用途空中給油・輸送機A330MRTTが3機の計13機で構成する。今月19日から3週間、豪州で行われる多国籍空軍演習「ピッチブラック」に日米韓やシンガポール、英仏などと共に参加し、その後、日本を訪れる予定。独軍の発表では、日韓とは「価値を共有するパートナー」として、関係を深める意欲を強調している。
……』
ドイツ空軍がわざわざ日本まで飛来した理由は、日本の自衛隊と組んでNATOの戦力を底上げしたいことは明らかである。NATOが張り子の虎であって抑止力に問題があるため、日本が関係国であり続けて欲しいためのデモンストレーションなのだ。
ちなみに2021年IISS(The International Institute for Strategic Studies、国際戦略研究所)のデータによれば、ドイツの戦車台数は46位238台まで回復しているとされている。ちなみに1位はロシアで12850台、2位アメリカ6332台、3位中国5800台、日本は19位667台で、ウクライナは34位340台にすぎないのだ。また、昨今では、ドイツからウクライナに戦車が供給されることになっているというが、保有台数の実稼働数は良くて70%程度と考えると、その中から14台をウクライナに供与するとなると自国防衛用に残された戦車台数は明らかに不足することになる。例え、ウクライナに供与されても、メンテナンスや燃料、弾薬の補給を考えると、第一線に投入することは難しく、重要都市の防衛用に温存されるのが関の山だと考えられる。したがって、いかに優秀な戦車を投入しても、ウクライナの戦況をかえることは難しいであろう。
ところで、NATOがウクライナに戦車を投入することに関しては、悲観的な結果を導き出す戦争の法則がある。それがランチェスター理論(Lanchester's Laws)の第2法則である。同法則によれば、ロシアの戦車数は開戦当初の2,927台から1,800台に減少したとされるが、ウクライナが要求する300台の戦車をすべて揃えたとしても、戦局が有利に変わることはなく、むしろウクライナが敗北する可能性が高いと考えざるを得ない。
そもそも、デフォルト状態にあるウクライナには、300台もの主力戦車を購入する資金がなく、調達自体が困難である。ゼレンスキー大統領のように、国際条約を平気で破棄する指導者は、ランチェスター理論の基本さえ無視して主力戦車300両を求めたのだろう。仮にロシアとウクライナが戦車戦で対峙した場合、単純計算ではロシアの戦車残数が1,774台、対するウクライナは0台となり、結果は完敗である。
実は、ウクライナが不利な状況にあることを最もよく知っていたのはイギリスとアメリカである。両国はランチェスター理論を用いて、ウクライナの敗北をすでに想定していたと考えられる。そもそも、この理論を国際的な軍備調整に初めて適用したのは、1921年11月11日に開催されたワシントン海軍軍縮条約において、戦艦比率を英米日=5:5:3に強行設定したイギリスとアメリカであった。それから100年後、ウクライナ支援に奔走する両国が、この理論を忘れているはずがない。
それでもイギリスとアメリカがウクライナ支援を継続する理由は他にある。それは、NATOが掲げる「加盟国への攻撃は許さない」という抑止力が形骸化し、組織の崩壊につながることを恐れているためだ。
この状況を見越してか、ポーランドは2022年7月27日に韓国との間でK-2戦車180両、K-9自走砲48門、FA-50軽戦闘攻撃機48機の導入契約を締結したと発表した。さらに2026年からは、ポーランド仕様のK-2PLを国内で820両生産する計画であり、達成時にはポーランド軍の主力戦車は合計1,000両となる。ロシアと国境を接するポーランドは、独自の試算に基づき、ロシアと対抗するために1,000両の主力戦車が必要だと結論づけたと考えられる。この数字は妥当であり、ポーランドがNATOの抑止力に見切りをつけ、自国のみでロシアに対抗しようとしている表れでもある。この動きは、いずれ他の加盟国にも波及し、最終的にはNATO解体へとつながる可能性がある。
つまり、ウクライナが不利な状況にあるにもかかわらず、NATO本部は右往左往し、加盟国も有効な戦力を持たない現実を覆い隠すためにプロパガンダを展開しているのだ。その戦力投入も、逐次投入という最も愚劣な手法であり、戦車を東部戦線に送り込んでも、制空権がない状況では戦場にたどり着けるかすら疑わしい。
しかし、日本国内には、まるでウクライナが善戦しているかのような情報を発信する集団が存在する。その中心は、RUSI(イギリス王立防衛安全保障研究所)および、その影響下にある日本の防衛研究所や関係者である。ウクライナが現状のままでは確実に敗北し、国土が廃墟と化すことは明らかである。真にウクライナを思うならば、速やかに停戦協定の締結を支援するべきである。それにもかかわらず、ウクライナに対して「ロシアを国境まで押し戻せ」と繰り返すのは、言語道断である。
RUSIおよび日本の防衛研究所は、この悪質なプロパガンダを直ちに停止すべきである。
以上(寄稿:近藤雄三)
【参考】
・(2023年02月06日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回) -日本政府の隠蔽、虚言-』
・(2023年02月13日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 2-1) -日本政府の隠蔽と虚言-』
・(2023年02月13日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 2-2) -日本政府の隠蔽と虚言-』
・(2023年02月22日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 3) -日本政府の隠蔽と虚言-』
・(2023年02月27日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 4) -日本政府の隠蔽と虚言-』
[i] 「Luftwaffe hat nur vier kampfbereite "Eurofighte」
https://www.spiegel.de/politik/deutschland/bundeswehr-luftwaffe-hat-nur-vier-kampfbereite-eurofighter-a-1205641.html (2025.02.26閲覧)。
[ii] https://trafficnews.jp/post/83385(2025.02.02閲覧)。
[iii] https://www.sankei.com/article/20220815-PSFOJ42VPBOGPOLMFYIGJXQI4A/
(2025.02.26閲覧)。
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