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三浦春馬氏イメージ「姥捨て山伝説」 青リンゴ 第三、四章

2020-04-26 09:12:15 | イメージ小説
      第 三 章 (全十一章)

 秋が来た。
 やっと涼しい風が吹く頃、馬作が育てている林檎の樹に実が成った。
 黄緑色の美しい林檎だ。
 ばあちゃんにかつて持たせたちょっと珍しい青い林檎だ。

 一本の樹にかなり実がなり、喜びいさんだ馬作は
真っ先にばあちゃんのところへ持って行った。
ふたりでそろって丸かじりする。
ばあちゃんはまだ歯も丈夫だ。
「うんうん、こんなに瑞々しくてうまい林檎は初めてだ」



 そんな時、遠くの港町にアメリカという国とやらからの一行が
到着したらしい。
こちらの村に向かっているとか。
なんでも、村の領主の病の床にいる娘の
見舞いに来ることになったとやら。

 山のばあちゃんは、 
「姫さまが誰よりも苦しんでいる。このリンゴをお見舞いに献上しなさい」と、
馬作に命じた。
 城へ行くため、しぶしぶ馬作は、庄屋の息子から
一張羅(いっちょうら)を借りた。
金ぴかの羽織袴で、気後れするにもホドがあるが、
いつもの野良着よりはマシだろう。


(そこまでいじくりまわさくてもよかんべ)と思いながら
悪い気がしなくなってきた。
 しかし、鄙(ひな)には稀な美貌にこのセンスの
無いいでたちは誰の目から見ても悲壮感さえ 
感じられるのだが、本人はとにかく領主に失礼に当たらないよう、
だんだん思い直し、正装した気分でいる。
てか、すっかり「なるしすと」気分。




 領主の家は大きな屋敷だが、ご一新前は小さな大名だった。
姫様には会えずとも、屋敷内へ入れてもらえ、奥女中に
持参した林檎を渡すことが出来た。

 時も時、アメリカ一行が領主の屋敷に到着し、
馬作はその現場を目撃した。
 黒いカッチリした制服、眩しい金魚の髪の毛、
目は空のような青、お酒で酔ったような真っ赤な顔。
見上げる高い鼻、鷲鼻。

 そんな男たちが三十人ほどやってきたので、
屋敷の奉公人たちまで 固まってしまった。
「姫様がご病気と伺い、お見舞いにやってまいりました」
~~と、アメリカ人一行の言葉をお付きの日本語係が言う。

 急いで領主が大広間へやってきて平伏した。
 馬作が襖の隙間からのぞき見していると、アメリカ人の大将らしき男が
馬作の持ってきた林檎に気がついた。
「これは!私が子どもの時、グランマがパイを焼いてくれて、
高熱が下がった時の林檎だ!!」

「なんですとっ!では我が姫の病もこの林檎で治るやもっ!」
領主が叫んだ。
「すぐに船から調理人を呼びましょう。
姫様にお元気になってもらわなければ」と、大将が言う。
 たちまち慌ただしくなり、屋敷の台所にアメリカの調理人が呼ばれ、
林檎も運び込まれた。

*******************************
     第 四 章

 年寄を山に捨てる慣わしを、馬作の林檎から
小耳にはさんだアメリカ大使が、
「何ですと?この村ではそんなヤバンなことをさせているのですか?」
 領主は真っ青になった。
 ここでアメリカ人に嫌われては村の繁栄はパーになる。
しかし、貧村が生き延びるために戦国時代から
続いてきた慣わしなのである。

「いや、何かの間違いです!
この若造はきっと酔っぱらっているのでしょう」
「誰が酔っぱらって!酒なんぞ買う余裕もねえのにっ」

 領主は慌てて馬作を向こうに連れて行かせ、縄で縛った。
 アメリカ人一行を奥座敷に閉じ込めてから領主は、 
再び縛られた馬作のところへやってきた。
「よけいな口を聞くでない。本当ならムチ打ちの刑だぞ」
「いえ、申し直しましょう」
馬作は両手を後ろで動かしながら地面に座りなおした。
「お願いいたしますだ。領主さま。年寄を山に捨てる慣わし、
取りやめていただきたいです。
村の衆も皆、切にそう思っているはず」

「じゃから、この貧しい村を裕福にしようと、
アメリカ様ご一行に来ていただいたのじゃ」
「えっ!?では…」
「おぬしの持参した林檎が姫の病に効いて、もし治るのなら 
年寄山捨ての慣わしは廃止しよう」
 でっぷりとした領主はヒゲをいじり、ふんぞりかえって言った。
「ほ、本当でございますかっ!!」
<これでばあちゃんも村に帰ってこれる!!>
 馬作の顔が耀き「ぶいさいん」が出た!!



「ととさま……」
 その時、障子の隙間から小さな白い顔が覗いた。
「おおっ、姫ではないか!おとなしゅう寝ていなければいかん!」
「その若者は、わらわのために青い林檎を
持ってきてくれたのでしょう。異人さんのお話では
焼きリンゴの お菓子をいただけば病に効くらしいではないですか。
乳母から聞きました。どうぞ、その縄をほどいて
自由にしてやって下さい」

コホンコホンと咳をして、顔が青ざめている。
「わ、わかった、わかったから無理せんでくれ。姫」
市松人形のような漆黒の髪、熱のせいだろうか、潤んだ瞳。
ぱっちりとした濃いまつ毛。紅い頬。
 人間と思えないような美しい女の子だ。
(村で走り回るガキ共に混じっている女の子とは全然違う)
 馬作が、ボウッと見惚れていると、縄は解かれた。


★第五章に続く




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