こひごころ野に捨てたきとうちいでて涙の頬を風がなでゆく

こひごころ野に捨てたきとうちいでて涙の頬を風がなでゆく　　　　揺之

月影の君の小窓をおとづれてこひになやめる心を照らす

月影の君の小窓をおとづれてこひになやめる心を照らす　　　　揺之

こひを知る人は心に鍵をかけひとりの夜にしづかに泣けり

こひを知る人は心に鍵をかけひとりの夜にしづかに泣けり　　　　揺之

とほつ人松の木陰にいこひつつ君の夢見るうたたねの秋

とほつ人松の木陰にいこひつつ君の夢見るうたたねの秋　　　　揺之

うたかたの憂き世の船に櫓をさしてわれをいつはる人の悲しさ

うたかたの憂き世の船に櫓をさしてわれをいつはる人の悲しさ　　　　揺之

たらちねの母は悲しく子を捨てて身のさいはひを求めて去りき

たらちねの母は悲しく子を捨てて身のさいはひを求めて去りき　　　　揺之

去りたきと思ふ心を石にとめ月をあふぎてわづかにわらふ

去りたきと思ふ心を石にとめ月をあふぎてわづかにわらふ　　　　揺之

ためらひもまよひも捨てて明日をゆく高きみ空に広がる心

ためらひもまよひも捨てて明日をゆく高きみ空に広がる心　　　　揺之

あまのかはむかふの岸に君を見てただ袖を振る明け方の夢

あまのかはむかふの岸に君を見てただ袖を振る明け方の夢　　　　揺之

月夜にはこひに泣きてもゆるさると袖にかほをぞうづめたりける

月夜にはこひに泣きてもゆるさると袖にかほをぞうづめたりける　　　　揺之