【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

「政府の力を信じています」

2011年08月01日 06時26分36秒 | 第177常会(2011年1月)大震災・3党合意

[写真]首相官邸で、さいたま市立土合(つちあい)小学校の教員・生徒から横断幕を受け取った菅直人首相、2011年7月29日(金)、首相官邸、民主党ホームページ。

 さあいよいよ、8月のスタートです。太陽の活動が(人間から見て)もっとも盛んになる8月。

 菅首相も意気軒昂のようです。

 アモイに近い、中国の温州市で高速鉄道が追突して、死者が出る事故がありました。この事故車両を証拠保全ぜずに、行政当局が破砕し、穴に埋めるという、おそらく証拠隠しがありました。私はこれを見て、日本航空123便(羽田→伊丹)の墜落事故を思い出しました。自民党中曽根政権下で起きたこの事故でも、証拠隠しがあり、国交省運輸安全委員会も、群馬県警察本部も証拠を保管していません。この事故は、同じ飛行機が過去に伊丹空港で尻もち事故をついたときに、ボーイング社が修理したときに、不首尾があったために、上空で、垂直尾翼とそれにつながる圧力隔壁が破損したことで、操縦不能になったのではないかとされています。仮にそうなら、ボーイング社の修理担当者は、刑事訴追されるべきだし、損害賠償請求を受けるべきでしょう。法律上、裁判はできない可能性が高いですが、訴追は受けるべきです。しかし、事故原因を確定しないまま、証拠はすでになくなっています。

 日航機事故があった1985年は、日本にとってはおおよそ「(東京)オリンピック20年生、(大阪)万博15年生」です。
 中国は、まだ、おおよそ「(北京)オリンピック5年生、(上海)万博3年生」の段階にあります。

 日本航空と政府の癒着に加えて、東京電力と政府の癒着も明らかになりました。このように自民党長期政権の「がれき」の処理がうまくいかないからといって、菅直人首相を責めるのはお門違いです。阪神大震災のときは、情報が国土庁防災局で止まってしまうという問題がありましたが、15年経って、情報が官邸に集まりすぎて混乱しました。政治とは退屈なものであり、永遠の制度改革です。理想に到達することはありません。でも、情報が国土庁防災局で止まっている状態より、官邸内で混乱している状態の方が、民主政治の理想には近い。なぜなら、私たち有権者は、その組織(機構)の責任者の顔を思い浮かべることができるからで、中がどうなっているのか、新聞記事から想像しやすくなります。

 菅直人総理は2011年7月29日(金)、復興基本方針を全閣僚で決定し、記者会見しました。基本方針には「復興期間は10年間とし、復興需要が高まる当初5年間を“集中復興期間”と位置づける」「5年間の集中復興期間に実施すると見込まれる事業規模は国・地方あわせて19兆円以上見込まれる」「復旧・復興のための財源については、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合うことを基本とする」としました。

 復興基本方針の発表記者会見に先立ち、菅さんは、首相官邸でさいたま市立土合(つちあい)中学校=桜区=の教職員、生徒の訪問を受けました。横断幕には、

 「被災された方々の笑顔のため復興をなしとげてください!政府の力を信じています」

 「政府の皆さまが一丸となり一刻も早く日本を復興へ導いて下さることを信じています」

 との3ヶ月がかりのメッセージが書かれていました。

 菅総理はさっそくスピーチに取り込み、「政府の力を信じています」という言葉について、「胸に響いた」。震災復興や原子力災害の収束にむけて、がんばっていく考えをしめしました。

 ちなみに、政府は英語で、government 。

 この語源を調べてみました。govenment の源となる govern ですが、元来はギリシャ語のkubernan (= to steer a ship)で「舟を操る」という意味。それが、ラテン語に入り gubernare (=to steer , to rule)になりました。その後、古フランス語のgouverner となり、海を渡って、イギリスに入り、govern となったようです。なお、よく似た言葉である、rule に関しては、立憲的に支配するという単純な意味合いが強いのに対し、govern は政治的な支配の意味合いが強く、統治者の側に「権威」があることを強調する働きも含んでいます。

 ですから、「政府」を government ととらえた場合は、議院内閣制のわが国では、「選挙によって選ばれた国会」の権威が首相の権力の礎となります。ですから、行政権を有する内閣だけでなく、国会(衆議院と参議院)も、与党も、野党も含めて、governmentとになります。単に日本国政府をあらわす場合には、the Government と頭文字が大文字になります。日本語の法律では、「政府と地方公共団体」という言い方をしますが、the local government を含めても、the Government 、日本国政府は日本に一つしか存在しないことになります。

 したがって、私たちは、復旧・復興のために、「政府の力を信じる」しかないことになります。ちなみに自民党支持者においても、「政府を信じること」は衆議院の「自民党・無所属クラブ」や参議院自民党を信じることにつながります。英国流に言えば“フロントベンチに座る”民主党と自民党にとって、与党と野党とは、そのときの政府・government内での役割分担に過ぎず、衆議院本会議場で議長から見て最右翼に座るか、その次の中央付近に座るかの違いです。政府を変えるのは、次の第46回衆院選(あるいは参院選、補欠選挙)しか選択肢がないことになります。むしろこれは多くの国民が理解しているにもかかわらず、国会議員の方が自分を見失っている気がします。

 8月を迎えて政治状況に変化が生じています。いわゆる辞任3条件のうち、残る2つ(特例公債法案、再生エネルギー法案)の成立が、お盆明けの再来週以降にずれ込む見通しです。なぜなら両法案は、参院ではまったく審議されておらず、与党が衆院で強行採決するのはムリでしょう。一方、「新体制」で編成することになっていた第3次補正予算(案)ですが、すでに「復興の基本方針」ができており、編成作業の先送りは、野党が許さない情勢です。ということは、辞任3条件が成立する前に、新体制での第3次補正予算案の編成が進むことになり、次の第178臨時国会で補正の答弁に立つのは、菅内閣ということになりそうな気配です。

 総理というか、菅さんがこのことに気付いていないわけはなく、意気軒昂に総理を続けるのではないでしょうか。

 菅総理や、心ある与野党議員に力強く、政府を前に進めて欲しいところです。

 精神力の強い菅直人。

 その一方で、残念な出来事がありました。菅さんと同じ団塊の世代の海江田万里経産相(鳩山グループ)が国会内で泣き出すできごとがありました。どのようなことであれ、これでは困ります。海江田さんは以前から辞任を示唆していますが、そのときの表現として法案が成立したら「責任を取る」と言っています。しかし、「引責辞任」という4文字熟語からも明らかなように、「責任を取る」という言葉自体に「辞任する」という意味合いはありません。原子力災害に「責任を取る」のなら、東電福島第一原発が冷温停止し、核燃料を取り出し、発電所を解体し、跡地の土を除染するまで責任を取って大臣を続けてもらわないといけません。おそらく、30年はかかるでしょう。それと比べれば、大臣を辞めて一人の政府外議員に戻ることなどカンタンなことです。今すぐ辞めたらいい。

 
[画像]号泣する海江田万里経産相(鳩山グループ)、テレビ朝日ニュースから。

 アメリカの上院議員では、海軍出身者が多いのですが、日本では、村井嘉浩・宮城県知事、佐藤正久・自民党シャドウ防衛副大臣など、防衛大学→陸上自衛隊幹部が「3・11」以降の「正念場(性根)場」で、頼もしさを感じさせています。民主党にも心の強い人材はいて、トヨタ自動車販売で鍛えられた直嶋正行さん、NHKで鍛えられた安住淳さん、NTTの田嶋要さん、JR西日本の三日月大造さんなんかは精神力が強いなと感じさせます。三井物産出身の風間直樹・参院議員も政務三役経験がないので分かりませんが、かなり心が強いと感じさせます。民主党にもまだまだ人材はいて、そのローテーションが早まっているだけです。

 私は一人の日本国民として、政府の力を信じています。

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