昭和59年か60年頃のこと、旭川のある診療所で働いていた時のことです。
ある年配の御兄弟(姉と弟)のところへ、看護師と事務で訪問していました。
まだ、訪問看護が制度化されていず、受診もままならず、いわば持ち出しの訪問でした。
スカスカ風の通るようなあばら家で、ご兄弟二人で、文字通り、身を寄せ合って暮らされていました。
看護師は、魔法瓶に入れたお湯とタオルを持参し、清拭をしていました。
こんなふうに暮らしている方がいる。
別世界のようなことに、とても驚きました。
しかも、私は、病院の経験だけで、診療所や訪問は初めて。
お宅へ行く前に、ある男性事務員の方が、「この人たちとの関係は、色々あってやっとここまで来た。くれぐれも、今のままで」みたいなことを言われました。
きっと、私が病院の経験を持ち出して、いろいろ余計なことをしないかと、ひやひやしていたのだと思います。(笑)
人は、どうしても、これがいいと自分の考えを押し付けたりしがちです。
良かれと思って、患者さんの生き方に、ずかずかと足を踏み入れることにもなったり。
一方、専門家として必要な大事なことを、充分理解できるように説明することも、なかなか難しいことです。
若い私は、そんなことはわかりませんでしたが、何か、毅然として生きているご兄弟だと感じました。
人に寄り添うことは、相手を認めるということ、相手を主語にして考えること。
患者さんや、時間をかけて信頼関係をつくってきた先輩に、多くのことを学び、感謝しています。