「官僚が学んだ究極の組織内サバイバル術」(久保田崇著 朝日新書)を読みました。
内閣府の官僚として霞が関の中で仕事をするうえでの仕事の作法に始まって、直面する様々な壁や障害への対処の方法、そして部下としてあるべき振る舞い方、中間管理職としての振舞い方、最後にはトップとしての振舞い方までこれまでの人生の中で培った組織の中を生きる指南書。
著者の久保田さんは今は掛川市の市長でもあり、まさにトップとして大勢の部下を指導しながら政策を実現する立場です。
しかし本書は新人のペイペイの頃の失敗談もあけすけに披露しながら、そこから得た教訓によって自らが成長してきた過程を紹介する具体的なサバイバル術の紹介にもなっています。
久保田さんは内閣府の官僚時代に、被災地でのボランティアをしたことが縁になって、東日本大震災で被災した越前髙田市の副市長就任を打診されます。
2011年、弱冠35歳の時の話です。
越前髙田市は東日本大震災の被災自治体の中でも最大の被災地の一つと言え、死者行方不明者は1,700人を超え市役所も全壊した状態だといいます。
本の中で著者は「自分自身の経験がこのような非常事態に役に立つのか、考えれば考えるほど不安でしかありませんでした。…しかしその反面、非常にやりがいのある仕事にも感じました」と決意を述べています。
国家公務員は紙一枚の人事異動でどこにでも飛ばされる、と言われますが、実際はこのような通常ではない人事異動は本人の意思と決意が尊重されます。
誰も知っている人のいない組織へ飛び込む不安、そこで期待される働きができるのかどうかの不安など、わけのわからない未来に飛び込むには自分自身にその覚悟がなければ務まらないからです。
私が掛川で経験した以上の大変さを私よりもずっと若くして経験されているからこその、まさに上司、同僚、部下、そして組織の中でどうやって仕事をこなしてゆくかの知恵の一書です。
そんな著者のサバイバルのための一丁目一番地は、「組織内の敵は人間関係である」というこの一点です。
そしてどうやって組織の中で人間関係を築きそれをより良いものにしてゆくかのノウハウが著されているのが本書です。
具体的には、「最も注意を払うべきは直接の上司」「内なる人脈を作れ」「敵を作るな」「正攻法がダメなら…」「部下の仕事を奪うな」「大きな壁こそチャンス」などがあり、加えて「ブラックな職場からは身を守れ」と、何から何までぶつかって突破することが最善ではないというのは極めて現実的です。
さらには「こんな上司にはどう対応するか」では、いかにも霞が関にいそうな苦手なタイプの上司の姿が描かれ、それへの対処が示されます。
それ以外にも「部下を持ったらどうするか」「敵を作らないためにはどうするか」などの具体的な方法が示されます。
これができれば霞が関の荒波を超えて行くことも平気になること請け合いのスキルが満載です。
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しかしノウハウが示されたとしても、それを自分自身が実践することはなかなかに大変です。
仕事の処理能力は前提であり、そのうえで忍耐や勇気、逃げない胆力など、書かれていない自分自身の能力が備わっていることが前提だからです。
こうした前提条件がそろっているからこそ習得できたとも言えそうです。
トップとしてのあるべき振舞いも理解されているので、市役所職員はきっと仕事がしやすいだろうなあ、とうらやましくもあります。
組織の中で長く仕事をした自分としては、「もっと早く知っていれば楽だったろうなあ」と思うので、若い組織人には人生の早い段階で読んでおくことをお勧めします。
そうそう、来週お会いした時にはサインをもらおうと思います。(笑)
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