北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

需要喚起の経済よりも供給制約への対応を ~ 「ほんとうの日本経済」が示す近未来

2024-10-22 22:02:25 | 本の感想

 

 内地の知り合いの役場の方が訪ねて来てくれました。

 なんでも翌日に北海道日本ハムファイターズのホームグラウンドである、北広島市のエスコンフィールドを見学に行くとのこと。

 エスコンフィールドは多くの視察者を招き入れることで出張先経済に貢献しているかもしれません。

 実際エスコンフィールドでは、野球の試合やイベントがない日は無料で見学できますし、有料で一般人は通常入れないベンチやグラウンドまで入れる「スタジアムツアー」があります。

 料金は3種類で、学生団体ツアーが1000円、ベーシックツアーが平日1800円(土日祝は2300円)、プレミアムツアーが平時3500円(土日祝は4500円)となっており、子供はどの日でも1000円となっているとのこと。

 無料で入ってグルメを堪能するも良し、少しお金を払って奥まで見せてもらうのも良し。

 まずは見たもの勝ちというところでしょうか。


      ◆


 今回訪ねてきた知人の町では、周辺から人を招くような集客施設を造る計画があるそうで、さすがにエスコンほどのことはできないでしょうけれど、集客とは何かを考える一つの参考になるかもしれません。

 ただ気になるのは需要喚起型の集客施設は短期的に成功したとしても中長期的に地域に貢献し続けることができるのかをしっかりと吟味したほうが良いということです。

 先日、『本当の日本経済 データが示す「これから起こること」』(坂本貴志著 講談社現代新書)という本を読みました。

 著者の坂本さんはリクルートワークス研究所の研究員で、この本もリクルートワークス研究所の「未来予測2040プロジェクト」の研究成果の一環としての執筆だそうです。

 そしてこの本の要諦は以下の点にまとめられます。

①日本はこれまでは「需要不足の経済」だったが、これからは人口減少によって「供給制約の経済」になる

②「供給制約の経済」とはつまり担い手不足・人手不足になり、その減り方が年々急激になってゆく

③その結果、国民の労働参加率は限界まで上昇して、女性や高齢者も良い賃金で働ける環境が整備される

④またその結果として人の取り合いになることで、正規/非正規を問わず賃金は上昇するし、その負担に耐えられない企業は退出せざるを得なくなる

⑤人口減少と少子高齢化という社会構造の変化によって、日本社会の需要構造が変化して、最大の産業は医療介護業界になる

⑥企業は人手不足に対して、省人化への投資が盛んになり省人化のための技術開発も進む

⑦また、これまで必ずしも賃金に反映されていなかった見えないサービスができなくなりやがて現在のようにフリーアクセスできていた対人サービスが減少してゆく


 …というのが著者の論点です。

 本の中にはこれらを先読みして、各業界でこれまでにも省人化のための試みを行っている企業も紹介されています。

 これらの動きはますます盛んになり、省人化できた企業は生き残り、資本投下と共にそれができなかったところは続けられなくなるでしょう。

 これまでは地域の末端にまで経済を行き渡らせる血流は公共事業だと思われていましたが、これからはそれは医療・介護事業になってゆく、と著者は指摘します。

 地元に仕事がないから都会に出て行くという人に対して、介護業界であれば地元にも仕事はありますよ、ということになる、と。

 数多くのデータと資料を読み込んで労働環境の変化や社会変化を明らかにした良書です。

 
      ◆


 著者は、「かつては大量の安い労働力を簡単に手に入れられたために労働者は安く使われていたが、これからはそういう社会は来ない」と言います。

 また、少子高齢化・人口減少という構造変化を前提として、「では外国人労働者の受け入れをどうするか」とか「果たして医療介護制度は持つのか/持つためには」ということや、都市をどう保つか、少子化に対して本当にどう向き合うのか、といった"論点"を示して、読者にも考えることと行動することを促します。

 少子高齢化と人口減少が、今住んでいる町での自分の行動にどのように影響して自分はどうすべきなのか、を考える良いきっかけになる良い本です。

 ご一読をお勧めします。

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