山の上のロックの永~い旅(3)

2017-11-18 09:18:10 | 童話
何年か経った後の大雨で僕は少し動き出したのを感じた。ズズッ、ズズッと松の木のおじさんの根元が少しずつ遠くなってきだした。
『松の木のおじさん、僕は海に向って進み始めたみたいだ。おじさん、また今度ね。』
『あいょ、元気でなぁ。』
『兎さんや友達のみんなも元気でね。』
『バイバ~イ。』
『みんな、みんな、楽しく遊んでくれてありがとう。バイバ~イ。』
『みんな見えなくなってしまった。』

僕はズズッ、ズズッと森の中を滑って行った。
今度は転がらないので楽だったが、ゆっくりと時間をかけて移動して行った。
ズズッ、ズズッとゆっくりと滑っているので、蛇やネズミやリスたちにも追い越されたが、ず~と動いて行った。

暫くすると水の流れる音が聞こえ始めた。
『あっ、冷たい。』
僕のお尻と背中が水の中入った。
『ここは小川だ。』
僕はきれいな水が流れている小川の中で止った。
山の上からの雪溶け水が流れ込んでいる場所なので水が少なく、魚は居なかった。

『あっ、トンボの子供のヤゴが居る。僕の名前はロック、ヤゴ君は冷たくないの?』
『ずっと水の中に居るから冷たくないよ。』
『ここは水も空気も綺麗で気持ちがいいね?』
『そうだね、山の上のように寒くもないしね。』
『僕は山の頂上から転がって来たんだけれど、ヤゴ君はどうして山の頂上の事を知っているの?』
『僕は行った事は無いけれど、僕のお父さんとお母さんが言っていたよ。』
『お父さんとお母さんは一緒じゃないの。』
『僕たちトンボは、お母さんが水の中に卵を産んだら飛んで行くから、ヤゴの兄弟だけで暮らすんだよ。』
『寂しくないの?』
『兄弟がいっぱい居るから寂しくないよ。』
『ヤゴ君はいつトンボになるの?』
『来年かな。』
『それまで僕とここに居られるね。』
『トンボになって飛んで行ったみんなも、呼べば遊びに来てくれるよ。』
『では、ヤゴ君、トンボのみんなを呼んで、一緒に遊ぼうよ。』
『じゃ、これからみんなを呼ぶね。』
ヤゴは水の中で短い羽根を震わせた。そうして水面が震えるのを見たトンボが集まって来た。


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