徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

柄巻師(柄巻に見る日本の美と技)

2012-07-09 13:51:17 | ブレイク
ヤマハ発動機株式会社様の会報誌『 Y.T.S.ジャーナル 2012 No.74 』にて、柄巻師(柄巻に見る日本の美と技) と題し、当工房をご紹介頂きました。



柄巻師 TSUKAMAKISI

柄巻に見る日本の美と技

柄の部分に柄巻がされている傘を見たとき「カッコいい!」と思ってしまった。
衝動買いをして歩いていると外国人に「KATANA?」と聞かれ
ニヤニヤしながら「アンブレラ!」と答えた。それほど柄巻と日本刀はイメージが重なっている。
柄巻は世界に通用する日本オリジナルのデザインではないだろうか。
そんな思いから今回柄巻師大塚さんに柄巻についてお話を聞きにいった。


柄巻は日本刀の顔

 柄巻は日本刀を持つ柄(グリップ)の部分に柄糸(平織りのひも)を巻いたものである。日本刀のほとんどは柄巻をしているが、柄巻をせず白木や鮫皮を貼った状態の刀もある。日本刀の顔といってよい柄巻きは滑り止めと装飾を兼ねていて時代や流派により様々な巻き方がある。その柄巻を作るのが柄巻師であり、日本刀の外装(拵)をつくる職業の1つである。そのほかにも、鞘を作る鞘師や鞘に収めたとき刀身を固定させるハバキという部品を作る白銀師・鍔を作る鍔師などに分業化されている。

柄巻師という仕事

 柄巻師大塚さんの工房は北鎌倉に近い横浜市にある。なぜ柄巻師になったのかうかがった。子供の頃から海外環境に多く接してきた経験上、自分のアイデンティティーの根幹である日本文化に興味を持ったそうだ。剣道を始め居合道へ進み、そこから日本の伝統を伝える仕事に就きたいと大学に通いながら柄巻の修行をしていた。その後就職もしたが柄巻の修行を5年続け、砥師の修行も5年間したのち独立した。拵と砥ぎを一人でおこなうことができるのは唯一大塚さんだけである。修復のための漆塗りや柄糸の染色もおこなっているため拵師という名称も使っている。高学歴で海外経験が豊富という、私が思っていたイメージからはかなり違っていた職人さんだった。今はそのような職人の方も多いそうである。大塚さんの工房には現代の刀匠が打った刀や鎌倉時代の歴史的に重要な刀まで持ち込まれ依頼者の意向に沿うように拵が制作される。中には刃こぼれがあり実際に使用されたものもあるそうだ。
 実際に何本かの日本刀を持たせてもらった。落としてはいけないし、やはり緊張する。ズシリとした重さの中にも軽快感がある不思議な感覚だ。手を滑らしてはいけないので柄巻の重要性はよくわかった。また、日本刀によって重さもかなり違うことが発見である。とても錆びやすいので慎重に扱う必要があるとのことでした。

日本刀を文化として考える

 大塚さんは「日本刀を文化として広く認知してもらいたい」という話をされていた。世界で一番と言ってよい厳しい銃刀類の規制がある日本で刀が作り続けられている理由は、危険物としての一面はありながらも美術品としての価値が日本のみならず世界に認められているからである。
 外装の美しさばかりでなく鈍く光る刀身を鑑賞の対象とする刀剣は少ない。(刃紋のあるダマスカス鋼で作られたカスタムナイフなどは存在する。)
 歴史的にも日本独自の折返し鍛錬方法で鍛えられた日本刀は「折れず曲がらずよく切れる」ことで知られ優れた武器として明時代の中国へ輸出されていた。
 文化遺産としての日本刀の価値もある。平安時代前期までの真っすぐな両刃の剣から後期には片刃で反りのある日本刀の形に変わり、以降800年間基本的な姿は変えず作り続けられている。現在、日本には500万振りあまり現存しているそうである。その中には平安時代や鎌倉時代から引き継がれた刀も少なからず存在する。これほど刀剣が人の手により受け継がれ残っている国は世界に類を見ない。多くの国で不要になった刀剣は打ち棄てられまた死者とともに葬られ、出土という形で発掘されるため考古学の対象となっている。たしかに台湾の故宮博物院の目録を見ても武器はない。西洋でも教会に武器を奉納する習慣はないのではないだろうか。ヨーロッパや中国などと違い武官と文官が明確に分けられていなかったことや、平和な江戸時代になり武士の仕事のほとんどが行政にかかわるものとなっても「武士の本分」が刀を持って戦うことであることを忘れず受け継がれた。また、ヨーロッパで銃器の発達した17~18世紀に鎖国政策ときびしい銃器の管理により刀から銃器への移行が起きなかったなどが理由ではないだろうか。
 現在日本刀を作っている刀匠の数は350人しかいない、また一人の刀匠が作る事を許可されている本数は年24本に制限されている。伝統工芸品である日本刀の需要は根強いが職人の数は減っていて高齢かも進んでいる。その中で大塚さんは歴史を踏まえながら技術の継承のため新しいことに挑戦している。柄巻をした自動車のステアリングホイールやサイドブレーキまたバイクのグリップ(濡れると水を吸い評判はよくなかった)を作ったことがあるそうです。さらに、職人としての技術の向上と日本刀を文化として広めるため日本刀文化振興協会の幹事として活動して日本刀のファンを増やそうと活動している。

(松尾、仁志)

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