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サミットで国家神道の中心「伊勢神宮」訪問はなぜだ? 安倍首相が改憲と戦前回帰を目論みゴリ押し
G7伊勢志摩サミット公式ホームページより
明日5月26日から三重県志摩市で行われるG7首脳会議、「伊勢志摩サミット」。安全保障や経済政策など、喫緊の課題が目白押しだが、安倍政権はそんなことよりもこの間、必死になっていたことがあったらしい。それは、サミットに参加する各国首脳に伊勢神宮を参拝させることだった。
「官邸から各国首脳の伊勢神宮参拝を実現させろ、と至上命令が下っていて、外務省は各国政府と交渉を続けていたようです。
当初はファーストレディだけが訪問する、という回答だったのですが、官邸は『首脳本人に参拝させろ』と頑としていうことを聞かない。必死で働きかけた結果、正式参拝はやはり、政教分離に抵触すると拒否されたが、各国首脳全員が内宮の『御垣内』にいき、自由に拝礼するということをなんとか承諾してもらった」(外務省担当記者)
いったい安倍官邸はどういう神経をしているのか。そもそも、皇祖神を祀る伊勢神宮は、戦前・戦中日本を支配していた「国家神道」の象徴である。
明治政府はそれまで民間信仰であった神道を、天皇崇拝のイデオロギーとして伊勢神宮を頂点に序列化した。そうすることで、神道を“日本は世界無比の神の国”という「国体」思想の装置として、祭政一致の国家主義、軍国主義に突き進んでいったのだ。戦後、国家神道は崩壊したように思われているが、現在でも神社本庁は伊勢神宮を「本宗」として仰ぎ奉り、その復権を虎視眈々と狙っている。
そんな場所にG7首脳を連れて行き、事実上の参拝させるなんていうのは、開催国特権とどさくさに紛れて、戦前・戦中の「神国日本」復活を国際社会に認めさせようとする行為としか思えない。
いや、実際、安倍首相は明らかにそういう意図をもっているはずだ。これはけっして妄想や陰謀論ではない。そもそも、安倍首相がサミット開催地を伊勢志摩に選定した時点で、伊勢神宮参拝はセットになっていた。いや、もっとえば、安倍首相は伊勢神宮参拝を実現するために、伊勢志摩に決めた可能性が高い。
もともと、サミットの開催地には、長野県軽井沢町をはじめ、宮城県仙台市や兵庫県神戸市、静岡県浜松市など7つの自治体が、2014年夏の段階で立候補に名乗りを上げていたが、伊勢志摩の名前はなかった。三重県は関係閣僚会議の開催地こそ誘致に動いていたものの、サミット自体については立候補すらしていなかったのだ。その年末には外務省の現地視察も終え、当初は、長野五輪で県警に警備実績がある軽井沢が有力とみられていた。
ところが、15年にはいると、突如として三重県の鈴木英敬知事が立候補を表明する。これは立候補した自治体のなかでもっとも遅い“後出し”だったが、形勢は一気にひっくり返り、伊勢志摩開催に決まってしまったのだ。
サミット会場予定地の賢島が警備しやすいから選ばれたとの情報も流れたが、これは後付けだ。実際は、安倍首相の「各国首脳を伊勢神宮に参拝させたい」という“ツルの一声”で伊勢志摩に決まったのである。
ポイントは昨年1月5日、安倍首相が閣僚らとともに伊勢神宮を参拝したときのこと。朝日新聞15年6月6日付によれば、その際、安倍首相が「ここはお客さんを招待するのにとてもいい場所だ」と口にした。これを聞いた首相周辺が、同行していた鈴木英敬三重県知事に「サミット候補地として立候補すればいい。いま直接、首相に伝えるべきだ」と進言したという。そして、鈴木知事が「今から手を挙げても間に合いますか」と訊くと、安倍首相は「いいよ」と即答したというのだ。
鈴木知事はもともと経産省の官僚だが、第一次安倍政権が発足した際に内閣官房に出向し、参事官補佐という肩書きで教育再生を担当。そして、08年に経産省を退職し、翌年、自民党から衆院選に出馬(落選)しているまさに安倍首相の子飼いと言っていい存在だ。
また、鈴木知事は神社本庁とも非常に深い関係にあるという。
「鈴木知事は育休を取得し「イクメン知事」と呼ばれるなどソフトな印象もあるが、日本会議三重の総会にも参加しており、改憲や復古的傾向の強い若手政治家の政治団体「龍馬プロジェクト」の「首長会」会長も務めているなど、思想的スタンスは右派。さらに、関西の神社で宮司を務める神社本庁幹部とも親しく、これまでの知事とは比べものにならないくらい神社本庁との距離が近い。神社本庁関連の会合にも頻繁に出かけている」(三重県関係者)
そんなところから、このやりとりは、安倍首相、神社本庁、鈴木知事の三者による出来レースではないかと言われているのだ。
「伊勢志摩サミット、各国首脳の伊勢神宮参拝の計画は、安倍首相と神社本庁幹部の間で、話し合われ、進んでいたフシがある。ただ、安倍首相や神社本庁が言い出すわけにはいかないので、両者をつなぐ“手下”の鈴木知事に立候補をさせたということでしょう」(官邸担当記者)
この背後にはもちろん、彼らに共通する改憲、戦前回帰への野望がある。安倍首相は今、悲願の改憲に向けてさまざまな動きを展開しているが、そのパートナーが日本会議と神社本庁なのだ。本サイトでも記事にしたが、神社本庁は全国の神社に指令を出して、神社の改憲の署名運動も展開している。
つまり、伊勢志摩サミットはこの改憲運動のパートナーへの安倍首相によるプレゼントという意味合いが強いと考えられるのだ。
実際、神社本庁はこのサミットを大歓迎している。機関紙である「神社新報」を見ると、やはり、伊勢志摩サミットを機に勢力拡大につなげようという意識が垣間見えるのだ。
たとえば、16年1月1日付では、鷹司尚武・神宮大宮司が〈この(伊勢志摩サミットを)機に日本の文化の真髄ともいへる神道が広く理解され、神宮や神社への関心が昂ることを期待してをります〉と紙面で語っている。また、3月5日に行われた神宮大麻暦頒布春季推進会議でもサミットに触れて〈外国人参拝者の増加〉や〈国民への神道の理解を促すこととなり、頒布に繋がり得る〉旨を述べていた(3月14日付)。ちなみに、神宮大麻とは〈明治天皇の思召により〉(伊勢神宮公式サイト)全国の神社が頒布している神札のことで、家庭の神棚に祀られる。もちろんそれ自体が有料である。
ようするに神社界から見れば、伊勢志摩サミットは“布教”の絶好の機会であるとともに、“懐”も潤沢になるというわけだ。
もちろん、サミットでの伊勢神宮参拝は、安倍政権にとっても、追い風になる。サミットをきっかけに神社がより存在感を高めれば、改憲運動はさらに広がりを見せるだろうし、国家神道や歴史修正主義への抵抗感を取り除いていくことができる。そして、彼らが最終目標として掲げる、明治憲法的価値観の復権にまた一歩近づくことになる。
実際、このサミットを利用した伊勢神宮参拝の問題を無視し続ける国内メディアとは対照的に、海外メディアからは厳しい指摘がされている。英紙「エコノミスト」(電子版)は5月21日付で、神政連の政治的影響力の強大さを指摘しつつ、サミットでの伊勢神宮参拝が〈戦前日本の政治家が侵略帝国主義を推し進めるために偽装した神道に対し、G7が国際的信用のお墨付きを与えることになる〉と危惧する。
安倍首相のいう「日本の美しい自然、そして豊かな文化、伝統を世界のリーダーたちに肌で感じてもらえる、味わっていただける場所」なる甘言にだまされてはいけない。伊勢志摩サミットを利用した伊勢神宮参拝は、確実に、安倍政権による戦前回帰の“隠れざる一手”なのだ。
(宮島みつや)