「北朝鮮発表は“非核化”宣言ではない」「正式な核保有国への手続き」と米専門家
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北朝鮮が4月21日から、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を中止し、北部の核実験場を廃棄すると発表したのを受け、アメリカでは、トランプ大統領がすかさず「非常に良いニュースで、大きな進展だ」とツイートした。
しかし、金正恩朝鮮労働党委員長が4月27日に予定されている韓国との南北首脳会談、さらに、過去に実現できなかったアメリカ大統領との会談を控え、「会談をスムーズに運び、金委員長にとって歴史に残る成果にするための発表で、会談後、元に戻せる」と指摘する専門家もいる。
今回の発表は“非核化”宣言ではない
政治ニュース専門サイト「Axios」によると、ジョージ・W・ブッシュ政権の米国家安全保障会議(NSC)メンバーが、こう指摘しているという。
「首脳会談が近づく中、核・ミサイル実験を中断することぐらい、何でもない。(会談が終わったら)元に戻すことはできる。(一時しのぎの)目薬みたいなものだ」
米戦略国際問題研究所(CSIS)の韓国部長ビクター・チャもAxiosにこう語った。
「北朝鮮はこれまでの交渉で、実験を中止すると言明していた。今回の発表は、その約束を正式なものにしたものだ。発表は、核による先制攻撃をしない、核兵器・核技術の移転をしないというのに触れている。つまり、責任ある核兵器保有国家になる場合に条件となってくる項目だ。従って、今回の発表は“非核化宣言”ではない。これは、北朝鮮が、責任が持てる核兵器保有国家になることができるという宣言だ」
「それを信じる人はいないが、北朝鮮がそれでトランプを説得することができれば、それこそ、彼らが欲しているものだ」
つまり今回の発表は、北朝鮮側としては手続きを踏んだ意味があるもので、「ひょうたんから駒」ではない、その見返りに欲しているのが、米朝首脳会談の成功という見方だ。
見返りにアメリカは何を持っていけるのか
さらにチャ氏は、「最も関心がある問いは、北朝鮮が先手を打って示した妥協に対する見返りとして、アメリカが何を持っていけるかということだ」と、トランプ政権の出方が今後の焦点になるとしている。制裁措置解除なのか、平和交渉や国交正常化なのか、北朝鮮がのどから手が出るほど欲しがっているものがあるが、トランプ大統領のツイートからは、まだ方向性が見えていない。
トランプ大統領は北朝鮮の発表に先立つ4月19日、米朝首脳会談の見通しについて、強硬姿勢を見せていた。
「もし会談が成功しないと思ったら、会談には行かない。会談にこぎつけても、生産的なものでなければ、途中で立ち去るだけだ。北朝鮮が非核化するまで、最大のプレッシャーをかけ続ける」(日米首脳会談後の共同記者会見より)
こうしたトランプ氏の発言から、北朝鮮が実験中止という発表で先制し、アメリカと韓国政府にシグナルを送ったとすれば、北朝鮮が「一枚上手」だ。
Axiosのマイク・アレン氏は、
「金正恩氏は、トランプ大統領の『アート・オブ・ディール(トランプのビジネス書の題名、邦題「トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ」)』から学んだのかもしれない。トランプに勝ちを持たせろ、少なくともトランプが勝ったと思うようなもの、あるいは勝ちになりそうなものを、という教訓だ」
と指摘した。同書には、トランプ大統領がビジネス交渉の際、話題作りなどで優位な立場になるように先制攻撃を仕掛け、取引を有利に運んできた様子が書いてある。今回は、金正恩が先手を打ったわけだ。
祖父も父も成し遂げなかった“偉業”
「金正恩は、賢明な一手を打った」
マサチューセッツ工科大学(MIT)の政治学准教授ヴィピン・ナランも、CBSニュースにこう語った。
「発表は、将来相手を出し抜く余裕を持たせてあるものだ。逆戻りできないという事柄は、一つも含まれていない。非核化の文言もいかなる形でも含まれていない」
金氏は発表を決定した20日の党中央委員会総会で「国家核戦力建設という大事業を短い期間で完璧に達成した」とし、核実験場は使命を終えたとした。総会で採択された決定書によると、核実験中止を
「世界的な核軍縮のための重要なプロセスだ。我が国は、核実験の全面中止のための国際的な志向と努力に合流する」
としている。
一方で、アメリカのメディアによれば、金正恩氏はアメリカ大統領と会談する初の労働党委員長となる。祖父・金日成、父・金正日も達成できなかった「偉業」を成し遂げることに、北朝鮮が、全力で成功に導こうとしているのは必至だ。
トランプ大統領に表面的に花を持たせたとしても、「偉業」を成功させるための戦略を、北朝鮮首脳と初会談する米大統領となるトランプよりもかなり真剣に練っているのがうかがえる。
(文・津山恵子)