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NPPV≪気管切開をしないで済む方法があります。あきらめないで!≫全国から患者が集まる「駆け込み寺」=北海道・八雲病院(石川悠加先生)

2016-09-13 01:33:44 | 福祉 高齢 障がい

 石川先生と出会い、危ないところを助けて戴きました。

ディシャンヌ型筋ジストロフィーである私の息子は気管切開しないで済みました。

年に一回、北海道八雲病院へ検査入院するだけで、人工呼吸器と電動車いすで自宅で暮らしています。

 ときには、時間のかかるドライブにも出かけられます。夢のようです。NPPVのおかげです。石川先生、本当にありがとうございます。(ブログ主)

 

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160908-OYTET50023/より転載

2016年9月12日

編集長インタビュー

石川悠加さん(1)全国から患者が集まる「駆け込み寺」に

石川悠加さん(1)全国から患者が集まる「駆け込み寺」に

体に負担の少ない人工呼吸療法の伝道者として世界的に知られる石川悠加さん

 

 函館市から北へ約100キロメートル。周辺には牧場や海が広がる北海道南部の片田舎に、全国から呼吸が困難な患者が救いを求めてやってくる病院がある。筋ジストロフィーの専門病棟がある「国立病院機構八雲病院」(北海道八雲町)だ。「気管切開をしたくない」「体に合った車いすや生活用品を作りたい」――。そんな患者の声に応え、同病院診療部長の石川悠加(ゆか)さん(56)は、体の負担が少ない人工呼吸療法を広め、重い障害があっても充実して生きられる診療態勢を約30年かけて創り続けてきた。難病患者や障害者に限らず、いつかは誰もが病気になり、年を取って体が不自由になる。相模原事件が起きた今こそ、石川さんに生活を支える医療について話を聞きたいと思った。

 筋ジストロフィー病棟が120床、重度心身障害者病棟が120床、筋ジストロフィーの患者のほとんどは人工呼吸器をつけている病院というと、読者の皆さんはどのような雰囲気を想像するだろうか。

 併設の養護学校に通う子どもは水泳を楽しみ、若者は室内ホッケーで盛り上がり、口から食事を味わい、東京の大学とインターネット会議で議論する女性もいて、どこもかしこも活気がある。気管切開の必要がない人工呼吸療法を選び、水や食事にむせても素早く吸引できる機械を準備し、車いすやパソコン機器をひとりひとりに合わせて改造するなど、石川さんがスタッフと共に培ってきた様々な医療やケアがあって実現している日常だ。

 「iPS細胞などの技術で治療薬の開発も期待できるようになりましたが、『治る』という方向にばかり目が行ってしまうと、今ある生活を肯定できなくなってしまう方もいます。治る希望は持ち、どんどん実現が近づいている治療法を待ちながらも、同時に『今のあなたの生活と命をどうやったらより良くできるかという工夫を、今、一生懸命考えようよ』と伝えたいのです。がんのような病気では、治療法の開発と並行して、最後までより良く生きるための医療や社会政策が考えられ、患者は両輪で進めるのに、神経筋難病の場合は片輪ばかりに注目が行きがちではないかと気になります。ただ、私たち医療者も、どのような方法で生活を充実させたらいいのかよくわからないので、『一緒に考えて、一緒に創っていこうよ』と、“うちの子たち”と試行錯誤しています」

 

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NPPVで顔にあてる様々なタイプの空気の取り込み口。鼻マスクタイプ、鼻ピロー(プラグ)タイプ、マウスピースタイプなどがある。このイラストは八雲病院の患者がパソコンを使って作成した


 「うちの子たち」と患者を呼ぶ、病院の「肝っ玉母さん役」の石川さんは、1990年の赴任以来、現在院長を務める夫と敷地内の官舎で暮らし、夜中でも患者のもとに駆けつける生活を続けている。専門に診る筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症などの神経筋難病は、徐々に全身の筋肉が衰えて、自力での呼吸も難しくなる病気。いずれ人工呼吸器が必要となることが多いが、石川さんはその中でも「NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)」という気管切開が必要ない人工呼吸療法を普及させる活動で、世界的にその名を知られている。石川さんらが書いたNPPVマニュアルは英語、イタリア語、スペイン語に訳され、石川さんらの報告を受けて、イタリアでは気管切開からNPPVへの転換を進めていくことが宣言された。

 NPPVは、鼻マスクや、鼻の穴に浅く差し込む鼻プラグ、マウスピースをくわえる方法など様々な形=図=で空気を取り込む方法があり、喉に穴を開けたり、気管に管を直接差し込む必要がない。石川さんは1991年に初めてこの方法に成功して以来、人工呼吸器が必要なすべての患者にまずこの方法を選ぶようになった。

 「口や鼻から気管内に管を通す気管挿管や、喉に開けた穴から管を気管に通す気管切開と違い、感染の危険も減りますし、痰(たん)を吸引する必要もなく、介助者の負担もかなり軽くなります。発声にも影響がないので、コミュニケーションに特別な手段を必要とすることもありません。子どもの場合、多少ぶつかってマスクなどがずれてもすぐに戻せて、きょうだいや友達との遊びやスポーツも制限が減りますから、孤立も防げる。医療的なメリットはもちろん、気管切開よりも生活の制限が少なく、社会参加もしやすくなる人工呼吸療法なんです」

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障害があっても水泳を楽しんでいる

 だが、NPPVにも欠点はある。咳(せき)が弱くなり、自力でうまく痰や詰まったものを出せない場合は、窒息の危険もある。介助者が手で胸を圧迫したり、空気を吸引する機械を使ったりして、咳を介助する技術が必要だ。さらに圧力、空気量などの設定やマスクが合っていないと、空気漏れや体調不良の原因にもなり、医療者のコツやこまやかなケアが鍵を握る。そして、一番の問題は、全国どこの病院でもNPPVが付けられるわけではないということだ。


 「私たちは、福岡、名古屋、大阪、京都、東京、福島など、全国から患者を受け入れていますが、遠くから来る場合は、『気管切開をしたくない』という動機が一番多いです。
 東京の病院の集中治療室(ICU)から挿管チューブを気管に挿したまま、飛行機に乗ってうちに来た患者もいました。『命を助けるには気管切開しかないと言われましたが、避けられる技術があるのならば避けたい』と、ご主人が電話で問い合わせてきたのです。ICUの医師は当然、付き添おうとしたのですが、その上司から『そんな勝手なことをする患者には付き添わなくていい』と言われたそうで、私と院長が東京まで迎えに行きました。転院を希望する患者の搬送の付き添いを拒否する病院に迎えに行ったことは何回かありますね」


 その患者はポリオの後遺症で呼吸が弱くなった60代の女性で、アジアの障害者運動に関わり、英語で司会をする役割も果たしていたため、気管切開で声が出しにくくなるのを恐れていた。八雲病院でNPPVをつけ、夜間に呼吸を補助するようになって体調が回復。今も障害者運動のために海外に出かけたり、本を執筆したりして積極的に社会活動を続けているという。

 「そういう姿を見るとうれしいですよね。気管切開をしても訓練で声の出る方はいますが、彼女の場合、気管切開の吸引に必要なきれいな水が手に入りにくい開発途上国にも行くので、『もし気管切開したら、活動をあきらめざるを得なかった』と言っていました。また、脊髄損傷で夫も車いす生活だったので、『もし気管切開をしていたら、今の介助者の手を借りながら2人で暮らす生活を維持することが難しくなっていたと思う』とも話していました。NPPVも100%うまくいくわけではないし、遠くの病院への搬送はリスクを伴うことなので非常に緊張しますが、希望がかなえられて、患者さんが大事にしている生活を守ることができたなら、受け入れて良かったと思います」

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鼻プラグで人工呼吸療法を受けながら、食事も楽しめる 

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 わざわざリスクを冒してでも遠方まで来るのは、いまだにNPPVに消極的な医療者や病院があるからだ。石川さんが「生涯NPPVで生きられる」というデュシェンヌ型筋ジストロフィーでも、いまだに4割は気管切開による人工呼吸器をつける。なぜそんな医療格差が生まれるのだろう。

 「あまり慣れていない方法を試みることで、患者に危険を及ぼしてはいけないという判断も働いているのかもしれません。大病院や地域の基幹病院では、気管切開は少なくとも技術的に慣れているし、患者が安全に、安心して暮らせるのではないかと考えて、新しい取り組みにGOサインが出ないということもあるのでしょう。しかし、患者さんからすれば、切実な思いがあっての訴えですから、できるだけくみ取りたいですよね。ボストンで人工呼吸器の状況を調べた研究では、NPPVの成功率が100%に近づいている病院と0%の病院の二極化が進んでいました。最初からやりたがらないところもあるでしょうし、1例目がうまくいかなくて断念したところもあるのでしょう」

 NPPVは、唾液が気管に流れていかないくらいの喉の機能が残っていることが最も重要な条件となり、一度気管切開をした患者も、手術でふさいでNPPVにつけ替えられる場合もある。

 「気道の中の粘膜が切開で損なわれているので、ふさぐのは大変で、一時的にそこに痰が引っかかったり、不具合があったりすることもあるのですが、それを乗り越えてでもやりたいという意欲の強い人には行うこともあります。ある付け替えた患者は、『気管切開したところの痛みは死の恐怖と結びつき、出血したりはずれたりしたら死んでしまうのだということを自分に常に思い出させていた。でも今、人工呼吸器をつけていることさえ忘れることがある。死を意識しなくなったことが一番大きい』という言葉で喜んでくれました」

 昨年2月には、名古屋の病院から心臓の状態が悪化したデュシェンヌ型筋ジストロフィーの男性が運ばれてきた。10代半ばの時、中部地方の大学病院で、「心筋症が重症になっており、これ以上治療の手だてがないから、あとは家で好きに過ごしてください」と告げられていた。それから数年後、心臓が1日に何度も止まるようになり、救急搬送された別の病院の医師が、その地域の筋ジストロフィー専門病棟がある病院に相談したところ、「気管切開をすれば、良くなる」と言われたという。

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毎週、東京大学とテレビ会議で障害者政策について議論をしている

 「その治療方針に疑問を持った医師に相談され、本人と家族の希望で、結局、八雲に搬送してもらうことになりました。体格のいい男性だったので、呼吸器の圧力を高めて、マスクも車いすも呼吸が楽になるように調整して、あらゆる面から心臓の負担を軽くして、血圧も安定したので本来使うべき心臓の薬も加えたところ、体調がとても良くなったのです。先日も体調チェックのため来院してくれたのですが、『元気になったので、今は老人ホームで読み聞かせをしています』と言っていました。一度は大学病院で命を見放され、専門病院では気管切開でしか助からないと言われた人が、声を使ったボランティア活動をしているのですよ。筋ジストロフィーをあまり診ていない病院だと、『20歳まで生きない』という昔のイメージが固定されて、やるべき治療をしていないこともあるようです。また、『手足が動かせなくなると、生活の質が保てない』と考えて、必要な治療を差し控える医療者がいまだに多いのも事実です」

 

 取材直前、相模原市の障害者施設で元施設職員が、「障害者なんていなくなればいいと思った」として、19人の入所者を殺害した事件が起きた。医療者や介護者からさえ、重い障害を持つ人の生活の質を低く見る言動が生み出されていることについて、石川さんはどう考えているのだろう。

 「私もあの事件にはハッとさせられました。私たちも、入院患者の平均年齢が7歳だった頃とほぼ同じ人数のスタッフで、24時間呼吸器をつけている子が4分の3いる病棟を診ています。スタッフも親代わりにいろいろやってあげたいけれど、マンパワーが絶対的に不足している中、生活介助もギリギリの状態です。そうすると当然、不満を訴える子も出てくる。こうした状況を何とかしたいけれど、自分も周りの人もどうにもできないという無力感の中で、動けなかったり意思疎通ができなかったりする人は生きる意味がないとしか思えなくなってしまったとすれば、そう思わなくてもいいように環境を変えなければいけません」

 

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室内ホッケーは人気の趣味の一つ(提供写真)

 「ここにお子さんを預けた親御さんたちの中には、来た当初に、『診断された時は、その後3か月ぐらい何をしたかも覚えていない』『この子と一緒に地下鉄に飛び込もうかと思った』などと言う方もいました。でも、もし診断の時でもその後でも、医療者や介護者が『こういうふうに工夫したら、こんな活動に取り組みやすいかもしれませんね』などと方法を示してあげられたら、不安をむやみに膨らませることがなくなるかもしれないと思うのです。マスクをつけて呼吸するのは、本来、煩雑でいやなことかもしれない。でも、これをつけることで元気になり、人工呼吸器をつけた後の人生もいろいろなことにチャレンジできると具体的に後押ししてあげられたら、前向きになれるかもしれない。そういう様子を家族や周りも見ることで、ケアの負担があっても貴重なものを得られると聞きます」

 

 大人になった筋ジストロフィーの患者に「あなたたちの人生の選択肢を制限してきた張本人は誰だと思う?」と尋ねたら、返ってきた答えの多くは「医師と学校の先生と親」だった――。そんなエピソードを、石川さんは別の医師から聞いたことがある。

 

 「周りにいる一番サポート役になるべき人が、『この病気は大変だから、大それたことを目指さない方がいいよ』とか『できなかった時にショックだから、諦めた方がいい』と、守るつもりなのか言ってしまう。少し前に、海外から見学にいらした人が、『ロンドンでは電動車いすに乗った筋ジスの患者さんが素敵なレストランでウェイターをやっていますよ』と教えてくれたことがあります。車いすに台を付けておいて、お客さんは注文を紙に書いてその上に置き、ウェイターの彼はそれを調理場に運んで、できあがった料理を載せてもらって運んできて、お客さんに受け取ってもらうというのです。『ああ、そこまでの発想はなかったなあ』と驚かされました。
 私たちはまだまだ『筋ジスという病気はここまでしかできない。障害者はここまでしかできない』と心の中で根拠のない規定をしてしまっています。でも、もっともっと自由にいろいろなことを発想していけば、工夫できること、変えていけることはたくさんあるのではないかと思うのです」

 (続く)

 

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岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部(警視庁、厚生労働省担当)、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)に移り、6月から編集長に就任。医療部ではがんや感染症、遺伝子医療、セクシュアリティーなどを担当。父親ら親しい人の病気、死をきっかけに、大学の卒業論文でホスピスを1年間フィールドワークし、医療記者を志した。

 

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NPPV支援ネットワーク|在宅人工呼吸検討|

www.nppv.org/
 
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