小学6年生の息子が使っている社会科教科書を見て、はっとさせられた。憲法を学ぶ単元の中に、「9条」の文字と条文が見あたらないのだ。

 「条文では、外国との争いごとを武力で解決しない、そのための戦力をもたないと定めています」という記述があり、非核三原則や憲法前文の要旨などは紹介している。だが、私には9条そのものをぼやかそうとしているように感じる。

 憲法の平和主義は、いつから単なる平和への願いになったのか。それは戦争の放棄という厳格な規定であり、国の決意ではなかったのか。

 ここに来て、憲法解釈や改正が議論の的になっている。安倍晋三首相は自民党総裁だった2012年12月の総選挙にあたって「みっともない憲法」と形容したという。しかし、憲法は国のあり方を規定する最高法規だ。もし改正を議論するにしても、子どもたちも含めて憲法をよく学び、国民的な議論をする必要があるのではないか。

 かつて、わが国は教育勅語による教育を受けた世代が国を担ったとき、戦争への道を突き進んでいったとも言われる。息子が学ぶ教科書で教育された今の子どもたちが、将来、どんな国をつくっていくのか不安でならない。

 私が子どもの頃、尊敬する先生が世界に稀有(けう)の平和憲法として、憲法9条を熱く教えてくれたことを思い出す。現場の良識ある先生方に期待するとともに、我が家でも教科書が取り上げない憲法の条文を子どもたちと読み、話し合っていこうと思う。