掲載画像:新明解国語辞典(第6版)
「でも」と「ても」の法則
日本語を勉強している外国人に「でも」と「ても」の使い分けについて質問されたことがある。
「ビールでも飲もうか。」とか「走っても追いつかなかった。」のように僕たちは自然にこの2つの言葉を使い分けている。国語の時間にこの使い分けを習った覚えもないし、それまで気にしたことがなかった。
確かに「走っても」や「取っても」のように促音(「っ」)に続くときは「ても」だし「飛んでも」や「積んでも」のように「ん」に続くときは「でも」のようだ。そして「書いても」や「聞いても」のときは「ても」だから「い」に続くときは「ても」なのかなという気がしたが「嗅いでも」や「漕いでも」のときは「でも」なので一概にそうとも言えないようだ。ちょっと考えると難しそうだが何か文法的な法則がきっとあるはずだ。
この質問を受けたとき、僕は「前にくる言葉によって違う。」と曖昧な返事をしてしまった。しかし、これでは答になっていない。もしみなさんがもし僕と同じ質問を受けたら、ちゃんと説明できるだろうか?
その後、この問題をよく考えてみた。ネットで検索しても答は得られず考えれば考えるほど簡単ではないことがわかってきたのだ。結局、以下が僕が出した結論である。もっとシンプルな説明や以下の分類にあてはまらない例を思いついた人はぜひ教えてほしい。
でも、これを外国人に説明できるとはとても思えないので、結局「習うより慣れろ」ということか。。。。
1)「しかし」の意味で使われる場合。->「でも」
例:でも、君はそんなこと言ってなかったでしょ。
2)名詞に続く場合や「名詞+に」、「名詞+へ」に続く場合->「でも」
例:ビールでも飲もうか。
彼が使ったのは鉛筆でもボールペンでもなかった。
本でも読もうか。本にでも書こうか
学校でも、学校にでも、学校へでも
これでもあれでもなかった。(これでも、あれでも、それでも、どれでも、どこでも、何でも)
私でも、君でも、彼でも、彼女でも、あなたでも、私にでも、君にでも、彼にでも、私へでも、君へでも、彼へでも
外でも、中でも、内でも、外にでも、中にでも、外へでも、中へでも
バリエーション:名詞の「物」や「者」が「もん」や「なの」、「なん」、「の」などに変化している場合。->「でも」
そんなもんでも(そんなものでも)、こんなもんでも(こんなものでも)、そんなのでも、そんなんでも、こんなのでも、こんなんでも、そんなもんにでも、そんなもんへでも、こんなのにでも、こんなんにでも
3)動詞に続く場合:「でも」の場合と「ても」の場合がある。
3-1:動詞の終止形(辞書形)が濁音または「む」で終わる場合。->「でも」
例:嗅いでも(嗅ぐ)、漕いでも(漕ぐ)、注いでも(注ぐ)、飛んでも(飛ぶ)、叫んでも(叫ぶ)、読んでも(読む)、飲んでも(飲む)、混んでも(混む)、噛んでも(噛む)
3-2:動詞の終止形(辞書形)が「む」以外の清音で終わる場合や「~する」動詞の場合。->「ても」
例:書いても(書く)、着いても(着く)、走っても(走る)、喋っても(しゃべる)、叩いても(叩く)、勉強しても(勉強する)、歌っても(歌う)、買っても(買う)、食べても(食べる)、欲しくても(欲しい)、あっても(ある)、なくても(ない)、感じても(感じる)、講じても(講じる)、いても(いる)、しても(する)
3-3:動詞+「~したとしても」の意味の場合。->「でも」
無理を言ってでも(無理を言ったとしても)、書いてでも(書いたとしても)、漕いででも(漕いだとしても)、走ってでも(走ったとしても)、噛んででも(噛んだとしても)
3-4:動詞+「~ていても」(~ている)の省略形の場合。->「ても」
待ってても(待っていても)、座ってても(座っていても)、書いてても(書いている)、してても(していても)、嗅いでても(嗅いでいても)、漕いでても(漕いでいても)、混んでても(混んでいても)
3-5:動詞の終止形に続く場合。->「でも」
「彼は授業を聞くでもなく、ノートを取るでもなく、黒板を見るでもなく、ただぼーっとしていた。」
「調査員は部屋のにおいを嗅ぐでもなく、ノートに書くでもなく、ただ部屋の中を歩き回っていた。」
4)形容詞の語幹に続く場合:「でも」の場合と「ても」の場合がある。
4-1) 「い」で終わる形容詞の語幹に続く場合。->「く+ても」
例:美しくても(美しい)、青くても(青い)、大きくても(大きい)、早くても(早い)、醜くても(醜い)、強くても(強い)、良くても(良い)
4-2) 「な」で終わる形容詞の語幹に続く場合。->「でも」: この場合は「名詞+でも」と考えられる。
例:穏やかでも(穏やかな)、静かでも(静かな)、ぴったりでも(ぴったりな)、だぶだぶでも(だぶだぶな)
5)名詞的に使われる副詞に続く場合。->「でも」
例:強くでも弱くでもない。早くでも遅くでもない。 雨はシトシトでもない。雪はしんしんとでもない。少しでも食べなさい。
バリエーション:副詞の「あのように」、「このように」、「そのように」、「どのように」とその口語形の場合。->「でも」
例:あのようでも、このようでも、そのようでも、あーでもない、こーでもない、そうでもない、どうでもいい、どーでもいい。
6)「べき」(助動詞「べし」の連体形)に続く場合。->「でも」
例:読むべきでも、すべきでも、書くべきでも
7)「だけ」(副助詞)に続く場合。->「でも」
例:少しだけでも、君だけでも、ご飯だけでも、これだけでも
8)「名詞」or「形容詞」or「副詞」+「と」に続く場合。->「でも」
例:華麗とでも言おうか、美しいとでも言おうか、強くとでも言おうか、穏やかとでも言おうか、誰とでもいい、君とでもいい
古い記事へのコメントありがとうございます。
これは「連濁」というものなのですね。記事を書いた当時、「これには何か名前があるはずだよな。」と思っていましたが、見つけられず仕舞いでした。教えていただきありがとうございます。
「連濁」で検索すると、ウィキペディアをはじめいくつもヒットしました。これはそのうちのひとつです。
連濁
http://ns1.shudo-u.ac.jp/~nakasono/rendaku.htm
最初は音便(おんびん)法則かと思ったら記憶違いだった。
日本語には唇音退化なんて現象もあってクイズネタになったりします。
さらにマニアックになると昔の日本語は母音が8つだったとか(理系のはずなのに)蘊蓄が…ほとんど忘れてしまったけど「1音=1単語」てのもあったなー。
コメントありがとうございます!
僕のブログで日本語の勉強に役立つ記事は少ないですが、これからもときどき遊びにきてください。
利根川恵介
コメントありがとうございます。
この記事を書いた後、「でも」と「ても」が頭の中をぐるぐる回ってしまいしばらく寝付けなかったのですよ。あ、こんな例もあった!と思いつくたびにパソコンの電源を入れる始末。。。
無意識で使い分けていることを意識しだすと、気になって眠れなくなってしまうものです。
よくよく考えたら、英語よりよっぽど日本語って難しいのかもしれませんね。
カタカナと漢字までありますし・・・。
奥が深いです~!