絡まってしまった電飾
ひもはなぜ絡まりやすいのか?
前回までの記事では多次元空間を舞台に空間や物体のありさまを説明してきましたが、今回は3次元空間に舞台を移します。
第4回の記事では「絡まるとはどういうことか?」、第5回の記事では「ひもが絡まるのは3次元空間だけ」ということを説明させていただきました。
今回の記事では「(3次元空間で)ひもはなぜ絡まりやすいのか?」を説明いたします。
複雑に絡んでいるひもをぼんやり見ていても、何も解決しません。実際にご自分でまっすぐに伸びたひもを手にとって少しずつ絡ませ、ひもにおきる変化をつぶさに観察していくと、理由はわかってくるはずです。
第4回の記事の「絡まるとはどういうことか?」で得た結論は次のようなものでした。
1)絡まるためには物体が「交差してループ(輪)ができて相手(または自分自身)を囲む」ことが必要
2)そのためにはその空間で物体が2方向に曲がることが必要
3)物体が曲がる方向の数(曲がりの自由度)は空間の次元数から物体の次元数を引いて求める
このうち1)がいちばん大切です。「交差してループ(輪)ができて相手(または自分自身)を囲む」の後、「そのループに物体の一部が入る」ことで「結び目」ができます。
注意: ひもが自分自身で絡むとき、ひもは自分自身を囲むことが必要ですから、結局くぐり抜けてループを増やすので、「結ばれる」ことになります。つまり「絡む」と「結ばれる」の違いはなくなります。
これが(ひもも含めて)物体が絡まること、結び目ができることの本質です。ひもの場合、いちばん単純に絡まっている状態は次の写真で示されます。これはまだ結び目になっていない状態です。
さて、実際にひもを使って絡まっていく様子を見てみましょう。現実には3次元空間で様子を再現すべきなのですが、写真を撮るのがむずかしいので平面にひもを置いて再現してみました。
この状態から始めます。ポケットの中に入れたひもを想像してください。
ポケットの中でひもは自由に動き回ります。ひもは生き物ではないので自然には動きませんが、人が動くことでポケットが揺れたり曲ったりしますから、その中のひもは動いてしまいます。
ひもが動くことでひもの端は次の行き先を求めてさまよいます。ひもの端をヘビの頭のように思っても構いません。そしてひもの端が次のような移動を偶然したとします。
ひもが自分自身と交差してループがひとつ作られたことがおわかりになると思います。
ひもはさらに移動を続けます。ひもが次に移動する選択肢は2つあり、そのどちらかが偶然によって決まります。ひとつは1と書いた領域に移動すること、そしてもうひとつは2と書いた領域に移動することです。
1の領域に移動すると、ひもは最初の状態に戻ります。
けれども2の領域に移動すると状況はさらに複雑になります。2の領域に移動するにはループの上側を通る方法と下側を通る方法がありますが、下側を通ると「結び目」が作られることになります。ここでは上側を通った場合を考えましょう。次のようになります。
ひもが交差している箇所とループが増えてしまいました。交差するときは上側からまたいで交差するときと、下側からくぐって交差するときの2通りが必ずあります。いずれにしても交差することでループの数が増えることに変わりはありません。上側からまたぐときと下側からくぐるときの違いはその後の状況に違いをもたらします。上側か下側のどちらかは、絡まりの度合いをより強くします。
ひもの端はさらに動き続けます。
1の領域にひもの端が移動すると、ひもはひとつ前の状態に戻ります。これが「ひとつほどける」ということです。
2の領域や3の領域に移動すると、ひもの状態はさらに複雑になります。これが「絡まっていく」ということです。(2の領域に移動する方法は上側と下側を通る区別を考えると4通りあります。そのうち交差とループを増やす移動方法は3通り、減らす移動方法は1通りになります。)
ひもの端がどこに移動するかは偶然によって決まります。1、2、3の選択をする確率はそれぞれの領域の面積に比例するのでしょうけれども、大ざっぱにとらえれば面積ではなく「領域の個数」で考えてもそれほど違いはでてきません。1の領域はとても広いですが、ひもの端が1の領域の中の遠いところに移動する確率はかなり小さいことです。
移動するときに1の領域を選択するか交差を減らす移動を選択しない限り、ひもはますます絡まっていくことがおわかりだと思います。複数ある選択肢のうち「ほどけるための正解」は限られています。その他はすべて不正解で、ひもは絡まりの度合いを強めていきます。
答の選択肢が複数あるクイズにたとえるとわかりやすいです。最初のクイズは2択です。正解できればよいのですが、不正解だと次に出されるクイズの選択肢は増え、そのうちの多くは不正解です。2回目のクイズで不正解すると3回目のクイズでは選択肢がさらに増えます。偶然にまかせて次の答を選んでいる状況なのですから、不正解を選んでしまうのがいちばんおきやすいことですよね。
このように間違えれば間違えるほど、次に突きつけられるクイズは一般的には難問になり、状況はますます不利になっていきます。よほどじっくり考えて正解を選ぶステップを続けない限り、ひもが最初の状態に戻ることはありません。
つまり、ひもが絡まっていくのは「確率法則に従った結果」なのです。「起きやすいことは起きる」という確率の法則に従ってひもの端が移動していくことで絡まりの度合いが増していくのです。
せっかく写真を撮ったので、その後の展開を観察してみましょう。
先ほどの写真で、ひもの端が1の領域に移動した状態です。正解のはずなのですが事態はより複雑になってしまいました。
1の領域に移動するにしても、この写真の下のほうの領域に移動すれば正解なのですが、写真のように上側に移動すると交差が作られてしまいます。今回は2か所で交差が作られ、不正解の領域が2つも増えてしまいました。
つまり1の領域の中にも不正解になるケース、交差の数が増えて絡まりの度合いが強まるるケースがひそんでいるのです。1の領域の中で「交差を減らすことができる領域」が正解、「交差を増やしてしまう領域」が不正解なのだといえるでしょう。
ところでひもは端だけが動くわけではありません。ひもが伸びている部分、身体の部分と呼んでいいのかわかりませんが、ひも全体が動くわけです。(ヘビにたとえて腹の部分と表現しようかと思いましたが、はたしてヘビには腹があったかな?と思ったらよくわからなくなったので、ヘビにたとえるのはやめておきます。)
ひもの最初の状態が次のようなものであったとします。
この写真の右下のあたりに、ひもが湾曲している部分がありますよね?この部分が偶然、次のように移動するとこのようなことになります。
もう最悪です。ループが6個もできてしまいました。この段階ではひもはまだ絡まっているわけではありませんが、次の段階で絡まってしまうのはほぼ確実です。
注意:1を正解とするのは写真の左上、6の領域でひもが湾曲している箇所の移動先を考える場合です。正解は移動させるひもの位置をどこに選ぶかによって変わります。また、写真の段階から写真の左下にあるひもの身体の部分や(写真に写っていない)ひもの端が1から7の領域に移動すると絡まりの度合いは強くなります。部分的には正解(絡まりを解く方向の移動方法)が複数ある場合でも、交差やループが増えることで全体としての絡まりの状況は複雑さを増していくと考えます。
みなさんは、ひもが絡まりやすいのはなぜなのか、もうおわかりになりましたよね?
ところで第3回の記事では次のことを紹介させていただきました。
- 4次元空間では面と面、あるいは面が自分自身と絡む
- 5次元空間では立体と立体、あるいは立体が自分自身と絡む
- 6次元空間では4次元物体と4次元物体、あるいは4次元物体が自分自身と絡む
5次元、6次元空間でそうなるかは第5回の記事の終わりのほうで説明した理由により確証がもてませんが、少なくとも4次元空間では今回の記事で説明したのと同じしくみで面が絡まりやすいと言えるはずです。
固結びと蝶結び
ひもが絡むことだけでなく、ひもを結ぶことにも触れておきましょう。
蝶結びは簡単にほどけますが、固結びはなかなかほどけません。その違いも今回説明したしくみで理解できます。
どちらの結び方をするにしても、最初はこのようにひもを交差させますよね。
固結びをするときは、第2段階で次のように交差させます。これは絡まるだけでなく、結び目を作っている状態ですね。不正解のループが5つもあるので容易にほどけません。
蝶結びをするときは、最初の状態から次のようにひもを交差させます。ちょっとわかりずらいかもしれませんが、よく観察してみてください。固結びよりループの数が多く、複雑に絡まっているように見えます。
けれどもこの状況の中に、次のような構造があることに注意してください。
赤いひもが作るループの中を青いひもがくぐって「不正解」の領域ができ、この部分では絡まっている状態が作られつつあることがわかります。(蝶結びしているひもの全体はすでに「結ばれた状態」になっています。)
でも、写真に示した部分については「青いひもの端」がループをくぐっているわけではありません。ひもの身体(ひもが伸びている部分)が部分的にループをくぐっているのです。この場合はくぐっている部分の一方を引き出せば元に戻すことができます。
青いひもの端はループをくぐる前の位置にあります。ここからひもを手繰り寄せればひもはループをくぐる前の状態に戻ることができるわけです。
これは命綱をつけてクイズに臨んでいるようなものですね。「不正解の洞窟」に入ってしまっても、外から引っ張って助け出してもらえるという状況です。
蝶結びが簡単にほどけるのは、このようなしくみによるものです。
ひもにさまざまな結び方があることは、みなさんもご存知だと思いますし、それは日常生活にとても役立っています。
たとえば釣り糸にはものすごくたくさんの種類の結び方があります。時間をかけずに結べることが大切ですし、ほどけにくいということも大切です。そしてルアーは再利用するものですから、ルアーに結んだひもは、ほどきたいときには簡単にほどけることが要求されるのです。
また、引っ越し業者が荷物を結ぶとき、ロープはほどけないように結ぶようにしなければなりません。また引っ越し先では素早くロープを解けるようにしておくことが大切です。
ひもの高度な結び方、テクニックを調べてみるのも面白いと思います。
さて、次回の記事では「絡まりやすいもの、絡まりにくいもの」というテーマで話をします。
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ぼくはこの記事で「絡まる」と「結ばれる」は同じ意味で使ってるだと
考えていたのですが、違うのですか?
違うとしたら、「絡まる」とはどういう状態のでしょう?
例えば、この記事の説明の場合、
ループが7個ある写真のひもを見ると、
どちらかの端を引っ張れば簡単に解けてしまうので、
(不正解のループが増えたとしても)
絡まってるとは言えないと思うのですが。
あと、固結びと蝶結びの例を見ると、結局
「この記事の議論(不正解のループの数)
だけではひもが結ばれてる原理はわからない」
という結論に達すると思うのですが、
そういう理解で良いのでしょうか?
さっそくご質問いただき、ありがとうございます。
説明不足でした。ご質問いただいた2箇所について説明を追加しておきました。
> 「絡まる」と「結ばれる」は違うのですか?
「絡まる」はひもが交差してループをつくり、相手(もしくは自分自身)を囲むまでのこととしました。
そしてその後、ひもの端や本体の部分がループをくぐりぬけて(さらに交差とループを増やす形で)しまうことを「結ばれた」と考えることにしました。
>相手(もしくは自分自身)を囲むまでのこととしました。
とすると、
(最初の写真の物干し竿とひものような状況ではではなく)
自分自身との絡まりを考えている場合は、
自分自身を囲むためには(結局くぐり抜けてループを増やすので)結ばれないといけないと思うので、
「絡む」と「結ばれる」は同じ意味になると思うのですが、
この理解で良いですか?
はい、自分自身との絡まりを考えている場合は「絡む」と「結ばれる」は同じ意味になると考えるのが正しいと思います。
このケースも本文に説明として追記しておきますね。(他の部分の説明との整合性を確認してからになりますが。)
いろいろなケースを網羅する形で、こういうのを言葉で説明するのって、難しいです。
>自分自身との絡まりを考えている場合は「絡む」と「結ばれ>る」は同じ意味になると
となると、この記事の議論では不十分な気がします。
この記事では不正解のループを考えるときに、
上下を気にしていないように思えますが、
一つのひもが結ばれる(絡まる)状態を考えるときは、
上下の違いは結構効いてきます。
例えば、
https://en.wikipedia.org/wiki/Unknotting_number
にあるStevedore knotは不正解のループが
たくさんありますが、
4ヶ所のうちの上下が一ヶ所変わっただけで、
解けてしまいます。
一方で、その上の段にあるCinquefoil knotと呼ばれる
結び目は、ループの数は少ないですが、
最低2ヶ所上下を変えないと、解けません。
つまり、不正解のループが増える場合でも、
上下どちらを通っても解けてしまう場合と、
上下どちらを通るかで解けるか解けないかが
変わる場合、
上下どちらを通っても(他の上下を変えないと)解けない場合
など、様々なパターンが出てきます。
となると、
一見ループの数が増えて絡まりやすさが増してるように見えても、
実は解けやすい形になってるということが
あり得る気もするのですが、、。
ふくちゃんへ
> 上下を気にしていないように思えますが
上下の違いは認識していたのですが、詳しく説明しようとすると場合分けの数が増えて、説明の流れが見えにくくなる弊害がでてきます。
そこで、このことはあまり触れないようにしました。けれども上下で違いが生じてくるのは事実なので次のように追記しました。
「ひもが交差している箇所とループが増えてしまいました。交差するときは上側からまたいで交差するときと、下側からくぐって交差するときの2通りが必ずあります。いずれにしても交差することでループの数が増えることに変わりはありません。上側からまたぐときと下側からくぐるときの違いはその後の状況に違いをもたらします。上側か下側のどちらかは、絡みの度合いをより強くします。」
> 一見ループの数が増えて絡まりやすさが増してるように見えても、実は解けやすい形になってるということがあり得る気もするのですが、、。
そのケースも確かにあり得ます。あとはそのケースが発生する確率が問題になってくると思うのです。
一般にループの数が増えると絡まりやすくなるというのがこの記事の大前提にあるので、この点についてもあえて無視させていただいた次第です。
そのような大前提があること、承知しました。
あと、もう一つ気になったのですが、
>このように間違えれば間違えるほど、次に突きつけられる
>クイズは難問になり
の部分ですが、例えば、7つループのある写真の段階では、次の選択肢は(1に隣り合ってる領域の)1から7まであると思いますが、
ここから3を選んだ段階を考えると、
2と6と7は(3と隣り合ってないから)選択肢から消えるので、
3に移動することでループが増えるとしても、
選択肢自体は減る気がしますが、
そこら辺はどうなのでしょう?
この写真のことですね。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/00/4e9225405875c782e767362ba7bd04d2.png
ご質問いただいた内容が、僕には正確に理解できていないのですが、次のような注意書きを追加しました。これでご質問の回答になっていますでしょうか?
注意:この写真の次の段階で、右下のひもの端が3、4、5、6に移動するとループの数は減ります。ひもの端を動かすケースでは正解は(3と4と5と6)の4つあることになります。1は不正解というよりひもの状態を変化させません。1を正解とするのはひもの右上の湾曲している箇所の移動先を考える場合です。正解は移動させるひもの位置をどこに選ぶかによって変わります。また、写真の段階から写真の左端にあるひもの身体の部分や(写真に写っていない)ひもの端が1から7の領域に移動すると絡みは強くなります。部分的には正解(絡みを解く方向の移動方法)が複数ある場合でも、交差やループが増えることで全体としての絡みの状況は複雑さを増していくと考えます
>右下のひもの端が3、4、5、6に移動するとルー
>プの数は減ります。
ループは減らないと思います。
ぼくが言いたかったのは、
「ひもの端が移動できる領域の選択肢が減る」
ということを言いたかったのです。
ひもの先が移動できるのは、必然的に、
現在いる領域(写真の場合だったら1)
と隣り合っている領域(写真の場合は2~7)だと思います。つまり、不正解の領域は2~7の5つあります。
そこで、この紐が3に移動したとします。
すると、3の領域と隣あっている領域は、
「新しく増えたループと、1、4、5」
だけです。つまり、不正解の領域が4つに減ります。
つまり、全体のループは増えるけど、
とねさんの言うところの「クイズ」としては、(不正解の数が減るので)簡単になるんじゃないかなーと思ったのです。
そのような事情で、、
「間違えれば間違えるほど、次に突きつけられるクイズは難問になり」
という一文が引っかかったのです。
もちろん、(上下を考えない限りは)正解の領域の方が不正解の領域よりも少ないので、
どんどんループが増えて行くのだと思いますが。
ふくちゃんのご質問の意味がやっと理解できました。
僕がひもの端が3に移動した場合と言ったのは1の領域にひもが残らないようにして3にひもの先頭を移動させたイメージで考えていました。ふくちゃんがおっしゃっているのは、ひもの端が回れ左をしてそのまま進み3の領域に突入した状況、つまり1の領域にひもの一部が残っている状況をおっしゃっていたのですね。
そう考えると「不正解の領域が4つに減ります。」というのも納得できました。
ですので「間違えれば間違えるほど、次に突きつけられるクイズは難問になり」は「間違えれば間違えるほど、次に突きつけられるクイズは一般的には難問になり」という表現に改めさせていただきました。
あと、先ほどの注意書きのほうは、次の表現に変更しておきました。
注意:1を正解とするのはひもの右上の湾曲している箇所の移動先を考える場合です。正解は移動させるひもの位置をどこに選ぶかによって変わります。また、写真の段階から写真の左端にあるひもの身体の部分や(写真に写っていない)ひもの端が1から7の領域に移動すると絡みは強くなります。部分的には正解(絡みを解く方向の移動方法)が複数ある場合でも、交差やループが増えることで全体としての絡みの状況は複雑さを増していくと考えます。
アドバイスいただきありがとうございました。