「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」
「大著に挑む」と全国の読者に宣言した手前、読まないわけにはいかない。とにかく第1巻は読み通すことができた。索引部分を除くと400ページほど。英語版のほうで読んだのは結局4分の1くらい。全体的な理解度は6~7割だった。全体の筋書きを押さえた上で、理解できる部分だけでも吸収して進もうという読書スタイルなのだからこれでよしとしよう。
場の量子論は「量子場の理論」とも呼ばれるが、なぜこのようなものを考えるようになったかということを高校生や一般の方向けにまず説明しておこう。
20世紀初頭に相対性理論と量子力学という2大理論が提唱された。相対性理論は4次元時空に存在する物体の質量やエネルギーによって伸縮する時空の姿を明らかにした理論で、量子力学は電子や光子など目では見えないほど小さな世界の粒子の力学法則の理論だ。身の回りの世界も含めてわれわれの宇宙は小さな領域の集合体であるから、当然これら2つの理論はあらゆる場所で同時に成り立っていることが要請される。
相対性理論には特殊相対論と一般相対論がある。さしあたり特殊相対論と量子力学の2つを同時に成り立たせるような世界を物理法則として記述してみようと試みられたのが相対論的量子力学であり、その発展形として考案されたのが場の量子論である。
20世紀初頭から半ばにかけて、高エネルギー加速器による粒子衝突、散乱実験によって数多くの素粒子が発見された。素粒子どうしは衝突によって「相互作用」するだけでなく、量子場と素粒子の相互作用、量子場と量子場の相互作用を考えることで素粒子それぞれのもつ性質(質量の有無、スピン、電荷をはじめとするいくつかの種類の荷量)の規則性が場の量子論という枠組みの中で明らかになってきた。
その規則性とは対称性や超対称性と呼ばれるもので、第1巻の中で紹介されるのは C(Charge Conjugation=粒子を反粒子に変換する荷電共役反転)、P(Parity=空間反転)、T(Time=時間反転)などの対称性で、これらの対称反転ほどこしても同じ物理法則が成り立っている。先日発見されたヒッグス粒子と(思われる)新粒子は、場の量子論から導かれる素粒子標準理論の枠組みで予言されていたものだ。これを理解するためには新たに「自発的対称性の破れ」という理論が必要で、本書では日本語版の第4巻(英語版では第2巻)で解説される。
この第1巻では、特殊相対論と量子力学の2大原理から始め、場の理論がなぜ現在の形をとり、それによってなぜ自然界をこのようにうまく記述しているのかという主題に基づき、場の量子論の基本的構成が論じられる。
第1章は「歴史的導入」と題して場の量子論が現在の形になるまでの歴史が解説される。場の量子論の歴史は最初から量子力学そのものの歴史と密接に絡まり合っていて、量子力学と特殊相対論を融合させる相対論的量子力学から始まった。量子力学と同様に特殊相対論を満たす波動力学として、クライン・ゴルドンの波動方程式やディラックの波動方程式が提示され、反粒子の存在や粒子や反粒子のスピンの法則が明らかになった。
次にとられたのは行列力学によるアプローチだ。量子力学が始まった当時、光子は粒子として検出される以前に場(電磁場)として知られていた唯一の粒子で、場の量子論は最初は電磁輻射と関連して発展し、その後他の粒子や場に適用されていった。これは自然な流れの中で粒子や反粒子の生成・消滅、粒子のスピンによる交換関係や反交換関係の性質が明らかになった。また量子力学では確率振幅として扱われたφやψなどは、場の量子論では種々の基準モードの粒子を生成したり消滅させたりする演算子として扱われる。
場の量子論はその計算過程でいくつかの種類の無限大がでてきてしまう。この困難な問題をどのような手法で解決していったかを紹介して第1章が終わる。
第2章の「相対論的量子力学」から本論が始まる。この章の内容は極めてユニークだ。通常、相対論的量子力学ではクライン・ゴルドン方程式やディラック方程式あたりから始まるが、本書のこの章ではこれら2つの方程式は見当たらない。
この章における相対論的量子力学は、数学理論を主軸に置いた一般性の高い導入手法をとっている。量子力学を要請する立場からはそれを定式化するヒルベルト空間の性質を論じ、特殊相対論を要請する立場からは非斉次ローレンツ群(ポアンカレ群: ローレンツ群+並進操作の群)によるローレンツ変換性を導入する。ローレンツ変換は特殊相対論に基づく変換のこと。この数学的な条件のついた空間の中で存在することができる粒子の性質(質量の有無やスピン)が導かれてくるのだ。また存在が許されるそれぞれの粒子の空間的対称性や時間的対称性も確認される。
実世界とは関係ない数学的な議論だけで、完全とまではいかなくても、存在が許される粒子の性質が規定されてしまうことに感動を覚えた。第2章は1粒子についての理論で、ローレンツ群を含むリー群論、群の作用はあらかじめ学んでおく必要がある。
第3章は「散乱理論」。2粒子以上の相互作用が解説される。実際の実験では粒子の相互作用の事象の順序を詳細に追っていくわけではない。むしろ典型的な実験では、数個の粒子が巨視的な遠距離から相互に近づき、微視的な小さい領域で相互作用し、相互作用によって生成された粒子がその後再び巨視的な遠距離に出ていく。だから実際に測定されるのは相互作用前後の始状態と終状態との間の遷移の確率分布や相互作用の断面積だけである。始状態と終状態の遷移をあらわす複素振幅の行列のことを「S行列」と呼んでいる。この章ではS行列のローレンツ不変性をはじめS行列のC、P、T対称性やユニタリー性、S行列を用いた摂動論などを主に解説している。
僕が驚いたのはこの章で「エントロピー増大則」がS行列のユニタリー条件から導かれていたことだ。通常エントロピー増大則は熱力学・統計力学における計算で導くものだからだ。
第4章の「クラスター分解原理」はとても興味深く読めた。場の量子論において要請される原理には量子力学、特殊相対論の他にもうひとつある。それは「因果律」であり、遠く離れた2つの実験の結果には相関がないという意味で、決定的に要請される物理法則である。場の量子論ではクラスター分解原理がこれに相当する。(距離的に離れたクラスターには相関がないという原理だ。)この章ではS行列がこのクラスター分解定理を満たしていることが示される。(2012年7月18日に追記:クラスター分解原理がベルの不等式、EPRパラドックス、量子の絡み合い、量子テレポーテーションなどと矛盾するのかどうかについては、本記事のコメント欄をお読みください。)
第5章の「量子場と反粒子」で量子場と反粒子が導入され、C、P、T対称性や第4章で解説したクラスター分解原理を元にスカラー場やベクトル場、ディラック場、一般の場などが因果律を満たしていることが示される。計算は第1巻の中ではいちばん複雑だ。
特に僕の関心をひいたのは5.9節の「質量ゼロ粒子の場」を論じている箇所だ。ヘリシティが±2の質量ゼロ粒子、すなわち重力子(graviton)の消滅・生成演算子から、リーマン・クリストッフェルの曲率テンソルの代数的性質を持つテンソルが構成できると書かれていた。実際の計算は示されていないが量子場と重力場の関係性が見えた気がした。
第6章の「ファインマン則」に至ってようやくファインマン・ダイアグラムが紹介される。本書の中で図版が挿入されているのはこの章だけだ。とはいえ図版の数は十分とはいえず、ファインマン・ダイヤグラムについては他書を使って勉強したほうがよいと思った。
以上が第1巻のあらましであるが、400ページもあるのでブログの記事だけでは(その要約でさえも)すべてを紹介することは不可能だ。なので本書の雰囲気だけでも伝わればよいと思っている。
日本語版の翻訳についていえば、今のところそれほど悪いとは思っていない。原書の意味は十分に伝わっている。「てにをは」の間違いが数カ所あったのと、漢字の間違い(「偶数」を「遇数」と書いていた。)に気がついたくらいである。日頃僕は本業でIT系の翻訳物を読むことが多いので「翻訳調の日本語」に慣れているのが有利に働いたのかもしれない。
ところで著者のワインバーグ博士は本書の執筆を通してLaTeXを習得されたそうである。日本語版が早い時期に出版できたのは博士からLaTeXファイルの提供があったおかけだ。(数式をリタイプしなくてすむから。)
引き続き第2巻を読むことにしよう。
応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。
関連記事:
大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5
購入される方は次のリンクからどうぞ。
英語版:
「The Quantum Theory of Fields (3巻セット): Steven Weinberg」(Kindle版)
日本語版:
「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」
「ワインバーグ場の量子論(2巻):量子場の理論形式」
「ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論」
「ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相」
「ワインバーグ場の量子論(5巻):超対称性:構成と超対称標準模型」
「ワインバーグ場の量子論(6巻):超対称性:非摂動論的効果と拡張」
今日の記事で紹介したのは第1巻。
「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」
第1巻:粒子と量子場
序文
第1章:歴史的導入
- 相対論的波動力学
- 場の量子論の誕生
- 無限大の問題
第2章:相対論的量子力学
- 量子力学
- 対称性
- 量子論的ローレンツ変換
- ポアンカレ代数
- 1粒子状態
- 空間反転と時間反転
- 射影表現
- 補遺A:対称性の表現に関する定理
- 補遺B:群の演算子とホモトピー類
- 補遺C:反転と縮退した多重項
第3章:散乱理論
- 「In」状態と「Out」状態
- S行列
- S行列の対称性
- 反応率と断面積
- 摂動論
- ユニタリー性の意味
- 部分波展開
- 共鳴状態
第4章:クラスター分解定理
- ボソンとフェルミオン
- 生成・消滅演算子
- クラスター分解と連結振幅
- 相互作用の構造
第5章:量子場と反粒子
- 自由場
- 因果律を満たすスカラー場
- 因果律を満たすベクトル場
- ディラック形式
- 因果律を満たすディラック場
- 斉次ローレンツ群の一般的な既約表現
- 一般の因果律を満たす場
- CPT定理
- 質量ゼロ粒子の場
第6章:ファインマン則
- ファインマン則の導出
- プロパゲーターの計算
- 運動量空間でのファインマン則
- 質量殻外のファインマン・ダイアグラム
訳者あとがき
索引
「大著に挑む」と全国の読者に宣言した手前、読まないわけにはいかない。とにかく第1巻は読み通すことができた。索引部分を除くと400ページほど。英語版のほうで読んだのは結局4分の1くらい。全体的な理解度は6~7割だった。全体の筋書きを押さえた上で、理解できる部分だけでも吸収して進もうという読書スタイルなのだからこれでよしとしよう。
場の量子論は「量子場の理論」とも呼ばれるが、なぜこのようなものを考えるようになったかということを高校生や一般の方向けにまず説明しておこう。
20世紀初頭に相対性理論と量子力学という2大理論が提唱された。相対性理論は4次元時空に存在する物体の質量やエネルギーによって伸縮する時空の姿を明らかにした理論で、量子力学は電子や光子など目では見えないほど小さな世界の粒子の力学法則の理論だ。身の回りの世界も含めてわれわれの宇宙は小さな領域の集合体であるから、当然これら2つの理論はあらゆる場所で同時に成り立っていることが要請される。
相対性理論には特殊相対論と一般相対論がある。さしあたり特殊相対論と量子力学の2つを同時に成り立たせるような世界を物理法則として記述してみようと試みられたのが相対論的量子力学であり、その発展形として考案されたのが場の量子論である。
20世紀初頭から半ばにかけて、高エネルギー加速器による粒子衝突、散乱実験によって数多くの素粒子が発見された。素粒子どうしは衝突によって「相互作用」するだけでなく、量子場と素粒子の相互作用、量子場と量子場の相互作用を考えることで素粒子それぞれのもつ性質(質量の有無、スピン、電荷をはじめとするいくつかの種類の荷量)の規則性が場の量子論という枠組みの中で明らかになってきた。
その規則性とは対称性や超対称性と呼ばれるもので、第1巻の中で紹介されるのは C(Charge Conjugation=粒子を反粒子に変換する荷電共役反転)、P(Parity=空間反転)、T(Time=時間反転)などの対称性で、これらの対称反転ほどこしても同じ物理法則が成り立っている。先日発見されたヒッグス粒子と(思われる)新粒子は、場の量子論から導かれる素粒子標準理論の枠組みで予言されていたものだ。これを理解するためには新たに「自発的対称性の破れ」という理論が必要で、本書では日本語版の第4巻(英語版では第2巻)で解説される。
この第1巻では、特殊相対論と量子力学の2大原理から始め、場の理論がなぜ現在の形をとり、それによってなぜ自然界をこのようにうまく記述しているのかという主題に基づき、場の量子論の基本的構成が論じられる。
第1章は「歴史的導入」と題して場の量子論が現在の形になるまでの歴史が解説される。場の量子論の歴史は最初から量子力学そのものの歴史と密接に絡まり合っていて、量子力学と特殊相対論を融合させる相対論的量子力学から始まった。量子力学と同様に特殊相対論を満たす波動力学として、クライン・ゴルドンの波動方程式やディラックの波動方程式が提示され、反粒子の存在や粒子や反粒子のスピンの法則が明らかになった。
次にとられたのは行列力学によるアプローチだ。量子力学が始まった当時、光子は粒子として検出される以前に場(電磁場)として知られていた唯一の粒子で、場の量子論は最初は電磁輻射と関連して発展し、その後他の粒子や場に適用されていった。これは自然な流れの中で粒子や反粒子の生成・消滅、粒子のスピンによる交換関係や反交換関係の性質が明らかになった。また量子力学では確率振幅として扱われたφやψなどは、場の量子論では種々の基準モードの粒子を生成したり消滅させたりする演算子として扱われる。
場の量子論はその計算過程でいくつかの種類の無限大がでてきてしまう。この困難な問題をどのような手法で解決していったかを紹介して第1章が終わる。
第2章の「相対論的量子力学」から本論が始まる。この章の内容は極めてユニークだ。通常、相対論的量子力学ではクライン・ゴルドン方程式やディラック方程式あたりから始まるが、本書のこの章ではこれら2つの方程式は見当たらない。
この章における相対論的量子力学は、数学理論を主軸に置いた一般性の高い導入手法をとっている。量子力学を要請する立場からはそれを定式化するヒルベルト空間の性質を論じ、特殊相対論を要請する立場からは非斉次ローレンツ群(ポアンカレ群: ローレンツ群+並進操作の群)によるローレンツ変換性を導入する。ローレンツ変換は特殊相対論に基づく変換のこと。この数学的な条件のついた空間の中で存在することができる粒子の性質(質量の有無やスピン)が導かれてくるのだ。また存在が許されるそれぞれの粒子の空間的対称性や時間的対称性も確認される。
実世界とは関係ない数学的な議論だけで、完全とまではいかなくても、存在が許される粒子の性質が規定されてしまうことに感動を覚えた。第2章は1粒子についての理論で、ローレンツ群を含むリー群論、群の作用はあらかじめ学んでおく必要がある。
第3章は「散乱理論」。2粒子以上の相互作用が解説される。実際の実験では粒子の相互作用の事象の順序を詳細に追っていくわけではない。むしろ典型的な実験では、数個の粒子が巨視的な遠距離から相互に近づき、微視的な小さい領域で相互作用し、相互作用によって生成された粒子がその後再び巨視的な遠距離に出ていく。だから実際に測定されるのは相互作用前後の始状態と終状態との間の遷移の確率分布や相互作用の断面積だけである。始状態と終状態の遷移をあらわす複素振幅の行列のことを「S行列」と呼んでいる。この章ではS行列のローレンツ不変性をはじめS行列のC、P、T対称性やユニタリー性、S行列を用いた摂動論などを主に解説している。
僕が驚いたのはこの章で「エントロピー増大則」がS行列のユニタリー条件から導かれていたことだ。通常エントロピー増大則は熱力学・統計力学における計算で導くものだからだ。
第4章の「クラスター分解原理」はとても興味深く読めた。場の量子論において要請される原理には量子力学、特殊相対論の他にもうひとつある。それは「因果律」であり、遠く離れた2つの実験の結果には相関がないという意味で、決定的に要請される物理法則である。場の量子論ではクラスター分解原理がこれに相当する。(距離的に離れたクラスターには相関がないという原理だ。)この章ではS行列がこのクラスター分解定理を満たしていることが示される。(2012年7月18日に追記:クラスター分解原理がベルの不等式、EPRパラドックス、量子の絡み合い、量子テレポーテーションなどと矛盾するのかどうかについては、本記事のコメント欄をお読みください。)
第5章の「量子場と反粒子」で量子場と反粒子が導入され、C、P、T対称性や第4章で解説したクラスター分解原理を元にスカラー場やベクトル場、ディラック場、一般の場などが因果律を満たしていることが示される。計算は第1巻の中ではいちばん複雑だ。
特に僕の関心をひいたのは5.9節の「質量ゼロ粒子の場」を論じている箇所だ。ヘリシティが±2の質量ゼロ粒子、すなわち重力子(graviton)の消滅・生成演算子から、リーマン・クリストッフェルの曲率テンソルの代数的性質を持つテンソルが構成できると書かれていた。実際の計算は示されていないが量子場と重力場の関係性が見えた気がした。
第6章の「ファインマン則」に至ってようやくファインマン・ダイアグラムが紹介される。本書の中で図版が挿入されているのはこの章だけだ。とはいえ図版の数は十分とはいえず、ファインマン・ダイヤグラムについては他書を使って勉強したほうがよいと思った。
以上が第1巻のあらましであるが、400ページもあるのでブログの記事だけでは(その要約でさえも)すべてを紹介することは不可能だ。なので本書の雰囲気だけでも伝わればよいと思っている。
日本語版の翻訳についていえば、今のところそれほど悪いとは思っていない。原書の意味は十分に伝わっている。「てにをは」の間違いが数カ所あったのと、漢字の間違い(「偶数」を「遇数」と書いていた。)に気がついたくらいである。日頃僕は本業でIT系の翻訳物を読むことが多いので「翻訳調の日本語」に慣れているのが有利に働いたのかもしれない。
ところで著者のワインバーグ博士は本書の執筆を通してLaTeXを習得されたそうである。日本語版が早い時期に出版できたのは博士からLaTeXファイルの提供があったおかけだ。(数式をリタイプしなくてすむから。)
引き続き第2巻を読むことにしよう。
応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。
関連記事:
大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5
購入される方は次のリンクからどうぞ。
英語版:
「The Quantum Theory of Fields (3巻セット): Steven Weinberg」(Kindle版)
日本語版:
「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」
「ワインバーグ場の量子論(2巻):量子場の理論形式」
「ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論」
「ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相」
「ワインバーグ場の量子論(5巻):超対称性:構成と超対称標準模型」
「ワインバーグ場の量子論(6巻):超対称性:非摂動論的効果と拡張」
今日の記事で紹介したのは第1巻。
「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」
第1巻:粒子と量子場
序文
第1章:歴史的導入
- 相対論的波動力学
- 場の量子論の誕生
- 無限大の問題
第2章:相対論的量子力学
- 量子力学
- 対称性
- 量子論的ローレンツ変換
- ポアンカレ代数
- 1粒子状態
- 空間反転と時間反転
- 射影表現
- 補遺A:対称性の表現に関する定理
- 補遺B:群の演算子とホモトピー類
- 補遺C:反転と縮退した多重項
第3章:散乱理論
- 「In」状態と「Out」状態
- S行列
- S行列の対称性
- 反応率と断面積
- 摂動論
- ユニタリー性の意味
- 部分波展開
- 共鳴状態
第4章:クラスター分解定理
- ボソンとフェルミオン
- 生成・消滅演算子
- クラスター分解と連結振幅
- 相互作用の構造
第5章:量子場と反粒子
- 自由場
- 因果律を満たすスカラー場
- 因果律を満たすベクトル場
- ディラック形式
- 因果律を満たすディラック場
- 斉次ローレンツ群の一般的な既約表現
- 一般の因果律を満たす場
- CPT定理
- 質量ゼロ粒子の場
第6章:ファインマン則
- ファインマン則の導出
- プロパゲーターの計算
- 運動量空間でのファインマン則
- 質量殻外のファインマン・ダイアグラム
訳者あとがき
索引
ベルの定理と矛盾しないんでしょうかね。
ご質問の件については僕も「どうなるのだろう?」と思っていました。本書にはこれの回答になるような記述はありませんでした。
ネットで検索してみると
http://blog.kaisetsu.org/?eid=518782
のページに次のように書かれています。
「EPRパラドックスは、光速以上で何かが伝達するように見える。ただし、その「何か」とは、情報ではない。確かに二つの電子には相関があるが、このことを使って光速以上の情報のやり取りはできない。その意味では、相対論と矛盾するわけではない。
つまり、EPRパラドックスは、ある種の局所性の破れを示唆してはいるが、物理的に重要な局所性であるクラスター分解性と矛盾するわけではない。
* 実験的検証と現状
現在ではEPR相関と呼ばれ、ベルの不等式により定式化され、実験的にも確認されている。このような非局所性は量子もつれ状態特有の現象として理解され、量子テレポーテーションや量子暗号などの最先端の技術の理論的な基礎となっている。」
またウィキペディアの「クラスター分解性」の項目には次のように書かれています。
「量子もつれ状態で現れる非局所な相関はクラスター分解性を破らない、とされる。一方の系を操作することによって、他方の系の実験結果を操作できないからである。」
クラスター分解性を「『相関』がない」と言うのが間違いですね。
あ、そうですね。たしかに日本語版ウィキペディアには「クラスター分解性あるいはクラスター分解性理論とは、空間的に十分離れた二つの系は、十分よい精度で互いの因果関係を無視できる、と想定する理論あるいは仮説のこと。」と書かれています。けれども英語版のウィキペディアでは「separated regions behave independently.」つまり「2つの領域の事象は独立」=「無相関」と書かれています。クラスター分解性の定義としては「無相関性」を採用するのが正しいようですね。日本語版ウィキペディアの記述のほうが不正確なのだと判断しました。
「因果関係≠相関」についてはごもっともです。(この1年あまり大震災や津波被害、原発被害の文脈でこの2つを混同した発言を何度も目にしました。)
「因果関係がある」→「相関がある」は○
「相関がある」→「因果関係がある」はX
それぞれ対偶をとると
「相関がない」→「因果関係がない」は○
「因果関係がない」→「相関がない」はX
本書ではクラスター分解定理のところで「相関性がない」ことを導いています。「相関性がない」→「因果関係がない」という論法で進めているわけですね。
たしかに相関ですね。
英語版ウィキペディアの式では「距離を∞にすると相関が0に近づく」と言ってるだけですからベルの定理との矛盾はありません。
なるほど。そのように理解すればよいわけですね!
僕もスッキリ理解できました。
不明確だった点をクリアにしていただき、ありがとうございます。