アインシュタイン選集(2): [A5]: ハミルトンの原理と一般相対性理論(1916年)
ハミルトンの原理や変分原理というのは「解析力学(久保謙一著、裳華房)」という本の紹介で説明したように、ニュートン力学の方程式の力学変数を数学的な位相空間のパラメータと考えることによってを一般化して、さまざまな力学の問題を統一的な手法で解けるようにしたテクニックである。この原理を使うことで、光の行路での最短距離や石鹸の薄膜での最小面積、質点の運動でのエネルギーの最小状態などの物理現象を同じ手法で解けるようになる。さらに、これが後に量子力学へ物理学を導いたことは興味深い。ハミルトンの原理や変分原理はアインシュタインが生まれる前に完成していた。ハミルトンの原理とは、力学の一般化のことである。
アインシュタインは4次元時空の曲がりを一般化して記述した一般相対性理論にハミルトンの原理(変分原理)を適用することによって一般化を進め、より普遍的な視点から法則の有り様が導けるかということに挑んだのがこの論文である。
§1 変分原理と、重力場および物質の方程式
アインシュタインはまず、電磁場を含めて物質の時間・空間座標を解析力学の手法にならって関数 q(ρ) で表し、重力場が基本計量テンソル g(u,v) で表されることを使って、一般座標変換に対する関数 q(ρ)の変換規則がどのようなものであってもいいことを示した。
変分原理を適用することによって、未知関数 g(u,v) と q(ρ) の総数と同じ個数の微分方程式が導かれる。これにいくつかの積分域の境界条件やその他の条件を設定し、計算を進めることによって、重力場および物質に対する微分方程式がそれぞれ1つずつ導かれる。
§2 重力場の分離
1つ前のセクションで、重力場および物質に対する微分方程式が1つずつ導かれたとしても、それは必ずしも全系のエネルギーを2つの部分に分離されていることを示しているとは言えない。これを分離するためにアインシュタインは2つの部分の中の1つは重力場のエネルギーを、もう1つの部分は物質に属するエネルギーを表すと仮定し、式を構成する変数の依存関係に特定の条件を課すことによって、上の2本の微分方程式を若干書き換えた。
§3 重力場の方程式の不変論的特性
このセクションは、難しい数学の記述が4ページほどにおよぶため、詳細を解説できないのでポイントだけ述べることにする。
重力場の方程式の立場から ds^2 = g(u,v)*dx(u)*dx(v) の形をした4次元時空のピタゴラスの定理(dsが不変量となる)により、g(u,v)の変換性が決められる。しかし、物質を記述する関数 q(ρ) の変換性については特別な仮定を設けない。
前のセクションで書き換えた2本の微分方程式が一般共変性を持つことを導いた上で、4ページにわたる計算を進める。
その結果、運動量とエネルギーの保存則を表す一般共変な形をした式が導かれる。注目すべきなのは、これが前のセクションで若干書き換えた重力場の方程式と(幾何学的な)一般共変性の要請だけから導かれたこと、その際に物質現象についての方程式は一切使われなかったということである。
関連リンク:
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae
趣味で相対論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa
とね書店:
アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144
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アインシュタインは4次元時空の曲がりを一般化して記述した一般相対性理論にハミルトンの原理(変分原理)を適用することによって一般化を進め、より普遍的な視点から法則の有り様が導けるかということに挑んだのがこの論文である。
§1 変分原理と、重力場および物質の方程式
アインシュタインはまず、電磁場を含めて物質の時間・空間座標を解析力学の手法にならって関数 q(ρ) で表し、重力場が基本計量テンソル g(u,v) で表されることを使って、一般座標変換に対する関数 q(ρ)の変換規則がどのようなものであってもいいことを示した。
変分原理を適用することによって、未知関数 g(u,v) と q(ρ) の総数と同じ個数の微分方程式が導かれる。これにいくつかの積分域の境界条件やその他の条件を設定し、計算を進めることによって、重力場および物質に対する微分方程式がそれぞれ1つずつ導かれる。
§2 重力場の分離
1つ前のセクションで、重力場および物質に対する微分方程式が1つずつ導かれたとしても、それは必ずしも全系のエネルギーを2つの部分に分離されていることを示しているとは言えない。これを分離するためにアインシュタインは2つの部分の中の1つは重力場のエネルギーを、もう1つの部分は物質に属するエネルギーを表すと仮定し、式を構成する変数の依存関係に特定の条件を課すことによって、上の2本の微分方程式を若干書き換えた。
§3 重力場の方程式の不変論的特性
このセクションは、難しい数学の記述が4ページほどにおよぶため、詳細を解説できないのでポイントだけ述べることにする。
重力場の方程式の立場から ds^2 = g(u,v)*dx(u)*dx(v) の形をした4次元時空のピタゴラスの定理(dsが不変量となる)により、g(u,v)の変換性が決められる。しかし、物質を記述する関数 q(ρ) の変換性については特別な仮定を設けない。
前のセクションで書き換えた2本の微分方程式が一般共変性を持つことを導いた上で、4ページにわたる計算を進める。
その結果、運動量とエネルギーの保存則を表す一般共変な形をした式が導かれる。注目すべきなのは、これが前のセクションで若干書き換えた重力場の方程式と(幾何学的な)一般共変性の要請だけから導かれたこと、その際に物質現象についての方程式は一切使われなかったということである。
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アインシュタイン選集(1)
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アインシュタイン選集(2):読みはじめた
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時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
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少年の頃の夢(の続き)
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> 浜村様... への返信
ありがとうございます。
>❮一般相対性理解完成の転機❯... への返信
ご質問ありがとうございます。私はそのような文献を知りませんので、Xのほうで「集合知」の方々へ問い合わせをしておきました。
こちらのポストです。
https://x.com/ktonegaw/status/1865781696752402687
マシュー⋅スタンレー著「アインシュタインの戦争」によれば、9/22 ローレンツから送られてきた論文が転機という。重力と電磁力を受ける物体にハミルトンの原理を適用したもので、
アインシュタインは、早速、回転運動に適用した。保存則が成立するかを、
エントヴルフ(草案)のときと同様に確認していった。この過程で、「穴の議論」が誤りであることを発見。即ち、エントゥルフ(草案)が誤りであることを悟った。理論を一般共変性のもとに再構築し、ベルリン⋅アカデミ
ーに11/4 、11/12に発表。11/18にその成果を「彗星の近日点移動の計算」として発表した。
9下旬から11月上旬にかけて、一般相対性理論は実質的には完成したていえる。
上記の内容について、詳細が書かれた文献をご存知の方、ご教示いただければ幸いです。