とね日記

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発売情報: 現象を解き明かす微分方程式の定式化と解法: 小中英嗣

2016年11月25日 01時44分06秒 | 物理学、数学
現象を解き明かす微分方程式の定式化と解法: 小中英嗣

内容:
理学・工学・経済学などの基礎教養である常微分方程微分方程式は、どこでどのように役立っているのか――『定式化→解法』の順番で学んでいけば、その答えがみえてくる。一味違った切り口の入門書。

◇定式化によって現象を数式で表そう◇
物体の落下や人口の増加など、さまざまな現象に対して『定式化』を行います。
現象を数式で表すにはどうしたらよいか、数式で表すと何がわかるのか。微分方程式のもつ意味や効果を知ることができます。

◇解法を身につけ、現象の動きを明らかにしよう◇
変数分離法や定数変化法からラプラス変換まで、微分方程式の『解法』を一通り解説します。
微分方程式を解くことで、現象の特徴を理解できたり、これからどのようにふるまうか予測することができます。

数学がどこでどのように役立っているのかを知りたい数学ファンから、微分方程式を実際に使って研究をする学生やエンジニアまで、幅広い方々におすすめの一冊です。
2016年12月1日刊行、256ページ。

著者について:
小中英嗣 (こなかえいじ)
工学博士(名古屋大学)。名古屋大学大学院 博士後期課程電子情報学専攻修了。名城大学理工学部情報工学科准教授。専門分野:システム理論、制御理論(特に、ハイブリッドシステム論とその応用)
教員情報のページ: http://www-ie.meijo-u.ac.jp/staff/KonakaEiji.html
小中先生のブログ: http://www.plus-blog.sportsnavi.com/konakalab/


昨年5月に「ちょっと気になる常微分方程式の本」という記事で微分方程式の入門用教科書をいくつかピックアップしたが、読後の紹介記事としては1冊も書いていない。物理学科向けの本も読みたいし、数学科の専門課程で学ぶ微分方程式論のような本も読んでみたい。電子工学にも興味があるから工学部向けの教科書も読んでおきたい。それでいて内容の重複をなるべく避けたいと思うから最初の1冊になかなか手を出せないでいるわけだ。(もちろん学生時代に僕は解法をひと通り学んでいるので急いで読む必要がないということもある。)

このようなニーズをすべて満たしているのは結局「自然科学者のための数学概論 増訂版改版:寺沢寛一」だと気づき、その730ページもあるボリュームに学ぼうとする意欲が粉砕され、「この本は無理だ。」と振り出しに戻ってしまう。

本書は僕が抱えている「選択の悩み」を解決してくれるわけではないが、工学部系のニーズはすべて満たしてくれるという意味ではとても良い選択なのだ。そして物理学専攻、数学専攻の学生にとっても「手ごろ」で「役に立つ」本である。


12月1日に森北出版から発売。工学部の学生、特に制御工学や電子回路を専門にしたい方にお勧め。解法集の色合いが濃い教科書でラプラス変換を使った解法が詳しいのが特色。章立ては次のとおり。

Chapter0 はじめに
Chapter1 動きと微分
Chapter2 微分方程式で現象を表す
Chapter3 微分方程式の解き方
Chapter4 ラプラス変換を用いた微分方程式の解法
Chapter5 まとめ

まだ通読はしていないが、ざっと読んだ限りで僕が感じた特長を述べておこう。


バランスがよい

問題の設定や解説、定式化のしかた、解き方の3つの側面についてバランス良く書かれている。

設定されている例は物理学のものがいちばん多く、生物学、人口推移、預金と利息など実用的なものばかりだ。


使いやすい、紙面が有効に使われている

標準的な教科書のサイズで分量も256ページと手ごろ。1年間の講義のための教科書としてちょうどよい分量である。余白を狭くして大き目の文字で印刷されているから読みやすい。ページを見たときの印象は大切である。小さい文字でごちゃごちゃ書かれている本は内容がよくても学ぶ意欲を削いでしまうものだから。本書は各章の最終ページも下まで記述が占められていて、紙面が最大限有効に使われている。

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解法例、例題が豊富で検索しやすい

ページ数、ページサイズの制限があるにもかかわらず、余白を狭くしたことで解法例、例題をたくさん紹介することに成功している。それでもなお通読可能な分量であるし、解法事典のように必要なときだけ参照するという使い方もしやすい。


ラプラス変換を使った解法例が豊富で詳しい

工学部用の教科書にはラプラス変換を使った解法をぜひ含めていただきたいものだ。本書はこの要件を満たすだけでなく、電子工学や制御理論では重要な「一定時間のみ電圧がかかる」ような状況や「パルス波という一瞬だけ電圧がかかる」ような状況の場合も微分方程式をたて、ラプラス変換で解くことを多くの例題を紹介しながら解説している。僕はここがいちばん気に入った。

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高校の範囲の微分・積分が解説されている

「Chapter1 動きと微分」と「補遺」で高校の範囲の微分・積分のおさらいをし、意欲的な高校生が学びやすくなるような配慮がされている。


本書がカバーしていない部分についても述べておこう。

工学部の学生に対して

フーリエ解析、フーリエ変換、そしてこれを使った微分方程式の解法は本書に含まれていない。これだけ別に学ぶのもよいし、偏微分方程式の教科書でフーリエ変換を使った解法を含めて解説したものがあるので、そういった本で学ぶのがよいだろう。

工学部でも材料系など量子力学を学ぶ必要のある学生、また流体力学を学ぶ必要がある学生であれば、フーリエ変換、ベルヌーイの微分方程式、ダランベール(ラグランジュ)の微分方程式、オイラーの微分方程式、エルミートの微分方程式、ルジャンドルの微分方程式、ベッセルの微分方程式なども学んでおいたほうがよい。これらがどのようなものかは「EMANの物理数学」の「微分方程式」の箇所をご覧いただきたい。


物理学専攻の学生に対して

フーリエ変換、ベルヌーイの微分方程式、ダランベール(ラグランジュ)の微分方程式、オイラーの微分方程式、エルミートの微分方程式、ルジャンドルの微分方程式、ベッセルの微分方程式なども学んでおいたほうがよい。これらがどのようなものかは「EMANの物理数学」の「微分方程式」の箇所をご覧いただきたい。


数学専攻の学生に対して

物理学専攻の学生が学ぶ内容に加えて、微分方程式がなぜ解けるのかという視点から「常微分方程式:坂井秀隆」をお読みになるとよいだろう。この本の目次は「ちょっと気になる常微分方程式の本」に書いておいたので参考にしてほしい。


今回は発売情報として大まかに立ち読みレベルで紹介したが、通読してから別途紹介記事を書くことにしよう。


関連ページ:

常微分方程式の考え方や解法をネットで学びたい方は、次のページでどうぞ。

微分方程式を図解する(前野昌弘先生のページ)
http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrMC/sim/DE.html

微分方程式解法ノート
http://www.tsuyama-ct.ac.jp/matsuda/d-eq/bibun0.htm

微分方程式の解き方
http://www.geocities.jp/tc205ki/dfdata/dfeq.html

微分方程式演習
http://brain.cc.kogakuin.ac.jp/~kanamaru/lecture/difeq/


関連記事:

ちょっと気になる常微分方程式の本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/779e59b0996c582373308c0a4facf16f

大学で学ぶ数学とは(概要編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

線形代数学入門のための教科書談義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d2ac30c9f5f620ad703304d710ed90b

解析学入門のための教科書談義
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22c325e49cfd7c721679dbc2896b86a4

自然科学者のための数学概論 増訂版改版:寺沢寛一
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3cd107d2f6575cccc88dee06aa4b03ab

増補版 金融・証券のためのブラック・ショールズ微分方程式:石村貞夫、石村園子
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4601dda9ae0833c273d5d04aa83424d7

なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/16d054ebc14ad1c4336f2b9f997eb00c

高校数学でわかるフーリエ変換:竹内淳
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/aa1e79d97684f88319d9d4e96e6a89a3

熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5bcc7bc3efc16463743cd01d3c989622



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現象を解き明かす微分方程式の定式化と解法: 小中英嗣



Chapter0 はじめに
0.1 全体の流れ
0.2 学習にあたって
0.2.1 本書の使い方
0.2.2 その他の分野とのかかわり

Chapter1 動きと微分
1.1 速度と微分
1.1.1 速度の計算
1.1.2 速度を式で表す
1.1.3 瞬間の速度を求める
1.1.4 微分の定義
1.1.5 変化率と微分
1.1.6 加速度と高階微分
1.2 さまざまな関数の微分
1.3 速度と積分
1.3.1 面積と定積分
1.3.2 定積分,不定積分と微分
1.3.3 さまざまな関数の不定積分
1.3.4 速度と積分
1.4 本章のまとめ
章末問題

Chapter2 微分方程式で現象を表す
2.1 運動方程式
2.1.1 物体の落下・投げ上げ
2.1.2 ばね・重り系
2.1.3 振り子
2.1.4 円運動
2.2 電気回路
2.2.1 基本的な電気回路
2.2.2 抵抗・コイル・コンデンサの特性
2.3 仕事とエネルギー
2.4 放射性元素の崩壊
2.5 生物の増減
2.5.1 より現実に近づけるには?
2.5.2 食うか食われるか捕食者・被食者モデル
2.5.3 感染症の流行
2.6 預金と金利
2.7 曲線の表現
2.8 本章のまとめ
章末問題

Chapter3 微分方程式の解き方
3.1 微分方程式を「解く」とは?
3.2 単純な積分による解法
3.3 一階微分方程式と変数分離
3.3.1 変数分離法の基本
3.3.2 複雑な変数分離法
3.4 斉次系・非斉次系と定数変化法
3.4.1 一階微分方程式の分類
3.4.2 定数変化法
3.5 指数関数と特性方程式
3.5.1 定数係数線形微分方程式とその解の形式
3.5.2 特性方程式を用いた解法
3.5.3 物理現象としての解釈
3.5.4 特性方程式と解の収束(二階微分方程式の場合)
3.6 未定係数法
3.6.1 特殊解を得るための複素法と電気回路論
3.6.2 高階微分方程式に対する定数変化法
3.7 連立微分方程式
3.8 本章のまとめ
章末問題

Chapter4 ラプラス変換を用いた微分方程式の解法
4.1 ラプラス変換
4.1.1 ラプラス変換の定義
4.1.2 ラプラス変換と微積分
4.2 ラプラス変換を用いた微分方程式の解法
4.2.1 展開定理
4.2.2 ラプラス変換を利用した電気回路の解法
4.3 本章のまとめ

Chapter5 まとめ

補遺
A.1 三角関数,指数関数,対数関数
A.2 さまざまな関数の微分
A.2.1 多項式,分数関数
A.2.2 和,差,積,商の微分
A.2.3 合成関数の微分
A.2.4 三角関数,対数関数,指数関数の微分
A.3 さまざまな関数の積分
A.4 定義,定理,法則など
A.5 次元(単位)解析

参考文献
索引
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4 コメント

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Unknown様 (とね)
2017-09-27 16:54:58
ご連絡いただき、ありがとうございます。
教科書としては内容、分量ともに申し分ないと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2017-09-27 12:47:38
小中先生が名城大学理工学部情報工学科「応用解析」の講義で使っている自費出版教科書を書籍化したものです(現在はこちらが教科書とされています)
ざっくりいってしまえば一大学の一講義用の教科書を書籍化したのと同義です
返信する
Re: 意外なこと (とね)
2016-12-05 12:15:21
やすさん

「勘違い」とは何のことだろう?と興味深くコメントを読ませていただきました。

自分で設計した電子回路に対して実際に微分方程式をたてて解くというのは面白いでしょうねぇ。

数学や物理の練習問題でしか解いていない僕は、まだそのような面白さを経験していないからうらやましいです。
返信する
意外なこと (やす)
2016-12-05 08:39:38
とねさん

数年前に、久しぶりに微分方程式を解いたばかりです。とはいっても数学が得意でない私に解ける簡単なものです。

フォトダイオードが光を受けてから電流が発生するまでと応答特性(過渡現象)について、立ち上がり時間(sec)と帯域(Hz)の関係について、どうも日本人や欧米人の技術者の多くが勘違いしているような気がしていました。

そこで、フォトダイオードの等価回路を考えて高校物理の知識で微分方程式を作ってみると、自分でも解けそうで、実際に解いてみると、やはり彼らは勘違いしていることがハッキリした、と言う経験があります。

常微分方程式は簡単には解けないという思い込みが、実は簡単なものなら解けるのに、私自身をふくもて食わず嫌いしていると云う良い例だとおもいます。

ちなみに、pn接合を利用する量子型光受光素子(要はフォトダイオード)は、立ち上がり(10%から90%)と帯域の積は1ではなくて約0.35になります。おおくの方が1になる、つまりこれらは互いに逆数になると勘違いなさっているようです。

そんなことを思い出しました。
返信する

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