雑誌「ブルータス」の「町中華」特集で、新橋の「ビーフン東」が掲載されていた。一度、M井住友のO塚さんに連れてきてもらったことがある。もう10年以上も前のことだ。久々に行ってみようと、新橋駅前ビルの2Fに行って、店舗を覗いてみると、思っていたよりも店が空いていた。こりゃ、ちょうどいいと思って入ろうとしたが、ふとビルの廊下を見ると、酒場らしき店が見える。
「あんなとこに店なんてあったっけ」。
念のため、確認しに行くと、そこは立ち飲みだった。
新橋はくまなく、見てきたつもりだった。だからこそ、4年半もの長い間、立ち飲みラリーは新橋にとどまってしまった。だが、まだ発見できてなかった立ち飲みがあっただなんて。ある意味、ショックだった。
店舗を見たところ、新進店ではなかった。いや、むしろ店は古い。だからこそ、恥ずかしかった。ボクは一体何を見てきたのだろうと。
「壱番館」という店に入ると、ここはかつてスナックだったのだろうと容易に想像がつく。店はうなぎの寝床のように細くて狭いが、かつて日本の経済が繁栄していた頃、ここにもたくさんの人が訪れ、好況を謳歌していたのだろう。
店はボクが一番乗りだった。カウンターの奥に陣取り、落ち着いて店の周囲を見渡した。昨今の立ち飲みは、「はじめの一杯」をやけにせっつく店が少なくない。ついつい焦ってしまうのだが、店のママは意に介さず、仕込みを続けている。
カウンターには、小皿料理が出て、缶詰めが積まれている。いい雰囲気だ。
酒は洋酒から日本酒まで、幅広く取り揃えている。肴も素朴な料理が盛りだくさん。ホワイトボードにそれらがびっしりと手書きされている。
その中から、ボクは「浦霞」(550円)と「タコのぶつ切り」(250円)を頼んだ。肴はほとんどが250円である。
20年前、先輩記者に連れられて、新橋駅前ビルに行った。あの頃はまだバブルの余韻があり、どこぞの2号さんとやらが、あちこちで店を出していた。瓶ビール一本と肴一品で5000円という信じられない時代だった。この店はあの時代をくぐり抜けてきた。
「いつもだと、お客さんでいっぱいなのよ」とママが言う。今夜は出足が遅いらしい。きっと、あの時代をくぐり抜けてきた人たちが、多く集うのだろう。
タコ刺しでいただく酒。スナック然としたカウンターには似合わない。けれど、妙に味のあるカウンターに、その歴史を感じる。ごちゃごちゃした立ち飲みが少なくないが、今までたどり着けなかった立ち飲みが、この新橋の歴史を刻んだような店でよかったと思う。
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