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居酒屋放浪記NO.0223 - 市民球場と共に - 「広島 酒呑童子」(広島市中区)

2009-02-09 13:03:12 | 居酒屋さすらい ◆地方版
 市民球場までは市電を使わずに歩くことにした。
 原爆の日が過ぎ、お盆を迎えた広島の町の雰囲気を肌で感じたかったからだ。
 京橋川の水面はとても安らかにゆらゆらと西日を映している。
 橋のたもとにデリ風の屋台が並んでいた。ビールでも飲もうかと思い、近寄ってみたが、お客はおろか、お店の人の気配もなく、わたしは素通りした。

 そう思うと俄然ビールが飲みたくなった。
 銀山町に差し掛かると、威勢のよさそうな居酒屋の看板が見えた。地下にあるというその店を求め、階段を下がっていくと「お客さん!すみませんねぇ。お店は5時半からなんですよ」という声が店の奥から聞こえてきた。
 再び階段を上がって外に出ると、そこはもう新天地の入口であった。
 この風景は見覚えがある。

 8年ほど前、広島を訪れた際に立ち寄った「地ビールレストラン 平和工房」があるエリアではないか。
 そう思い、ふらふらとその盛り場に足を踏み入れると、果たしてその地ビールレストランは未だ健在であった。
 
 規制の緩和によって日本のマイクロブルワリーの可能性が開けると、一気に日本の地ビール会社は林立した。だが、観光地の中の地ビールという域を出られなかったマイクロブルワリーはその後一気に衰退したと聞く。だが、「平和工房」はそうではなかったようだ。そう思うと少し、わたしは嬉しくなった。

 さて、適当な居酒屋をと思い物色してみるのだが、どうにも入店する決め手がどの店にもない。気が付くと、わたしは市民球場の近くにまで来ていた。
 「球場でビール飲もうか」と球場に足を向けた途端、赤い看板のお店が目に入ってきた。
 「広島 酒呑童子」と書いてある。一見、チェーン店にも見えるが、まずは試合前の景気付けが必要である。そう思い、わたしはその店の暖簾をくぐったのである。

 店は変わった作りだった。
 まず、自動ドアをくぐると目の前に会計をするレジコーナーがあり、そこはもう突き当たりになっている。通路は右90度に曲がっており、客席はその通路の向こうだ。しばらく行くと右手に厨房が現れ、その目の前がカウンターになっている。
鰻の寝床のような細長いスペースにテーブル席、カウンター席、そして奥には小上がりを用意しているようだった。

 客はまだまばら。近所のご隠居さん同士が酒を飲みにきているあんばいと思われる客が一組だけ。
 それはそうだ。世間は今、お盆休み。サラリーマン客などいない。だが、ウイークデイともなれば、多くのサラリーマンでごった返すのではないかと思うのである。

 わたしはカウンターに座り、生ビールを頼んだ。ビールはアサヒスーパードライ。
 この辺りはアサヒの牙城なのか。市民球場の西日よけにはスーパードライの看板。ここは敬意を表してスーパードライを頂くことにしよう。

 酒肴は冷や奴。きざみのりをまぶした木綿豆腐だ。お盆休みのさなかもしっかり豆腐をこしらえてくれる豆腐屋さんに感謝!

 ビールを飲み干して酎ハイを頼んだ。だが、お店の給仕のおばちゃんに酎ハイが通じない。店のメニューにはしっかり「サワー」もラインナップされていたのだが。そこで、わたしが酎ハイの説明をすると、特別に作ってくれることにした。広島には酎ハイがないのだろうか。こってりとした広島お好み焼きには、すっきりした酎ハイが合うように思うのだが…。

 酎ハイの酒肴には「アジの南蛮漬け」(380円)を頼んだ。東京の居酒屋で南蛮漬けを見ることは少ない。珍しくて思わず頼んでしまったのだが、これがけっこううまかった。アジと玉葱だけだったが、ピリリと辛いつゆはまさに濃厚。
 義母が作るそれと比べれば味は浅いが、小アジにしっかりつゆがしみている。

 残念ながら、プレーボールの時間が迫っており、わたしはそれらを食べて店を辞去した。
 市民球場とはもう目と鼻の先。原爆ドームはこの並びだ。
 
 恐らく同店はゲームが終わった後、多くのカープファンに美酒とやけ酒を提供してきたに違いない。そして、このカウンターやテーブルにたっぷりと悔し涙や勝利の涎(?)を染みこませてきたことだろう。市民球場はいよいよ09年のオープン戦でその役割は終える。人の流れも大きく変わるだろう。同店がいつまでも末永く続いていくように今はただ祈るのみだ。

 

ちなみにこの日のゲームは、序盤にドラゴンズに5点を先制されるも、見事な逆転勝ち。これで、熊猫の市民球場での観戦を3勝0敗とし、有終を飾った。



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