卒論を提出したものの、10日後には口頭試問が待ち受けていた。
そのプレゼンを考えなければいけないのだが、1日くらいは羽を伸ばそう。そう思って、怪鳥と飲みに行く約束をした。
久々のホッピー研究会である。
怪鳥を「鳥けい」に連れて行きたく、錦糸町で待ち合わせをした。
居酒屋なのにカレーパンが有名な、あの店である。
「鳥けい」に行ってみると、また例のごとく店は満員で、気のいい女将さんがわざわざ出てきて、「申し訳ありません」と挨拶をしてくれた。
いつ行っても満員である。
この店、最近、きたろうさんの「夕焼け酒場」に出たらしく、それからまたお客が増えているようなのだ。
ともあれ、行き場をなくしたボクらはしばらく錦糸町の酒場を探した。
JRAの界隈を歩いたのだが、しっくりくる酒場がない。
「サイゼリヤ行こうか」など言っているうちに、一軒の酒場が目の前に見えてきた。
古そうな居酒屋である。
看板と暖簾に大きく「三四郎」と書かれている。ものすごい存在感とともにその字面そのものがかっこいい。
「入ってみようか」とボクは怪鳥に促した。
怪鳥は「うむ」と答えた。
引き戸を開けると、眼前に現れたのは、見事なコの字カウンターだった。
いや、コの字というよりは厳密にはひし形のカウンターである。
思わず「おぉ」という声が漏れた。
ボクらはそのカウンターに腰かけた。
そのまま瓶ビール(650円)をいただく。ビールはキリンラガー。硬派である。
メニューを眺める。
ほほう、「ヌタ」がある。正統派の居酒屋である。
おっ「どぜう汁」(420円)。これはすごい。
酒肴の主役はもつ焼きか。1本150円。
嬉しいのは「ハムエッグ」(530円)。こういうメニューを見ると、ボクは気持ちがグッとくる。
さて、何を頼もうか。
ボクらは迷った。
「鳥唐揚」(400円)もいい。
「チキンカツ」(570円)の文字を見た瞬間、ボクは井之頭五郎氏みたいに「そうきたか」と唸ってしまった。
古い酒場であるものの、食堂のようなモダンなメニューも兼ね備える「三四郎」に、ボクらはアテのチョイスに悩んだ。
結局、悩みに悩み抜き、ボクらが出した答えは「まぐろヌタ」(530円)と「にら玉」(580円)である。
うまい!
奇をてらう訳でなく、創作するわけでもなく、あくまでも正統派な「まぐろヌタ」。酢味噌のブレンドが絶妙である。
ビールを飲み干し、「焼酎ハイボール」(420円)に。
期待通りのものが出てきた。
ちょっと琥珀色、レモンのスライスが浮かんでいる。
甘くなく、炭酸が効いている。レモンがほんのりと大人の味を演出し、清涼感に溢れている。
うまい!
まさに正統派の「焼酎ハイボール」だ。
ブレずに生きることは難しい。そういう生き方をしている人をとんと見なくなった。
だからこそ、今の時代には貴重なのだろう。
一本筋の通った居酒屋。それは頑固とは違う。正統派という生き様。
まっすぐ歩き続ける、そんな店なのだろう。
ボクらはいつも迷いっぱなし。迷いさまよい、ボクらはこの店に辿り着いた。
「居酒屋さすらい」から「居酒屋さまよい」に変えようかしらん。
怪鳥はあんまり乗り気じゃなかったよね。
出た後もさして感想を述べず。
自分らの趣味嗜好が古典酒場から、飯が食える酒場にシフトしているからかな。
なんか馴染めなかっただけだと思うよ。
なぜだかわからんな~。
ま、最初にトライした店に行きたかったなあ、とは思ってたかもだが。
17時には飲める体勢にいないと。