甲府の宿は「萬集閣」という旅館だった。
甲府駅を出て、3分ほど歩いて到着したら、その外観にいささか驚いた。蔦が絡まった古い旅館である。今時、まだこういうところがあるのかと思ったのである。旅館は木造3階建。玄関を手で開けて、「こんにちはー」と声をかける。すると奥から白髪のお母さんさんが現れ、受付をした。隣の部屋は古美術屋さんで、恐らく同じ経営と思われる。
玄関に大きな柱時計があり、2階に続く階段や廊下にも柱時計が飾られていた。まるでどこかにタイムスリップしたような気がする。独特の雰囲気だ。部屋は2階の6畳間。和室で襖の入口に無理矢理鍵をつけた部屋だった。部屋にはトイレ、バスはなく、トイレは共同だった。ただ、一応Wi-Fiは飛んでいるのには驚いた。
出がけに部屋の鍵をかけようとしたが、これがなかなかうまくいかない。何度も何度も試みのだが、ことごとく失敗だった。そうすると、誰かが階段を昇って近づいてきた。困ったな。
近くまできた時、「こんばんは」と挨拶した。どうも、隣の部屋の人らしい。
「あ、なかなかうまくいかないでしょ。コツがいるんです」と笑いながら、部屋に入っていった。なんとか鍵をかけて、ようやく出掛けることが出来た。
「くさ笛」から帰り、さて風呂に入ろうかと階下に下がった。果たして、どんな風呂か。ちょっとドキドキする。
自分は約1年間のバックパッカー時代に汚くて風呂に入れなかった事例は2軒。マカオの「皇宮飯店」とインドのチベッタンキャンプ。いずれも凄まじかった。
宿の一階に降りて、脱衣室に入る。建物は古いが、一応清潔だ。浴室を覗きこむと、部屋は狭いが、問題はなさそう。とりあえず、ホッとした。狭い浴室といっても、我が家の倍はありそうで、シャンプーとボディソープと据え付けられていた。浴槽は我が家と遜色のない広さだったが、お湯は柔らかくて気持ちよかった。
明日からの決戦を控えて、今夜は是が非でもお風呂に入っておきたかった。甲府の夜は早いらしく、21時を過ぎたら、お店は閉まっていた。最悪のケースを想定して、銭湯をリサーチしていたが、駅の北側にある風呂屋も22時で閉まるらしいので行くのをやめた。結果的にはそれが正解だった。宿の風呂にゆっくり浸かって、疲れを癒すのが一番いい。体がポカポカのまま、眠りにつけるのだから。
でも、エアコンの室外機が窓を使うタイプになっているのは錯覚ではありません。