西明石には、数年前から度々来るようになった。宿泊するのは、いつも新幹線駅周辺のホテルである。行動範囲も自ずと新幹線駅側に集中してしまい、酒場を探してきた。けれど、同僚のT根から、耳寄りな情報を聞いた。
「在来線側の駅向こう側がヤバい」。
奴の情報によると、在来線西明石駅南口に地下街があるのだという。その地下街がヤバいらしいのだ。
新幹線と在来線の駅は近い。散歩がてら行ってみた。
その地下街は駅の階段を降りた、すぐにあった。なんとも怪しげな入口だった。灰色の階段を更に降りると、飲食店が左右に並ぶ地下街に出た。地下街といっても数十mの小さな空間である。まるで、東銀座にあった三原橋の地下街のようだ。
その小さな地下街には2軒の立ち飲みがあった。さて、どっちに入るか。どっちに入るべきか。一軒は、どうしようもなく場末な店。もう一軒は、どこにもありがちな立ち飲み。ボクは地下街を一往復して考えた後、茨の道を選ぶことにした。
ボクが店に入った店は、どうしようもないほどの場末の店、「うま安」。店に入った瞬間、感じたのは、「きてるなぁ」。いや、木梨憲武の言葉を借りるなら、「きまくりやがってるな」だ。
コンクリートの三和土。殺風景な空間。幅広のコの字カウンター。そして、ろくでなしそうに見える先客。
ボクは店に入って、カウンター奥を目指した。先客は入口近くにいて、奥には誰もいなかったからだ。時間稼ぎという意味もある。なるべく時間を使って、何をまず頼むべきか、そして店のシステムがどのようになっているかを探る。壁に貼られた短冊メニューに、カウンターに小銭があるか、ないか、そんな些細なことに意識を集中する。東京の立ち飲みなら、なんとか勝手が分かるが、関西のそれは予想ができない。だから、余計に意識を高めて、出来うる限りの情報を集めなくてはならないのだ。
けれども、その情報収集は難航した。ほとんど、収集できなかったに等しい。カウンターのテリトリーに落ち着いて、まずは瓶ビールを頼んだ。妥当なところで。420円。上野の「たきおか」に比べれば、若干高い。けれど、この金額もかなり頑張っている。
コの字カウンターの奥にきて、常連とおぼしき先客と相対する形になった。喚きちらす歯のない人、静かだが、主のような老人、その中で最もまともそうな中年一人が、それぞれ間を取りながら話をしている。ボクはスーツ姿でたたずみ、明らかに場違いだった。
さて、つまみはと、キョロキョロすると、店のおばちゃんが、「簡単なつまみは、後ろの冷蔵庫からとってね」という。なるほど、早速そこから「白菜漬物」(100円)をいただいた。
ビールとつまみ一品で520円。ものすごい安さだ。
「ハムエッグ」(300円)というメニューもある。ボクの経験上、「ハムエッグ」のある店は間違いない。その「ハムエッグ」は、コの字中央の厨房で作られる。
その「ハムエッグ」がうまいこと。
うまくて安い。
まさにうま安。
最後に、「日本酒」を冷やで。
240円。
結局、常連さんの話の輪に最後まで入れなかった。その重苦しさに耐えられず、これで店を出てしまった。
締めて1,060円。
もう少し、店を堪能したかったが、こんなもんだろう。
次回はもっとリラックスして入りたい。
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