日程:2014年9月13日(土)~15日(祝) 前夜発二泊三日
同行:タケちゃん(その空の下で)、Sさん
参考:「関東周辺沢登りベスト50コース」(山と渓谷社・2002年刊)
この夏、ケニアへ行っている間にタケちゃんからメールが来て「秋になったら沢へ行きましょう!」のお誘い。
当初は奥只見・北ノ又川の予定だったが、直前になり目まぐるしく変わる天気予報に翻弄され、南ア、そして北アへと計画変更。結局、双六谷に落ち着いた。
双六谷はガイドブックで見たエメラルドグリーンの釜が魅力的だが不意の増水を考えると単独ではキツいかなと思っていたので、沢の師匠、タケちゃんがいれば怖いもの無し。
さらにここ数年、タケちゃんとかなりの沢をこなしているSさんも加わる。
お二人は昨年、この流域の小倉谷遡行~打込谷下降を経験済みで、何とも心強い。
一日目
天候:/
行程:金木戸林道・車止めゲート7:30-広河原10:10-打込谷出合11:40-センズ谷出合14:00-下抜戸広河原15:10
松本から上高地へ向かう途中の「道の駅・風穴の里」に朝6時半集合。
今回は車二台のため、まずはタケちゃんの車を下山口の新穂高温泉へデポし、その後、私の車で金木戸方面へ向かう。
新穂高温泉「深山荘」の無料駐車場は既に物凄い車の数!
何とかギリで一台停められたが、危なかった。さすが三連休、うかうかしていられない。
そこそこの距離を走って、金木戸林道の第一ゲートに到着。
10台ほど停められるスペースには既に4台ほどが先着していて、沢支度を進めているパーティーもいた。
我々もそそくさと用意し、出発。
ただ、双六谷はアプローチが長い。
まずは歩きやすいほぼ平坦な林道を約3時間。
岩をくり抜いた自然のままのトンネルをいくつも越え、時折山側から流れ落ちる清水に喉を潤わせながらひたすら歩く。
Sさんは観察眼が鋭く、歩いていても常にキノコや野イチゴ、山ブドウなどを目ざとく見つけるが、この日も途中、左側の山の斜面に猿の群れを発見。
「おっ、いるいる。」などと見ていたら、突然そのうちの一匹が直径1mはあるデカい岩をこちらに落としてきた。
ウォー!!ヤバイっ!・・・。
間一髪避けることができたが、猿に気づかず素通りしていたら直撃していたかもしれない。(これがホントの「猿岩石」?)
林道は途中二俣に分かれ、我々はそのまま右側の川沿いへ。
しばらく行くと広河原の取水ダムとなり、ここからは右岸樹林帯の中のよりワイルドな旧トロッコ道をさらに小一時間進む。
この辺りはいかにも熊のテリトリーといった感じで、交互に笛を鳴らしながら行く。
長いアプローチもようやく終わり、打込谷出合付近の壊れた吊橋に出ると魅惑のエメラルドグリーン釜とご対面。
長丁場だし、季節も秋で身体も冷えるので積極的に泳いだりはせずに進む。
この辺り、巨岩と淵の連続で、抜け道を探すようにして活路を見い出していくのが双六谷の醍醐味。
途中の巨岩はちょいとボルダーちっくで、ふだん履き慣れていない沢靴だとけっこう手強いのもある。
私は二週間前に丹沢で痛めた右手小指が完治せず、岩をプッシュして押さえる場面では力を存分に入れられないので難儀する場面がいくつかあった。
また、徒渉で飛び石伝いに渡るところでは、沢慣れしている二人には何ともないジャンプも私にはどうにも怖い。
(あの岩、スベリそう→スベるだろ、たぶん→いや、絶対スベる!→ここでスベったら流される!)と思考回路がたちまち良くない方向へ展開し、ついビビリ腰になってしまう。
タケシ師匠は水中の岩に飛び移る時は思い切って体重を十分に乗せるようにとアドバイスをくれるが、やはりこういうものは「絶対滑らない!」と思えば滑らないのだろうし、「滑るかも。」と思ったら滑ってしまうのだろう。
それでも落ち着いた天気と美しい渓観に気分を良くしながら、センズ谷出合まで進む。
ここらで先行の男女二人組に追いつく。(千葉の「まつど岳人倶楽部」)
入渓前のアプローチでタケちゃんとSさんは青いヤッケを着た先行者をチラッと見かけたので、「その人はもっと先ですか?」と聞いてみたら、そんな人は見かけなかったとのこと。
いるとしたら、我々と彼らの間にいるはずなのだが・・・・・・これって、もしかして幽霊?
薄ら寒くなってきたので、これ以上この話はしないことにして先へ進む。
彼らはこの先、九郎右衛門沢に入り、黒部五郎へ詰め上がると言う。先行してもらって、我々もボチボチ天場探し。
トポで下抜戸広河原と書かれた右岸の一画に絶好の天場を発見。
豊富で乾いた流木を集め、豪勢な焚火で一日目の夜となる。
二日目
天候:/
行程:ビバーク地7:00-キンチヂミ7:55-蓮華谷出合9:15-二日目ビバーク地(2,100m地点)15:00
今回は寒さを見越してタープではなく、タケちゃんが三人用のゴアテントを持ってきてくれたおかげで快適快眠で朝を迎える。
当然ながら朝から焚火。
タケちゃんがいると、沢ではまずストーブを使うことは無い。
出だしはしばらく河原が続く。
やがて明るく開けたゴルジュのような地形に入るとヘツリと徒渉の連続となる。
私は沢慣れした二人の後を付いていくばかりだが、無闇に付いていくとこの二人は敢えて厳しい道を選ぼうとするから要注意だ!
次々と現れるヘツリ、徒渉を繰り返し、やがてちょっとした大きさの釜に着く。
ここは左岸の水線より2mほど上をトラバースしていくのだが、スラビーでちょっと悪い。
途中にA0用の残置があって、これを使ってタケちゃん、Sさん、私とクリアしていくが、私はトラバースが済んだ後のちょっとしたクライムダウンで思わず足が止まってしまった。
下の着地場所がどうにも斜めに見えて、ここでバランスを崩したら泡立つ深い釜にドボン!なのである。
「大丈夫!飛び降りちゃってください。」とタケちゃんは言うが、一度不安を感じるとすべてが疑心暗鬼になってしまう。
後から冷静に考えれば残置にスリングを付け足せば、難なく下に着地できたと思うが、その時は気持ちがそこまで及ばず、タケちゃんに足元をサポートしてもらいながらソロソロと降りる。(あぁ、情けない)
結局、後から調べてみると、ここが双六谷の核心?の「キンチヂミ」だったよう。
キンチヂミ付近からいくつか右岸からダイナミックな大滝が出合うのを見送りながら進むと、やがて蓮華谷との二俣。
蓮華谷方面の奥には黒部五郎らしき山頂に白い岩がまばらとなった山頂が見える。
だいぶ水量は減ってきたが、まだまだしぶとく流れは続く。
そろそろ行く手の稜線も谷間越しに見えてきた所で小休止。
ふと見ると、ザックにくくりつけてきたモンベルのフローティング・ベストが無い!
ここまで泳ぐことは無く、たぶんこの先も使わずに済みそうだが、このまま沢の藻屑にしてしまうのはもったいない。
二人には申し訳ないが、一人引き返して捜索へ向かう。
おそらく一つ下のブッシュ、さらにはもう少し下のブッシュをくぐり抜けた所で枝に引っかけてしまったのだろう。
しかし、それらしき所を通過しても見つからない。
もしかしたら徒渉の時に落ちて、もう流されてしまったのかも。あぁ、軽く考えてセルフビレイを取っておかなかったのが失敗だった。
いつまでも上の二人を待たせるわけにもいかないので、あの下の岩を越えて無かったら諦めようと思ったら、ふいにソレはあった。
陽水の歌じゃないが「探すのをやめた時、見つかることはよくある話で・・・」というのは本当だ!
上流で待っていた二人は私がなかなか戻らないので、熊に襲われたか、滑って頭を打ち脳しんとうを起こしているんじゃないかと心配していたようだ。・・・どうもスミマセン。
稜線の幕営地より沢の中で焚火でしょうとのことで、標高2,100mより上を目安に天場探し。
しかし、沢が細くなってきた分、両岸の斜面も迫ってきてなかなか適地が見つからない。
結局、少し引き返す形で右岸の台地の草を刈り払って三人分のスペースを造成した。
ただ、この辺りはもう完全なる熊のテリトリー。糞やら草を踏み均した跡などケモノの気配がプンプンする。
空にはうっすらと天の川。タケシ師匠の焚火は夕食後も長く続いた。
三日目
天候:/
行程:二日目ビバーク地6:25-双六池8:30-鏡平9:20-新穂高温泉12:30
9月の北アルプスということで、ある程度の寒さを覚悟していたが、気温は思ったほどに下がらずグッスリ眠れた。
今朝も焚火で始まり、後は沢を標高差500mほどを詰め上げるだけ。
ここまで来るとさすがに不安を感じるような淵など無いが、その代わりにヌメリが出てきて疲れた身体に割と神経を使わせる。
残雪期の雪の踏み抜きと同じで、ここは大丈夫だろうと一歩置いたらツルッと滑ったりして何度もヒザやスネを思いっきり打ち付けた。もう勘弁してほしい。
やがて顕著な二俣となる。稜線はだいぶ近い。
方角的には右の沢だが、一段上がってみると左の沢の方が明らかにスケールが大きく、本流のような気がする。
地形図でよく確認し、リーダーの判断でここは右を選択。
少し行くと源流となり、後はほぼヤブ漕ぎ無しの涸れ沢となる。
ただ、最後の詰めになって不穏なモノが。熊の糞である。それも下ろしたてのホヤホヤ!これで、のほほんムードに一気に緊張が走る。
おそらくヤツらは木の陰からジッとこちらを窺っているに違いない。
笛を吹き鳴らしながら詰めていくと、そのうち稜線を歩いている登山者の姿が見えてきた。
あまり笛を吹いていると遭難と間違われるので、このへん何とももどかしい。
着いた所は双六池のあるキャンプ場。
さすがタケシ隊長。あそこの二俣でよくこちらを選んだものだ。
色とりどりのテントが建ち並ぶキャンプ地で、メット、沢靴、ヌメリ取りのタワシを持った我々は明らかに異邦人。
小屋には近寄らず、遠巻きに双六池の畔に腰を下ろして小休止とした。
下りは小池新道。初めて通る道だけに西側から間近に見える槍ヶ岳の姿が新鮮である。
それにしても二人の足が速いこと。
遡行中もしばしそのペースに付いていくのがやっとだったが、下りはなお早い。
自分が歳のせいもあるが、やはり二人ともほぼ毎週沢に行っているだけあって強い!
沢靴が慣れなかったのか、私は両足の親指の爪を死なせてしまい、最後はもうヨレヨレ。
充実した遡行だったが、自分には何とも辛い下山となった。とりあえず無事に新穂高へ下山。
双六谷は大きな滝は無く、登攀的要素はほとんど無い。(今回、30mロープ&ガチャ類を持参するも一切使用しなかった。)
その代わり、ヘツリと徒渉の繰り返し、場合によっては泳ぎを強いられ、水量によってはかなり厄介になると思う。総合的な沢の技術、判断力が必要だろう。
今回は自分にはややハードなペースながら、天気に恵まれ、屈強な二人に囲まれての安心遡行だったので助かった。