KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

穂高 出合からの滝谷、敗退

2018年07月15日 | アルパイン(無雪期)
2018年7月13日(金)-14日(土) 一泊二日
天候:両日とも
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
 
 さて今回は相方ヒロイさんの要望で、穂高・滝谷出合からの四尾根。久々のクラシック・アルパインである。
 
 もっとも自分は最初、この計画に正直あまり興味が湧かなかった。
 これまで滝谷は、GWに第二尾根、秋に四尾根とクラック尾根を登っているが、いずれも涸沢、北穂経由のコース。
 涸沢経由のコースもけっして楽ではないが、それでも本番の岩の部分を除けば一般登山道。まぁ安全、安心である。
 それなのになんでわざわざボロボロの岩場を経由して出合から・・・なんて思っていたのである。
 
 しかし、いろいろ記録を調べていくうちに、出合からの滝谷はこれはこれでなかなか「男気」のあるルートだと思うようになった。
 (パートナーは男じゃないし、まだアラサーだけど、山の好みは割と渋好み。)
 谷川岳の一ノ倉沢を出合から本谷通しに行くのが「リアル一ノ倉沢」なら、こちらはまさに「リアル滝谷」。
 例年だとまだ梅雨が明け切らない「海の日」の三連休だが、今年はなんと六月中に梅雨が明けてしまった。
 まずはどんなもんか行ってみますか!
 
一日目
行程:小田原発7:50-新穂高温泉13:00~14:30-滝谷出合避難小屋17:20
 
 このところお世話になりっぱなしのヒロイ号で御坂道-中央道と乗り継ぎ、松本から新穂高へ。
 松本のレストラン「十字路」の前を通過。この時はまだ「帰りはここでハンバーグ定食を食べたいね。」なんて呑気に話していたのだが・・・。
 
 登山口の新穂高温泉着。
 ロープウェイ乗り場に近い奥の駐車場は有料なので、手前の深山荘の無料駐車場まで戻るが、平日だというのに既にイッパイ!
 しかたなくさらに離れた「鍋平」の無料駐車場まで移動する。さすがにここはまだ停めることができた。
 ところが、ここでいきなり問題発生。いきなりヘンなおじさんに声を掛けられる。
 
 最初、駐車場の管理人か何かだと思って相手をしてしまったのだが、別に用件があるわけでもない。
 とにかく話好きで一方的に自分の住んでた所とかどうでもいいネタのマシンガントークが止まらない。
 しまいにはこちらが昼食として食べていたランチパックを缶コーヒーと交換してほしいなどと言う。いや、腹減ってるなら自分の車で買いに行けばいいじゃん。大体こっちはこれから山へ行くので、今、準備を忙しいんだ。
 ただの酔っ払いのヒマ人なのか、それとももしかしてこちらの行動に探りを入れてる車上荒らしなのか?
 最後は適当にあしらって駐車場を後にしたが、そのおじさん、今度は別の登山者に同じように絡んでいた。

 
 
 遠い駐車場、ヘンなおじさんと、初日から予期せぬ核心を二つもクリアしてしまったが、今日の行程はここから三時間ほどの滝谷出合の避難小屋まで。
 気を取り直して蒲田川の右俣林道を進む。
 ダラダラと単調な林道歩き。白出沢、チビ谷を横切り、ようやく滝谷出合の小屋に到着。
 暑くてけっこうバテた。片や相方はいつもニコニコ、今日も元気だ。

 

 誰も居ないだろうと思い込み、入口の戸を開けたらいきなり先客が一人寝ていてビックリ!いや向こうの方がもっとビックリしただろう。ゴメンナサイ。
 挨拶して、とりあえず自分たちのスペースを確保。
 荷物を置いて滝谷の偵察に出かける。
 
 二、三日前までの豪雨の影響か、出合付近は勢いのある流れがいくつにも分かれ、谷を詰めていくには何度か徒渉が必要になる。
 左岸伝いに行ける所まで上がってみると、上部にチラリと雄滝。さらに上には大きな雪渓が見えた。
 とにかく明日は行けるところまで。安全第一、無理しないことを確認し、小屋に戻る。

 
 
 本日の夕食はレトルトの「ヒマラヤンカレー」。
 献立は全て相方任せ。今回は装備、食料とも軽量化で絞りに絞ったが、食事はたいへん美味しくいただきました。
 
 明日に備え、早々とシュラフカバーに入ったが、20時頃になっていきなり中年の男女二人組がやってきて起こされる。
 その後も山ガール風が二人、そしてさらにはもう二人?
 半分寝ぼけていたのでよくわからないが、大体、何でこんな遅い時間にやってくるんだ?
 しかも最後に来た人たちは本当に来たのか夢だったのかハッキリしない。
 
 考えてみたらこの避難小屋。かつては山岳事故での遺体安置所として使われていたというから、何が起きてもおかしくない。
 
二日目
行程:起床3:30-小屋出発4:40-雄滝下6:00-雄滝落ち口10:30-滑滝手前のゴルジュで撤退11:30-雄滝下16:00-滝谷出合16:40-新穂高温泉18:50
 
 同宿の人たちがまだ寝静まっている中をゴソゴソと起き出す。マルタイラーメンを二人で分け合って朝食。
 まだ陽は出ていないが、天気は上々。「気をつけて。」と見送られ、小屋を後にする。
 
 昨夕の偵察の結果、最初は右岸通しが効率が良い。ザレたモレーンとゴーロの中を詰めていく。
 やがて最初の渡渉。
 靴を履いたままヘツリで行けるかと思ったが、やはり無理。
 裸足になって勢いのある流れに足を入れるが、幸いそれほど深くはなかった。しかし、やはり上部の雪渓から流れてくる水は冷たく、徒渉後はしばらく足がジーンと痺れてしまった。

 

 

 さらに短く徒渉を繰り返すので、面倒になってそのまま裸足でガレを歩いたりして進む。
 やがて雄滝手前に到着。間近に見る雄滝はドウドウと豪快に水を落としていて、飛沫がこちらにも飛んでくる。凄い迫力だ!
 手前の雪渓は、表面に固くスプーンカットができていて、アイゼンを履かずに乗り越える。
 シュルンドから岩に移り、いよいよここから最初の核心。雄滝と雌滝の中間尾根だ。
 

 
 尾根といっても完全に壁で、ここでロープとクライミングシューズを身に着ける。
 自分がネットで見た写真では正面の壁の向かって左端がルートに見えたが、取付いた箇所が階段状だったので、そのまま取付く。
 
 1ピッチ目。
 岩のフェース。Ⅳ+? 
 最初は階段状だが、上に行くほど悪い。古い残置ハーケンあり。
 ザック無しのフリーならともかく、フル装備だと思い切ったムーブが出せず、ましてやランナーとなる残置はどれも怪しげで簡単には落ちれない。
 あと少しで上部の灌木帯に抜けられると思ったら最後がスローパー。泥で濡れたソールでまったくフリクションが効かない。
 手頃なクラックにカムを決め、一気に上がろうと思ったら、そこでスリップ!
 ザックの重さでいきなり頭を下にしてひっくり返り、自分でも驚いたが、カムがバッチリ効いてくれたので助かった。
 結局、スローパーは越えられず、少しロワーダウンし左へトラバース。少しだけ平らなレッジでピッチを切る。カムと自分で打ったハーケンで支点を作り、相方を迎えた。
 相方も出だしでスリップ。いきなりズズンとテンションが掛かるが、その後は順調に登ってくる。
 ここで小一時間は浪費してしまっただろうか。自分が直上にこだわり過ぎて余計なタイムロスをしてしまった。申し訳なし。

 
 
 2ピッチ目。
 そのまま彼女をツルベで送り出すが、すぐ上の草付きスラブで思いのほか悪かったよう。すんなり越えられず。
 私が左の段差から抜けて、そのまま草付き壁を木登り混じりに直上。さらに少し登ったところが中間尾根の肩のようなピークだった。
 少しだけ開けていて、ここからは左に雌滝の全貌も明らかに。
 滝の勢いこそ雄滝に負けるものの、回りの断崖はむしろ雌滝の方が荒々しく怖ろしいイメージだ。
 
 振り返ると眼下の滝谷は、かなりの高度感。
 出合には豆粒ほどのギャラリーが。そして我々の後を追って、もう1パーティーがこちらに向かって登ってきている。
 うん、たしかに凄いぞ、ここは。初めてのせいもあるが、谷川の一ノ倉沢より隔絶されたイメージだ。

 
 
 
3ピッチ目。
 急傾斜の草付きトラバース。
 しっかりした灌木があまり無く、引っ張れば抜けそうなフキのような草をだましだまし掴みながら慎重に行く。
 以前行ったオツルミズ沢を思い出させるピッチ。

 
 
 4ピッチ目。
 踏跡のあるバンドを伝って、ようやく雄滝の落ち口に着。
 ほっと一息。また靴を脱いで徒渉し、左岸のボロボロのガレを登っていく。
 
 
 

 無名の滝はそのまま左岸通しにクリア。
 やがて雪渓に突き当たる。
 上に上がり、そのまま詰めていくとその先で雪渓が大きく割れ、進路は巨大ブロックに挟まれた狭いゴルジュとなっている。
 で、ゴルジュの上15mほどの高さからは、ポロポロと大小さまざま石が左右から落ちてきている。

 
 
 うーん、これは一体どうしたものか。一か八かで駆け抜けるか。だが、あまりにもリスキー。
 二人してしばらく落石の落ちる間隔を見計らっていたが、やがて相方が結論を出してくれた。「危険過ぎる。やめましょう。」
 他のルートも検討したが、見た限り、今回はここで手詰まりだった。
 
 そうと決まれば、あとはもう撤退あるのみ。
 回りの雪が次第に緩み、時間と共にあちこちから落石が起きてくる。そして時折、腹に響くようなブロックの崩壊音が聞こえたりして心臓に悪い。
 ガレの下り、徒渉、草付きトラバース、藪漕ぎしながらの懸垂下降、ルーファイしながらさらに懸垂。
 1ピッチ目の壁に出て、さらに落石に気を付けながらまた懸垂。
 
 
 

 
 雄滝の下まで何とか降りてホッと一息。
 上部を見ると、いつの間にか後続パーティーと入れ違いになっていた。やはり自分たちが採った1ピッチ目はノーマルルートではないようだ。
 しかし、その彼らもやはり今回は無理と判断したようで、我々と同様、下降を始めていた。
 
 あとはルーファイしながらガレを歩き、最後は面倒になって登山靴のまま流れの中を徒渉したりして、出合まで帰り着く。
 二人ともヨレヨレ。相方もよく頑張った。
 明るい時間帯で天候が安定していたので良かったが、これがもし悪天の中や夜間だったら、さぞかし悲壮感漂う脱出行だったろう。
 
 
 
 出合小屋でもう一泊しても良かったが、まだ夕暮れ前だったので、未練を残すことなく、その日のうちに下山することに。
 新穂高に着いた時は真っ暗で、この後さらに小一時間もかけて鍋平の駐車場まで到底歩く気がしない。
 
 夜の登山口ターミナルはすっかり人も途絶えてしまったが、たまたま下山の遅れた山ガール風の二人組がいて、彼女らがよその車のヒッチに成功。
 そのまま今度は彼女らの車のピストンで、我々も無事、駐車場にたどり着いた。
 やれやれ。敗退はしたが、とにかく二人とも怪我無く無事に帰ってきた。それだけで十分な、何とも中身の「濃い」二日間だった。
 
 で、アルパイン経験がまだ少ない相方は、今回の敗退で、しばらくは滝谷の「タ」の字も口に出さないだろうと思っていたのだが・・・、
 二、三日もすると「次はいつ行きましょう?」とコリない様子。
 まぁ私で良ければまたそのうち。


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4 コメント

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Unknown (juqcho)
2018-07-29 11:02:49
なるほど、これは厳しい。。参考になりました。
上部の岩稜に取り付くまではラバーソールの沢靴が有効かなと思っているのですが、どうでしょうね。
ともあれ、お疲れさまでした。
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Unknown (現場監督)
2018-07-29 23:53:44
今回、靴については我々も悩みました。
七月なので、前爪アイゼンを着けられる登山靴にクライミングシューズのセットで臨みましたが、完全に雪が無いとわかっていれば、秋の一ノ倉沢本谷のようにオール沢靴(ラバーソール)もありかと思います。
我々が引き返した地点はちょうどドックの中に巨大な船がすっぽりハマった感じで雪渓が残っていて、雪渓の舳先から下りるのはリスクが高く、脇のシュルンドを行くしかありませんでしたが、そこが落石の通り道になっていてOutでした。
九月にどれだけ雪が解けてるかわかりませんが、健闘を祈ります。
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Unknown (kakuremino)
2018-10-16 11:04:40
はじめてコメントいたします。
9/28に滝谷出合から第四尾根を登りました。7月のご記録を参考にさせていただきました。ありがとうございます。
私がいったときには雪渓は全くありませんでした。積雪量等にもよるとは思いますが、出合からであれば9月が適期のように思いました。
足回りは沢靴+クライミングシューズでしたが、雪渓次第ですね。
記録を載せておりますので、よろしければご参考ください。
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Unknown (現場監督)
2018-10-16 23:55:41
隠レ蓑さん、こんにちは。
記録拝見しました。今夏は猛暑だったとはいえ、あの巨大雪渓が無くなったというのは驚きです。
それにしても20時間日帰りとは凄いですね。
谷川の一ノ倉沢本谷でも感じましたが、やはり滝谷も出合からなら沢靴ですね。
そちらの記録を参考にまたリベンジするつもりです。
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