三日目
天候:
行程:大深沢北ノ又沢9:15-左岸を藪漕ぎと小窪を登下降しながら前進-4m幅広滝先でビバーク15:30
行程:大深沢北ノ又沢9:15-左岸を藪漕ぎと小窪を登下降しながら前進-4m幅広滝先でビバーク15:30
朝3時頃、ポツポツとシェルターを叩く雨音で目が覚める。
時折、遠くでピカッと光る。そして雷鳴。
入渓前の予報では本日は一日曇り、明日の午後に小雨だったはずが、何とこの時間から雷雨である。
それでも雷雨だからすぐに通過してしまうに違いない。
雨量は大したことないので、そのまま明るくなるまでシェルターの中で過ごす。
時折、遠くでピカッと光る。そして雷鳴。
入渓前の予報では本日は一日曇り、明日の午後に小雨だったはずが、何とこの時間から雷雨である。
それでも雷雨だからすぐに通過してしまうに違いない。
雨量は大したことないので、そのまま明るくなるまでシェルターの中で過ごす。
やがて朝。
外は明るくなったが、雨は降り続き、雷はまだ鳴っている。
こりゃしばらく停滞だな。
仕方ないのでゆっくり構えることにし、もう少ししたら朝のラーメンでも作ろうと考えていた。
外は明るくなったが、雨は降り続き、雷はまだ鳴っている。
こりゃしばらく停滞だな。
仕方ないのでゆっくり構えることにし、もう少ししたら朝のラーメンでも作ろうと考えていた。
シュラフの中でウトウトしていると、そのうち頭上で飛行機が飛んでいるような音が鳴り始めた。
ゴォーッとその音はしばらく続き、そしていつまでも終わらない。
変だな?
まさか視界不良でこっちに落ちてくるんじゃないだろうな、とシェルターのファスナーを開けて「あっ!」と驚いた。
濁流の波がすぐ足元まで押し寄せていた。目の前にある東ノ又沢が大きく膨れ上がっている。
まさか視界不良でこっちに落ちてくるんじゃないだろうな、とシェルターのファスナーを開けて「あっ!」と驚いた。
濁流の波がすぐ足元まで押し寄せていた。目の前にある東ノ又沢が大きく膨れ上がっている。
ヤバいっ!
あっという間だった。
裸足のままシェルターごと濁流の中から掬い上げ、そのまま50cmほど高い岸側に装備をぶん投げた。
外に置きっ放しだった物は、既に濁流の中にプカプカ浮いていたり沈んだりしている。
ズブ濡れになって濁流の中に引き返し、手当たり次第に拾い上げる。
あっという間だった。
裸足のままシェルターごと濁流の中から掬い上げ、そのまま50cmほど高い岸側に装備をぶん投げた。
外に置きっ放しだった物は、既に濁流の中にプカプカ浮いていたり沈んだりしている。
ズブ濡れになって濁流の中に引き返し、手当たり次第に拾い上げる。
鉄砲水だった。
雨量が大したことないので甘く見ていたが、おそらく東ノ又沢上部で倒木などにより大量の水が堰き止められていたのだろう。
それが水勢で一気に決壊したに違いない。
間一髪だった。
身も装備もズブ濡れのまま、避難した葉陰で今の状況を確認する。
まずは装備だ。ザック、シェルター、シュラフ、マット、食料袋、トレラン・シューズ。・・・愕然とした。沢靴が無いっ!
急いで先ほどの幕営跡に目をやるが、完全に濁流の中だ。まだ沢の途中なのに、沢靴を失くすなんて・・・マジか。
ただトレラン・シューズは両足とも無事だ。
こいつは水中でもけっこうグリップ力があり、ちょっとした沢なら何とかなる。
幸い一段上には秋田パーティーがいるので、こうなったらロープを持っている彼らに同行をお願いしよう。
こいつは水中でもけっこうグリップ力があり、ちょっとした沢なら何とかなる。
幸い一段上には秋田パーティーがいるので、こうなったらロープを持っている彼らに同行をお願いしよう。
そう思って一段高い所にある彼らのテン場に行って、愕然とした!
誰もいない!綺麗に撤収された後だった。
一体いつ出発したのだろう。
そういえば朝、微かに人の声が聞こえたような気がしたが、雨と沢の音が激しくてはっきりとはわからなかった。
・・・これはマズイぞ。どうする?どうする?
為す術なく目の前で荒れ狂う濁流を呆然と眺めながら、いろいろな思いが頭の中をグルグルと回る。
今までそれなりに修羅場を経験してきたつもりだが、今回はかなりマズイ。
誰もいない!綺麗に撤収された後だった。
一体いつ出発したのだろう。
そういえば朝、微かに人の声が聞こえたような気がしたが、雨と沢の音が激しくてはっきりとはわからなかった。
・・・これはマズイぞ。どうする?どうする?
為す術なく目の前で荒れ狂う濁流を呆然と眺めながら、いろいろな思いが頭の中をグルグルと回る。
今までそれなりに修羅場を経験してきたつもりだが、今回はかなりマズイ。
もう一度手元にある物を確認する。
すると失くしたと思っていた沢靴が見つかった。両足とも。マジか!
昨夜、少しでも乾かすため外に放置していたのだが、逃げる瞬間、本能的に真っ先に掴んで高台に放り投げていたのだろう。
この時ばかりは自分のファインプレイを誉めた。
かつて中津川で同じ目に遭った今は亡きタケちゃんとmoto.p氏が見守ってくれたのかもしれない。
どうでもいい小物は別として、あとはカメラとコッフェルが見当たらなかった。
カメラは命に関係ないとしても昨日までの写真が全てパーかと思うと悲しかった。
諦め切れず少し流れが変わって水が引いた瞬間に再び捜索する。
・・・すると、あった!
見当違いの所に流され、岩の隙間にかろうじて挟まっていた。
濁流に揉まれたものの、防水カメラゆえ電源も入り無事だった。
沢靴といい、カメラといい、まさに奇跡だ。
カメラは命に関係ないとしても昨日までの写真が全てパーかと思うと悲しかった。
諦め切れず少し流れが変わって水が引いた瞬間に再び捜索する。
・・・すると、あった!
見当違いの所に流され、岩の隙間にかろうじて挟まっていた。
濁流に揉まれたものの、防水カメラゆえ電源も入り無事だった。
沢靴といい、カメラといい、まさに奇跡だ。
何もかもズブ濡れだが、とりあえず身の回りの物をパッキングする。
朝の8時頃になると少し空が明るくなり始めた。上空の風で雨雲が流れているのがわかる。
よーし、このまま晴れてくれ。晴れなくてもいいからせめて雨やんでくれ。
そう願うも、再び黒い雲が押し寄せ、雷雨はなかなか立ち去ろうとしなかった。くそー、ダメか。
いろいろ考えたが、選択肢は二つ。
一つは、このままこの高台でビバークするか。
明日、天気が回復し水が引いたら予定通り遡行を続ければ問題ないだろう。
しかし、もし雨が続き、水が引かなかったら・・・そう思うとゾッとした。
日程延長→下山日になっても帰らず→捜索開始といった構図が目に浮かぶ。
いざとなったらそれも覚悟しなければならないが、やはりそれは何としても避けたい。
もう一つはとにかく行動すること。
こんな状況だが、幸い自分は怪我をして動けないわけじゃない。
こんな所で全身濡れたまま、明日晴れるかどうか何もしないでただ長い一昼夜を一人で過ごすなんて耐えられない。
だとしたら、沢は無理でもこのまま左岸の藪漕ぎをして少しでも先へ進んだ方がいいのではないか。
結局、後者を選ぶ。
左岸といっても沢に沿ってそのまま数m上を水平にトラバースできるわけじゃない。
下部は急斜面のため、当然、藪を掻き分け上部へ追いやられる。
コンパスを見ながらひたすら東へ向かうが、四方八方藪だらけで、時折方向を見失いそうになる。
沢音も途絶え、さすがにこれ以上進むと道迷いになりそうな時は、少し高度を下げると大雨でできた小窪に出くわす。
それを下っていくと、やがて本流に突き当たり、自分の位置を見失っていないと一安心。
再び小窪を登り返し、適当な所から東へ向かって藪を突き進む。山の斜面でアミダくじ風に藪漕ぎしているようなものだ。
この日はそんなことを5~6時間続けたが、さすがにこれ以上進むのは無理と思われる藪に突き当たり、気持ちが折れた。
次に出てきた小窪を頼りに本流際まで一旦戻る。
もう全身ボロボロの泥だらけ。体力も随分消耗してしまった。
三日目のビバークサイト
水際数m上に小さなスペースを見つけ、ヨレヨレになったシェルターを木の枝で吊るし、その夜はグショ濡れのまま寝た。
濡れたダウンシュラフはもはや意味なく、コッフェルも無いので満足な食事も作れない。使えない物はよほどその場に捨てて行こうかと思った。
増水が引かなければ脱出するのにいつまでかかるかわからないので、残りの行動食を計算し、セーブする。
今朝はドーナツ半切れ、昼は魚肉ソーセージ1本、今夜は残りのドーナツ半切れだ。
夜中にさすがに腹が減って酒のツマミに持ってきたアタリメを口にしたが、これは噛むほどに味がしばらく後を引き、空腹の気休めになった。
濡れたダウンシュラフはもはや意味なく、コッフェルも無いので満足な食事も作れない。使えない物はよほどその場に捨てて行こうかと思った。
増水が引かなければ脱出するのにいつまでかかるかわからないので、残りの行動食を計算し、セーブする。
今朝はドーナツ半切れ、昼は魚肉ソーセージ1本、今夜は残りのドーナツ半切れだ。
夜中にさすがに腹が減って酒のツマミに持ってきたアタリメを口にしたが、これは噛むほどに味がしばらく後を引き、空腹の気休めになった。
四日目
天候:のち
行程:北ノ又沢4:50-大深山荘9:40-大深岳(ピストン)11:20-松川温泉13:40
朝4時頃、目が覚める。
雨は止んだ。だが、まだ曇っている。
気のせいか沢の音がおとなしくなっている。おそるおそるシェルターをまくり上げ、数m下の本流を葉陰から覗き込む。
雨は止んだ。だが、まだ曇っている。
気のせいか沢の音がおとなしくなっている。おそるおそるシェルターをまくり上げ、数m下の本流を葉陰から覗き込む。
減水している!
よっしゃ!水量はまだ多く勢いもあるが、濁りは消え、これなら何とか行けそうだ。
急いで支度を整える。次の雨が来る前にさっさと稜線に詰め上がるのだ。
急いで支度を整える。次の雨が来る前にさっさと稜線に詰め上がるのだ。
ソーセージ一本の朝食を終え、スタート。
ここが本当に北ノ又沢の本流で間違いないか、念のため一回下流まで戻る。
少しの間、なだらかなナメが続き、やがて4~5mほどの高さの幅広滝の落口に出る。
どうやら本流からははずれていないようでホッとする。引き返し、このまま遡行を続ける。
しかし、考えてみると昨日はおそらく半日かかって直線距離で500m進んだかどうか。
それでもヌメリが多いという先ほどの幅広滝を回避できたので、ヨシとしよう。
快適なナメが続き、本来なら歓声が上がりそうな渓相が続くが、今はドンヨリ曇っていて楽しむ余裕はない。
とにかく安全地帯へ抜けるまでだ。
他の記録ではこの先、難しくはないが念のためロープを出した滝もあると書いてあった。
水量が多かったらという不安はあったが、特にそういった滝も無い。
忘れた頃にようやく5m二条の滝が現れたが、これは左の階段状から簡単に登れた。
大深沢北ノ又沢・最後の5m二条滝
とにかく安全地帯へ抜けるまでだ。
他の記録ではこの先、難しくはないが念のためロープを出した滝もあると書いてあった。
水量が多かったらという不安はあったが、特にそういった滝も無い。
忘れた頃にようやく5m二条の滝が現れたが、これは左の階段状から簡単に登れた。
大深沢北ノ又沢・最後の5m二条滝
トポでは最後まで本流を詰めず、標高1,350m付近の小窪から東へ詰めると最短で登山道に出られるとあった。
昨日の三俣でプロ・トレックの高度を地図表記の992mにリセットしておいて良かった。
それらしい小窪が左から入ってくるのを発見。
念のため、そのまま本流を源流近くまで遡行を続けるが、他にそれらしい小窪は見つからなかった。
間違いないだろうということで小窪を詰める。
水流が消え、ここからいよいよ藪漕ぎだ。他の記録で40分、タケちゃんの遡行図でも密笹とあるから心してかかる。
コンパスで東を目指して藪を突き進む。
40分経過したが、まだ藪の中だ。
踏み跡も赤布も無く次第に不安になるが、もうコンパスを信じて進むしかない。
1時間10分かかって、ふいに登山道に出る。・・・やった。
水流が消え、ここからいよいよ藪漕ぎだ。他の記録で40分、タケちゃんの遡行図でも密笹とあるから心してかかる。
コンパスで東を目指して藪を突き進む。
40分経過したが、まだ藪の中だ。
踏み跡も赤布も無く次第に不安になるが、もうコンパスを信じて進むしかない。
1時間10分かかって、ふいに登山道に出る。・・・やった。
そこから少し南下すると、立派な大深山荘があった。
ここも無人の避難小屋だが、しっかり管理がされていて床など住宅のフローリングのように綺麗だ。
ここも無人の避難小屋だが、しっかり管理がされていて床など住宅のフローリングのように綺麗だ。
ようやく晴れ間も出てきてホッと一息。
濡れた全装備を広げて太陽で乾かす。窮地から脱出できた喜びに浸る。
濡れた全装備を広げて太陽で乾かす。窮地から脱出できた喜びに浸る。
しばらくすると地元の巡視員の人が来たので、いろいろ話をする。
周辺の小屋の管理や登山道の整備をしているそうで、自分もそういう仕事をしたいなと思わせる何とも気持ちの良い人だった。
大深山荘(左)と大深岳山頂(右・1,541m)
ゆっくり休んだ後、せっかくなので最寄りの大深岳まで空身でピストンしてから、松川温泉へ下山。
最後の道中、豊富な高山植物や雄大な岩手山が目の前に広がる。
大深沢で散々な目に遭ったにも関わらず、岩手の山が好きになった。
松川温泉は「日本秘湯の会」登録の白濁湯。
檜の内湯と混浴の露天で500円。湯加減絶妙。最後はまた極楽を味わい、その日の夜行で予定通り無事帰京できた。
松川温泉「峡雲荘」と、その露天風呂
結果だけ見れば三泊四日中、雷雨で一日停滞し、岩手山まで行く予定が縮小になっただけに見えるが、内容的には天国と地獄だった。
特に三日目は悲壮感漂い、もし帰ったらフリークライミングは続けても、もうアルパインや沢はやめようと本気で思った。
でも、たぶん喉元過ぎれば熱さ忘れるんだろうな。
特に三日目は悲壮感漂い、もし帰ったらフリークライミングは続けても、もうアルパインや沢はやめようと本気で思った。
でも、たぶん喉元過ぎれば熱さ忘れるんだろうな。
ともあれ、早いところ熱さを忘れてください(笑)。
やはり、山は経験値がものを言いますね。
さすが、監督さんです。
ドキドキしながら拝見しました。
濁流の動画、大変怖いです。10年ほど前の内蔵助谷の濁流を思い出します。
東北は、沢も山も奇麗ですよね。
遠いのが難点ですが・・・
無事で何よりっす。
反射神経というより、今回は本当に運が良かったです。もしあれが夜だったり沢靴を流されていたらアウトでした。
juqcho氏とはこれまで冬の八ヶ岳やシャモニーの氷河でシュラフ無しビバークをしたりしましたが、それとは違う感覚で追い込まれました。
特に、いると思っていた秋田パーティーがいなかった時は「猿の惑星」のラストシーンと同じくらいの絶望感というか...いやホントに。
まぁ、あれから10日ほど経ちましたが、とりあえずうなされたりはしてないです。(^-^;)
今回もギリギリの選択を余儀なくされたようですね。
いつもながら冷静な判断で危機を脱しご対応されるので感服いたしました。
僕、現場監督さんのこういう単独にすごくロマンを感じるんですね。しかもたった一人で夜行バスで現場まで向かうところにも勝手ながらとても親近感を抱きました(笑)
実は私めも今夜行バス内で現場監督さんのブログ拝見しコメント書いています。
夜行バスでやる人に悪い人はいない。男はだまって夜行バスですね(笑)
冷静な判断というか、今回はもうlet it beでした。w
まぁまだ運が残っていたということでしょう。
夜行バス、今度はどちらへお出かけでしょうか。
北ア方面の「さわやか〇〇号」は激混みで、ちっともさわやかでないですが、その他の方面の高速バスはなかなか使えます。特に最近の横3列独立シートは前後両隣とのストレスなくて快適ですね。
そうそう最近はぴょんさん御用達のワークマンも山で使えると好評みたいです。