万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ロシアのクリミア併合問題が投げかける問い

2014年03月20日 15時57分01秒 | 国際政治
露、クリミア併合 「露の大義」民族迫害なし コソボとの違いは?(産経新聞) - goo ニュース
 国際社会では、しばしば大国による唖然とさせられるようなダブル・スタンダードが見られ、自国の都合や利益に合わせて解釈を変える事例が散見されます。クリミア併合に際してのロシアの主張も、過去のケースで示した自らの見解と矛盾しているのですが、独立や領土の帰属問題については、国際社会には、一つ考えなければならないことがあるようです。

 チベットやウイグルの人々が、現行の中国の憲法に従うならば、永遠に独立できないことは確かなことです。残された合法的な手段は、民族独立戦争を戦うことですが、人民解放軍と互角に戦えるほどの武力を備えているはずもなく、最近のテロの頻発もこの絶望的な状況がもたらしたものでもあります。国際社会が考慮すべきこととは、異民族によって併合されたり、植民地化されている場合には、憲法上の規定や手続きの順守を絶対条件とすることは、酷であるということです。確かに、クリミアの場合には、住民の自由な意思表示ではなく、また、ロシア人弾圧の事実が証明されていないにも拘わらず、ロシアの事実上の軍事占領下で住民投票が実施されましたので、その効力には疑問符が付きますが、それでも、固有の領土でもなく、かつ、異民族が多数を占める地域に対して独立や分離の可能性を憲法で封じることが正しいとは言い切れないところがあります。クリミアの人口の6割がロシア系であり、自由に意思表示できる状態で住民投票を実施したとしても、ウクライナからの独立賛成派が多数を占めることは当然に予測されます。ならば、ウクライナ憲法の方を改正し、全ウクライナ人による国民投票ではなく、クリミア自治共和国に関しては、住民投票のみで独立や帰属の変更を認めるとすれば、この問題の少なくとも国内法上の違法性は解消される可能性もないわけではありません(ただし、クリミアでは住民投票のやり直しが必要かもしれない…)。

 国際社会においてダブル・スタンダード問題が発生する理由は、司法解決を忌避する当事国の利己的な態度にありますが、自国が支配下に置いている他民族に対して自決の権利を頑として認めない憲法にも求めることができます。国際社会は、ダブル・スタンダード問題への対応としても、民族自決の権利について、どのような場合や条件においてその権利行使が正当であるのかを議論してゆく必要があると思うのです。

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コメント (2)
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