万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の輸入拡大は罠では?

2019年11月08日 18時59分52秒 | 国際政治
 中国の習近平国家主席は、11月5日から10日にかけての日程で上海にて開催されていた第2回中国国際輸入博覧会において、「保護主義や一国主義に断固として反対し、継続して貿易障壁を取り除く」と述べたと伝わります。続いて‘国際社会は壁を作るのではなく、壊し続ける’必要があるとも主張しており、北方遊牧民の侵入を防ぐために万里の長城を建設した時代とは隔世の感があります。

 中国ほどグローバリズムの恩恵を受けた国はなく、鄧小平氏が改革開放路線を選択して以来、中国は、外資導入を梃子とした輸出促進策を強力に推し進め、瞬く間に世界第二位の経済大国にまで成長しました。国策としての輸出拡大は貿易黒字に伴う巨額の外貨準備をももたらし、これを資源として一帯一路構想を打ち上げることができたのですから、中国が自由貿易、あるいは、グローバリズムを死守したい気持ちも分からないでもありません。しかしながら、中国の貿易黒字は他の諸国の対中貿易赤字を意味しますので、全ての諸国にとりまして歓迎すべき状況とは言えません。リカード流の自由貿易論では、自然調和的に相互利益が実現するはずなのですが、理論と現実間には雲泥の差があります。因みに、日本国の対中貿易赤字は、米中貿易戦争による対中輸出の減少が影響したこともあり、2019年上半期のデータでは2兆493億円にも上っています。アメリカの対中赤字のみが注目されていますが、日本国の対中貿易赤字も決して小さな数字ではありません。

 深刻化する対中貿易赤字問題からしますと、冒頭で述べた上海の国際輸入博は、グローバリズムの波に乗った輸出大国としての中国に対する不満を解くための国際社会に対するデモンストレーションなのでしょう。習主席の演説も、‘中国は自国の市場を開放する、すなわち、輸入を増やす用意があるので、諸外国も速やかに関税を撤廃し、中国製品を輸入して欲しい’と解されます。言葉では輸入増を約束していますが、現実は、期待通りとなるのでしょうか。

少なくとも、中国の国家計画である「中国製造2025」を見る限り、中国が、今後、自発的に輸出を減らすつもりは毛頭ないようです。否、同計画が実現されれば、これまで先進諸国から輸入してきた高度先端技術を用いた製品や部品、素材等も内製化され、さらに先進国の上を行くテクノロジーも独自開発されますので、中国製品の輸出競争力を増すと共に、先進諸国からの輸入も減少することが予測されます。最近に至り、アメリカからの強い要請を受けて中国市場に参入した国外企業の知的財産権の保護を強化する方針を示すようになりましたが、この譲歩も、ITやAIといった先端分野においても独自開発の目途がついたからなのかもしれません。

 そして、何よりも中国が輸入拡大に消極的である理由は、輸入の増加が外貨準備の減少を招く点です。先述したように、一帯一路構想は、周辺諸国のインフラ・プロジェクトに対する融資を手段としており、中国は、AIIB等の基金や個別融資に対して膨大な外貨準備を投じています。外貨準備の減少は、中国の覇権主義的な対外戦略のフィナンシャルな基盤を掘り崩しますので、輸入拡大策とは二律背反となるはずのです。

おそらく、輸入拡大に伴う外貨準備の減少問題の打開策こそ、デジタル人民元の発行なのでしょう。人民元の国際基軸通貨化と人民元圏の構築が同時に実現できれば、上述した問題を一気に解決できるからです。人民元が国際基軸通貨となれば、外貨準備の増減やデフォルトのリスクに頭を悩ませる必要はなくなりますし、国境を越えた広域的な人民元圏が実現すれば、貿易収支に関係なく輸入も増やせるのです。そこで推測されるのは、中国は、自国への輸出に際して人民元を決裁通貨として使用するように条件を付すことです。つまり、中国市場への輸出に際して海外企業は人民元の使用を義務付けられるのであり、上記の輸入博は、人民元戦略の一環である可能性が高いのです。ブロックチェーンを用いたデジタル化も手伝って、各国は金融政策の権限を中国に奪われかねないこととなるのですが、中国の輸入拡大方針につきましては、十分な注意を要するように思えるのです。

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コメント (16)
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