検索大手のヤフーとメッセージアプリをほぼ独占しているLINEとの統合案は、両社トップによる公式発表により、現実味を帯びてきました。同統合案の背景にはソフトバンク・グループの世界戦略も控えているため、統合案は複雑さを増しています。こうした中、日本国の公正取引委員会は、一般論として断った上で、同統合案の審査に際して海外市場をも勘案するとする方針を示しました。それでは、海外市場の勘案とは、一体、何を意味するのでしょうか。
ヤフーとLINEの両業者は同一の事業を営み、かつ、ライバル関係にある同業者ではなく、事業分野が異なる異業者です。しかも、IT産業は誕生してから日が浅く、シェア・ビジネスなどの様々な新しいビジネスモデルも登場してきています。黎明期にある規模の小さなスタートアップ企業の買収等に対しては競争法の規制も弱いため、IT大手は、その莫大な資金力を以って様々な新種の事業分野に進出することができたのです。すなわち、デジタル社会の到来によって将来的に有望となる様々な事業を、IT大手が既存のビジネスを潰しながら独占してしまう可能性があり、先進諸国では既にこの問題が顕在化しているのです(デジタル時代の‘財閥化’…)。日本国内では、中国にWeChatを基盤に幅広い事業を展開するテンセント等が存在するため、日本国にも“すわ‘スーパー・アプリ’の登場か”と騒がれていますが、アメリカで活発になっているGAFA分割論も、IT大手による経済の囲い込み、否、経済支配に対する懸念がその根底にあり、自由主義国の流れは集中に対する規制強化に傾いています。
その一方で、両者とも、IT大手にしてプラットフォーマーという共通点があり、両者が構築したプラットフォームをインフラに喩えれば、共にユーザーのデータ収集が可能な同業者とする見立てもできなくもありません(両者の統合により、個人情報を含むデータ収集力が格段にアップ…)。同統合のメリットとして、両者がスマホ決済の分野での協力も指摘されていますが、プラットフォームの規模拡大は、他の‘スーパー・アプリ’化を目指すプラットフォーマーのみならず、既存の事業者、そして、アプリの使用により情報が筒抜けになりかねない個人ユーザーにとりましても脅威となるのです。
以上に述べたように同統合によるリスクは、従来型の単なる市場のシェアの問題ではなく、事業範囲の拡大とデータ収集を基盤となるプラットフォーム規模の拡大との相乗作用による経済支配ということになるのですが、ソフトバンク・グループの世界戦略としては、GAFAに匹敵するようなIT巨人をアジアからも誕生させる、ということのようです。公正取引委員会がこの主張をそのまま認めますと、同統合案が審査を通過する可能性は高いと言えましょう。何故ならば、グローバル市場を判断基準とすれば、たとえ両者が統合したとしも‘弱小連合’に過ぎないからです。同グループが、殊更にGAFAや中国IT大手による独占状態を打ち破る対抗馬としての姿勢をアピールするのは、グローバル市場における競争促進効果を訴えることで自らの統合案を正当化したいのでしょう。しかしながら、この説明には注意が必要です。
注意を払うべき理由は、第1に、メッセージアプリ事業には、この説明は通じ難い点です。プラットフォーム型の事業は、消費者のスマートフォンやPCを‘端末’とする広域的なネットワークによって構成されています。ところが、メッセージアプリ事業については言語による制約がありますので、ユーザー間のコミュニケーションを介する国境を越えた事業展開は容易ではないのです。LINEもタイにおいては相当数のユーザーを獲得しているそうですが、他の諸国では伸び悩んでいるそうです。つまり、表向きは海外展開を掲げながら、現実には、LINEがメッセージアプリ事業をほぼ独占している日本国においてこそ、‘スーパー・アプリ’競争に際して、圧倒的に優位なポジションを占める可能性が高いのです(他の事業者は、メッセージアプリのプラットフォームを保有していない…)。
第2の理由は、ヤフーとLINEの統合は、日本国の国益に適うとは言い難い点です。かつて、日本国では、国際競争力の向上の観点から、当事企業が両社とも鉄鋼大手でありながら新日鉄と住友金属との合併を認めました。グローバル時代における最初の大型合併承認の事例となったのですが、同判断には、グローバル時代を生き抜く規模を備えた‘日の丸企業’の誕生への期待があったと指摘されています。ところが、ヤフーとLINEの合併によって誕生する新会社の資本関係は、ソフトバンク・グループが親会社となるとはいえ、同グループの決定権を握る孫正義氏は韓国系ですし、かつ、LINEの親会社である韓国のネイバーが50%を出資するそうです。つまり、‘日の丸企業’というよりも‘大極旗企業’の色合いが強く、むしろ、LINEの利用者が8000万人に達している現状では、韓国の国益のために統合を認めるに近いのです。韓国が国策として自国市場を基盤としてグローバル市場に打って出るならば分かるのですが、これでは、日本市場が踏み台にされている感があります。米中のIT大手に対抗するために、今般の合併を認めたところ、別の外国企業、即ち、韓国系企業の日本経済への支配力が強まるのであれば、どこの国の利益ための政策であったのか、誰もが疑問に思うことでしょう。
第3に指摘すべきは、日本国内での競争消滅のリスクです。ユーザーのスマートフォンやPCがネットワークの端末となるプラットフォーム型の事業は、プラットフォームの規模に比例して利便性も高くなるのですが、米中のIT大手に対する対抗勢力の結成を理由に同案が認められれば、今後とも、同様の理由によるIT企業間の合併案を承認せざるを得なくなりましょう。しかしながら、日本国内の企業規模からしますと、全てのIT企業が合併しても米中のIT巨大企業には到底及びません。結果として、日本国内での企業間競争が消滅する、あるいは、韓国系が認められるのであるならば、他の国の企業によって買収される可能性も否定はできないのです。
以上に主要な問題点を述べてきましたが、これらの諸点からしますと、ヤフーとLINEとの統合計画には慎重にならざるを得ないように思えます(たとえ承認されたとしても、厳しい条件や制約が付されるかもしれない…)。果たして公正取引委員会は、どのように判断されるのでしょうか。
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ヤフーとLINEの両業者は同一の事業を営み、かつ、ライバル関係にある同業者ではなく、事業分野が異なる異業者です。しかも、IT産業は誕生してから日が浅く、シェア・ビジネスなどの様々な新しいビジネスモデルも登場してきています。黎明期にある規模の小さなスタートアップ企業の買収等に対しては競争法の規制も弱いため、IT大手は、その莫大な資金力を以って様々な新種の事業分野に進出することができたのです。すなわち、デジタル社会の到来によって将来的に有望となる様々な事業を、IT大手が既存のビジネスを潰しながら独占してしまう可能性があり、先進諸国では既にこの問題が顕在化しているのです(デジタル時代の‘財閥化’…)。日本国内では、中国にWeChatを基盤に幅広い事業を展開するテンセント等が存在するため、日本国にも“すわ‘スーパー・アプリ’の登場か”と騒がれていますが、アメリカで活発になっているGAFA分割論も、IT大手による経済の囲い込み、否、経済支配に対する懸念がその根底にあり、自由主義国の流れは集中に対する規制強化に傾いています。
その一方で、両者とも、IT大手にしてプラットフォーマーという共通点があり、両者が構築したプラットフォームをインフラに喩えれば、共にユーザーのデータ収集が可能な同業者とする見立てもできなくもありません(両者の統合により、個人情報を含むデータ収集力が格段にアップ…)。同統合のメリットとして、両者がスマホ決済の分野での協力も指摘されていますが、プラットフォームの規模拡大は、他の‘スーパー・アプリ’化を目指すプラットフォーマーのみならず、既存の事業者、そして、アプリの使用により情報が筒抜けになりかねない個人ユーザーにとりましても脅威となるのです。
以上に述べたように同統合によるリスクは、従来型の単なる市場のシェアの問題ではなく、事業範囲の拡大とデータ収集を基盤となるプラットフォーム規模の拡大との相乗作用による経済支配ということになるのですが、ソフトバンク・グループの世界戦略としては、GAFAに匹敵するようなIT巨人をアジアからも誕生させる、ということのようです。公正取引委員会がこの主張をそのまま認めますと、同統合案が審査を通過する可能性は高いと言えましょう。何故ならば、グローバル市場を判断基準とすれば、たとえ両者が統合したとしも‘弱小連合’に過ぎないからです。同グループが、殊更にGAFAや中国IT大手による独占状態を打ち破る対抗馬としての姿勢をアピールするのは、グローバル市場における競争促進効果を訴えることで自らの統合案を正当化したいのでしょう。しかしながら、この説明には注意が必要です。
注意を払うべき理由は、第1に、メッセージアプリ事業には、この説明は通じ難い点です。プラットフォーム型の事業は、消費者のスマートフォンやPCを‘端末’とする広域的なネットワークによって構成されています。ところが、メッセージアプリ事業については言語による制約がありますので、ユーザー間のコミュニケーションを介する国境を越えた事業展開は容易ではないのです。LINEもタイにおいては相当数のユーザーを獲得しているそうですが、他の諸国では伸び悩んでいるそうです。つまり、表向きは海外展開を掲げながら、現実には、LINEがメッセージアプリ事業をほぼ独占している日本国においてこそ、‘スーパー・アプリ’競争に際して、圧倒的に優位なポジションを占める可能性が高いのです(他の事業者は、メッセージアプリのプラットフォームを保有していない…)。
第2の理由は、ヤフーとLINEの統合は、日本国の国益に適うとは言い難い点です。かつて、日本国では、国際競争力の向上の観点から、当事企業が両社とも鉄鋼大手でありながら新日鉄と住友金属との合併を認めました。グローバル時代における最初の大型合併承認の事例となったのですが、同判断には、グローバル時代を生き抜く規模を備えた‘日の丸企業’の誕生への期待があったと指摘されています。ところが、ヤフーとLINEの合併によって誕生する新会社の資本関係は、ソフトバンク・グループが親会社となるとはいえ、同グループの決定権を握る孫正義氏は韓国系ですし、かつ、LINEの親会社である韓国のネイバーが50%を出資するそうです。つまり、‘日の丸企業’というよりも‘大極旗企業’の色合いが強く、むしろ、LINEの利用者が8000万人に達している現状では、韓国の国益のために統合を認めるに近いのです。韓国が国策として自国市場を基盤としてグローバル市場に打って出るならば分かるのですが、これでは、日本市場が踏み台にされている感があります。米中のIT大手に対抗するために、今般の合併を認めたところ、別の外国企業、即ち、韓国系企業の日本経済への支配力が強まるのであれば、どこの国の利益ための政策であったのか、誰もが疑問に思うことでしょう。
第3に指摘すべきは、日本国内での競争消滅のリスクです。ユーザーのスマートフォンやPCがネットワークの端末となるプラットフォーム型の事業は、プラットフォームの規模に比例して利便性も高くなるのですが、米中のIT大手に対する対抗勢力の結成を理由に同案が認められれば、今後とも、同様の理由によるIT企業間の合併案を承認せざるを得なくなりましょう。しかしながら、日本国内の企業規模からしますと、全てのIT企業が合併しても米中のIT巨大企業には到底及びません。結果として、日本国内での企業間競争が消滅する、あるいは、韓国系が認められるのであるならば、他の国の企業によって買収される可能性も否定はできないのです。
以上に主要な問題点を述べてきましたが、これらの諸点からしますと、ヤフーとLINEとの統合計画には慎重にならざるを得ないように思えます(たとえ承認されたとしても、厳しい条件や制約が付されるかもしれない…)。果たして公正取引委員会は、どのように判断されるのでしょうか。
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