万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

世界は分裂した方が望ましい!?-米中対立の行方

2019年11月28日 14時01分32秒 | 国際政治
 ‘世界は分裂した方が望ましい’とでも発言しようものなら、グローバル化の時代に逆行するとして四方八方から袋叩きに遭いそうです。‘世界は一つ’という言葉は常々人類の理想として掲げられてきたからです。この言葉は、人類に協調を促す象徴的なスローガンでもありますし、‘時’と‘場合’によっては、分裂していた方が望ましいケースもあるように思えます。

 それでは、分裂状態の方が望ましいのは、一体、どのような‘時’と‘場合’なのでしょうか。具体的なケースによって様々なのでしょうが、一般論として言えることは、‘世界が一つ’になった結果として‘悪’が栄え、それによって世界全体が支配されてしまう状態が人類にとりましての最悪の‘一つの世界’と言えましょう。この状態に至りますと、何処を探しても‘善’には生きる場所が見当たらず、自らの良心を殺して‘悪’に染まるか、この世から自ら消え去るかのいずれかしか選択肢がなくなるのです。こうした観点から今日の米中対立を見てみますと、予想以上に人類は危機にあるように思えます。

11月27日、アメリカでは、トランプ大統領の署名により香港人権民主主義法案が終に成立しました。両国の対立軸は、同法案の名称が明示するように、正反対とでもいうべき両国間の価値観の違いにあることは否定のしようもありません。アメリカは、その人格を含む国民一人一人の基本的な権利と自由を尊び、国家体制の基本原則に民主主義や法の支配といった諸価値を置いていますが、共産党一党独裁体制の下にある中国では、人類普遍とされるこれらの諸価値には背を向け、共産主義に基づく同体制の維持のためにはこれらの全て犠牲にしても構わないと考えています。実際に、近年の中国の動きはより攻撃性を増しており、あたかも普遍的な諸価値を暴力によって破壊しようとしているかのようです。米中対立は、いわば、自由主義対全体主義のイデオロギー対立が火花を散らす主戦場なのです。こうした現状を考慮すれば、アメリカ、並びに、中国が‘新冷戦’、あるいは、‘熱戦’に勝利した場合の‘その後の世界’を予測してみることは、決して無駄ではないように思えます。

まず、アメリカが中国に、あるいは、自由主義陣営が全体主義陣営に勝利するケースを予測しています。このケースでは、一党独裁体制の崩壊を招くことでしょうから、中国の国民も人類普遍の諸価値を享受し得るようになりましょう。香港の区議会議員選挙における民主派の勝利が証明したように、これらの諸価値はより善き国や社会を目指す人間の本性に合致していますので、中国国民の多くは、あるいは自国の敗北を心ひそかに望んでいるかもしれません。また、アメリカがたとえ中国に勝利したとしても、アメリカは、チベットやウイグル等の独立を認めることはあっても、中国の領土を併合したり、その国民に対してジェノサイドを実行することもないでしょうから、およそ、第二次世界大戦において敗戦国となった日本国、ドイツ、イタリアのような状態が想定されます。もちろん、アメリカによる占領政策については今日に至るまで様々な問題を残してはいますが、この点を差し引いたとしても、一先ずは、各国の独立性が認められ、自由で民主的な体制が全世界の諸国に広がることとなりましょう(もっとも、アメリカが、ITを支配する非国家主体に乗っ取られた場合には不安が残る…)。

それでは、中国が勝利した場合には、どのような事態が想定されるのでしょうか。中国は、第二次世界大戦後の混乱期にあって、チベットやウイグルを詐術的手法によって併合し、今なお支配の頸木で縛りつけています。今般、報道された共産党の内部文書は、ウイグル人に対する弾圧はまさしく暴力と洗脳によるジェノサイドであることを示しています。加えて、一般国民に対してさえ、高度なテクノロジーを駆使した監視システムが24時間、各自の言動を見張っています。こうした現状から想定される中国勝利のシナリオとは、形ばかりは独立国家の体裁のみは残しつつ、全世界レベルで中国中心の冊封体制が復活するか、ソ連邦によって東側陣営に組み込まれたかつての中東欧諸国のように、衛星国か、あるいは、属国の立場しか認められないこととなりましょう。そして、全人類は、中国による全体主義体制維持システムとしての完全監視体制の下に置かれるのです。つまり、中国が勝利した場合には、文字通り、全体主義に染め上げられた‘一つの世界’が出現するのです。

それでは、米中の何れが、同対立において勝利を収めるのでしょうか。過去のデータ分析に基づけば、仮にアメリカをはじめ他の諸国が何らの対抗策を講じなければ、近い将来、軍事力、並びに、経済力において中国側がアメリカを凌駕するとする予測が少なくありません。残念なことに、上述した最悪の‘一つの世界’は現実のものとなる確率は極めて高いのです(但し、中国有利を示す予測は工作活動による情報操作の可能性もある…)。このような未来が予測されている以上、その国力に幻惑されて中国に迂闊に靡く、あるいは、座して死を待つ態度が正しいとは思えません。分裂を怖れるばかりに最悪の事態を招くのは偽善の末路、あるいは、愚かさと云うものなのではないでしょうか。

実際に、米中対立が‘熱戦’と化すのかどうかその予測は困難ですが、少なくとも、中国が支配する‘一つの世界’が出現するよりは、世界が分裂していた方が遥かに‘まし’なことは確かなように思えます。全世界ではないにせよ、自由な空気が吸うことができる空間が残されており、普遍的諸価値を根幹に据える国家体制もサバイバルできるのですから。

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