新型コロナウイルスには、その起源やワクチン効果を含めて多くの謎があります。先進諸国にあって3回目のブースターショットの実施が持ち上がった際に、WHOのテドロス事務局長は、途上国を差し置いて先進国が2度どころか3度目の接種を行うとはあまりにも利己的である、として批判していました。しかしながら、現実は、テドロス事務局長の認識とは大きく隔たっているようなのです。
昨日の8月18日に、AFP通信社は、各国当局が公表したデータを基にして作成した新型コロナウイルスの感染状況を示す世界地図を公表しています。この地図を見ますと、奇妙な点に気付かされます。新型コロナウイルスとは、武漢を発祥の地として国境を越えて全世界に瞬く間に広がりパンデミック化しましたので、全世界の諸国が共に深刻なコロナ禍に苦しんでいるとするイメージがあります。しかしながら、同感染地図は、このイメージを覆しています。アフリカ諸国、並びに、中央アジアから中東当たりの諸国では、先進諸国と比較して死者数は極めて少ないのです。人口が2億を超え、世界第7位にしてアフリカ最大の人口大国であるナイジェリアでさえ、日本国内の死亡者数を下回っています。因みに、タリバンによる首都制圧が起きたアフガニスタンの映像を見ても、3密どころか大勢の市民達が狭い場所で密集していても誰一人としてマスクを着装しておりません(覆面をしているタリバンの兵士は見受けられますが…)。
過去におけるSARSやMARSの記憶もあって浸透してきた’医療制度が未整備な途上国は感染症に対して脆弱である’とする一般的な先入観は、少なくとも新型コロナウイルスの感染状況を前にして打ち砕かれてしまっています。それでは、何故、途上国では、新型コロナウイルス感染症による死亡者数が少ないのでしょうか。
第一に考えられるのは、アフリカ系の人々が有する遺伝子が、新型コロナウイルスに対する抵抗力をもたらしているというものです。アフリカ大陸に隣接する中近東の人々もアフリカ系の遺伝子を引き継いでいると推測されますので、抗新型コロナ体質は、DNAによって説明されるかもしれません。もっとも、アメリカにあっては、他の人種と比較してアフリカ系の人々の方が感染率、重症化率、並びに、死亡率が高いとする報告もありますので、DNA説には有力な反証も存在しています。
第二に推測されるのが、気候説です。一般的に、風邪やインフルエンザといったウイルスは、冬場に猛威を振るうように、気温、並びに、湿度が高くなるほど感染率が低下する傾向にあります。熱帯、並びに亜熱帯地域に属する国の多いアフリカは同条件を満たしていますので、気候がこれらの諸国の低感染率に大きく寄与している可能性もありましょう。もっとも、中東諸国や中央アジア諸国の多くは乾燥地帯にありますので、同要件を全て満たしているわけではありませんが、夏場の気温の高さが感染拡大を抑えているのかもしれません。しかしながら、この説もまた、中南米諸国におけるコロナ死亡者数の多さを目の当たりにしますと、説得力を失ってしまいます。ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、ペルーといいった諸国では、今なお、新型コロナウイルスによって多くの人々が亡くなるのみならず、ペルーではラムダ株といったより危険な変異種も出現しているからです。
そして第3にあり得る要因は、食生活や生活習慣などの影響による免疫力の高さです。途上国の人々は、都会的な生活様式にあって、日常的に人工添加物も大量に摂取している先進国の人々よりも、あらゆるウイルスに対して免疫反応が優れているのかもしれません。その一方で、比較的高い免疫力を備えているとされてきたインドにあっても、同ウイルスは爆発的な感染拡大を見せましたので、同要因は、限定的であるとも考えられます。
以上に幾つかの主要な要因を挙げてきましたが、日本人の感染率の低さについて指摘された’ファクターX’のように、実のところ、途上国における要因を特定することも難しいのかもしれません(’ファクターX’についても交差免疫説をはじめ所説があり、仮に、これが事実であれば、少なくとも従来株に対するワクチン接種の必要性は低かったのでは…)。複合的な要因かもしれないのですが、もう一つ、可能性を指摘し得るとすれば、それは、ワクチン接種にあるのかもしれません。例えば、多くの死者が報告されている中南米諸国を見ますと、少なくとも1回接種した人の割合は、アルゼンチン59.04%、ブラジル57.32%、メキシコ42.32%、ペルー40.32%であり、完了した人の割合は、チリ68.15%、コロンビア27.07%、ブラジル24.06%、メキシコ22.8%なそうです。
先進国に加え、比較的ワクチン接種率の高い諸国にあって感染拡大傾向が見られる点については、注意を要する必要があるように思えます。政府当局は、感染者の多くは未接種者であると力説しており、高接種率に安心して規制を緩和したためとも説明されはいるものの、アメリカやイスラエルにおいて報告されているように、「ブレークスルー感染」者は増加傾向にあります。しかも、新規感染者の大半がラムダ株に感染しているとなりますと、時間の経過によるワクチン効果の低下のみならず、従来株に対応して開発された現行のワクチンを接種した人々が変異株に対してより感染し易くなる現象、即ち、ADEが発生している可能性も否定はできないように思えます。日本国でも、一般国民に対するワクチン接種が始まった5月頃から超過死亡者数が増加しはじめた点も気になるところなのですが、感染拡大にも歯止めがかからなくなっております。
ボスニアボスニア・ヘルツェゴビナのような例外はありますものの(人口100万に当たりの死亡率が世界第3位でありながら、接種完了率は僅か7.1%…)、新型コロナ感染状況世界地図が示す、ワクチンの接種率と死亡率との一般的な相関性をどのように理解すべきなのでしょうか。第3回の接種実施も検討されているようですが、この世界地図は、ワクチン接種のリスクとして読むべきように思えてならないのです。