万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

最終局面に入った’二頭作戦’?

2021年10月18日 12時51分21秒 | 国際政治

 世界を分断してきた米ソ間の冷戦構造が崩壊した後、政治の世界にありましては、戦後政治の最大の特徴ともされた左右のイデオロギー対立が薄まったとされております。これと同時にグローバリズムが全世界に広がるのですが、果たして、この傾向は、何を意味するのでしょうか。

 

 二頭作戦については、先日、本ブログの記事において扱いましたが、冷戦崩壊後における保守政党のリベラル化を観察しますと、これは、二頭作戦のプロセスの一環として理解できるように思えます。この時期にあって、どのような二頭作戦が展開されたのかと申しますと、左派政党では、共産党でさえ過激な暴力革命を最早主張せず、’資本家’の基本権や財産権の’保護’を約する傍らで、より温和なリベラル政党は、差別反対や平等を訴えて、固有の伝統や歴史等を含むあらゆる属性や個性を消滅させ、人類の画一化と無味乾燥としたモノトーンな未来社会を目指します。この際に、人々を惹きつけるために用いられる詐術的なスローガンとは、グローバリズムを背景とした’多様性の尊重’や’国境なき自由な世界’といった’美しい言葉’です。もっとも、リベラルが目指す社会とは、’超人’あるいは’進化型人類’と位置付けた自分たちを除いて、全人類がデジタル・ナンバーで識別され、完全にコントロールされる世界なのかもしれません。

 

それでは、左派政党の対抗勢力であった右派政党はどうでしょうか。右派と左派を比較しますと、その変質ぶりは右派の方に際立っています。左派政党も、保守の取り込みや国民一般の支持を得るために保守的な政策を掲げることはありますが、その本質においてはリベラルという基幹が揺らぐことはめったにはありません。その一方で、右派政党は、その存在意義さえ失われる程に変質するケースが見られるのです。保守政党の多くは、左派の人気政策を自らの政党に取り入れるという名目の下で、リベラルな政策を打ち出すようになるからです。アメリカにあっても、とりわけ経済・社会面にあって左右の対立軸が薄れ、共和党が目に見えてリベラル化したのはジョージ・W・ブッシュ政権の頃であったとされています。移民政策をはじめメルケル長期政権下のドイツでもCDUの左旋回が顕著でしたし、今日の日本国を見ましても、保守政党とされる自民党の政策の多くは左派政党と殆ど変わりがありません(しかも、全体主義志向の強い公明党とも連立政権を組んでいる…)。何れの政党も、脱炭素、デジタル化、そして、ワクチン接種やワクチン・パスポートがこの世で唯一の政治課題であるかのように、同一の方向に向かって邁進しているのです。

 

右派のリベラル化による経済・社会面における人類の画一化、即ち、全体主義化が進行する一方で、軍事面においては、リベラル派は、表看板としての平和主義の陰で’隠れ暴力主義’の戦略を取っています。アメリカの場合、歴代民主党政権は、表向きでは平和主義を唱えつつ、共和党以上に戦争には積極であったことはその歴史が示すところですが、その他の諸国にありましても、左派の政党は、自国の軍事力や軍事テクノロジーの開発を阻害することで、間接的に暴力主義国家をサポートしているのです。今日、中国が先端的な軍事技術を備えるようになった理由も、各国のリベラル派からのサポートがあったからなのでしょう(アメリカからも相当の技術流出があったはず…)。リベラルも、本心から人類に平和をもたらすつもりはないようなのです。

 

 

そして、右派が唱える軍備増強や防衛力強化にも警戒を要しましょう。防衛目的は名目に過ぎず、国家レベルでの軍事テクノロジーの開発もまた、おそらく、’本体’が人類支配のための’暴力装置’を手にすることが目的であるかもしれないからです(’本体’からすれば、自らに役立つテクノロジーを開発さえさせればどの国家でも構わず、国家は利用の対象…)。オーウェルが人類への警告を込めて描いた『1984年』の世界では、3つの軍事大国が国民を完全なる監視下に置き、その内面までも支配する体制を維持するために、3国による見せかけの軍事的緊張が永続化されていますが、現実にありましても、米中対立、あるいは、米中ロ三国間における軍備拡張競争は、茶番である可能性も否定はできないのです。

 

左右双方の逆走の非対称性は、二頭作戦の本体の目的が、リベラルが描く社会と凡そ一致しているからなのでしょう。何れにしましても、今や、政治的な対立軸としての左右の違いが不明瞭となり、二頭作戦も最終段階を迎えつつあるかのようです。言い換えますと、これ以上、二頭作戦を継続できない程までに、隠されてきた胴体部分である’本体’が現れてきているのかもしれません。そして、これこそが、今日という時代にあって人類最大の脅威であり、かつ、真摯に対処すべき政治的な最重要課題なのかもしれないと思うのです。


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