万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国上場企業の共産党末端組織化の狙いとは-国策企業への転換

2017年08月17日 14時55分29秒 | 国際政治
本日8月17日付日経新聞の第一面には、“中国企業「党の介入」明文化”という見出しが躍っていました。中国共産党が企業経営の意思決定に関与できるよう、四大銀行や通信王手を含む上場企業の288社が定款を変更したというものです。企業側が自発的に定款を変更したとは考えられず、中国共産党、否、習近平主席の“指令”があったことは明白です。

 定款の変更において特に重要な点は、各企業の内部に中国共産党の党組織が設立されることです。この措置により、企業は中国共産党の末端組織として組み込まれ、中国共産党のコントロールの下に置かれるのです。現下の上場企業には、一般の民間株主もおりますので、政府の指令の下で公営企業のみにより運営されていたかつての計画経済よりはソフトなものの、今般の措置は、中国上場企業の国策企業化といっても過言ではありません(国策よりも“党策”と表現した方が相応しいかもしれない…)。それでは、この転換には、どのような狙いがあるのでしょうか。

 第一の狙いは、近年加速化している習近平独裁体制における“ポスト”の新設です。独裁体制の特徴の一つは、人事権を独占し、自らに忠誠を誓う側近や部下にポストを分配するところにあります。今般の定款変更により、権力の源泉となる大企業内部の“党組織ポスト”の人事権を手にすれば、習主席は、以後、これらのポストを自らの権力基盤の強化に利用することができます。

 第二に推測される狙いは、中国に進出している外国企業のコントロールです。定款を変更した企業には、トヨタ自動車やホンダと合弁事業を行っている広州汽車集団等も含まれています。外国企業との合弁企業に対しても中国共産党の組織網を広げることで、外国企業の株式分を取得せずとも、事実上、経営権を握ることができるのです。

 そして第三の狙いがあるとすれば、それは、近い将来において想定されうる戦争への準備です。北朝鮮問題や南シナ海問題をめぐる米中関係の悪化に加え、インドやベトナムとの間での緊張や軋轢も高まっております。また、尖閣諸島周辺海域における中国公船や民間船舶の動きも活発化しており、先日のモンゴル自治区での軍事パレードにも象徴されるように、中国の示威活動は危険水域に達しています。仮に、中国共産党が戦時を想定しているとすれば、当然に、戦時経済への転換を図る必要があり、民間企業の国策企業化は、その一環として理解されます。まさに、ナチスドイツが第二次世界大戦前夜に実行したように。

 80年代以降の改革開放路線において纏ってきた衣は習近平体制の成立によって脱ぎ捨てられ、今や中国は、鎧を見せつつあるようです。北朝鮮問題の先には中国の軍事行動のリスクが控えており、有事に際して中国の戦争遂行に協力させられかねない日本企業もまた、重大な選択を迫れているように思えるのです。

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2 コメント

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Unknown (オカブ)
2017-08-17 19:24:43
倉西先生。
いつも鋭いご指摘ありがとうございます。
日経新聞の記事を読みました。
記事に関して気づいた点が3点。
①先生も仰られているように、定款変更の意図としては私企業に共産党人事を介入させ習近平体制の足掛かり強化、私企業への共産党の意思に基づく支配強化という国内問題がメイン。
②当然とも言えるが、この記事が中国政府や証券取引所による発表ではなく、日経独自の取材によって書かれたこと。
③現時点では、定款変更を行った企業は金融、製鉄、通信などの基盤インフラ産業に属するもので、新興著しいネットベンチャーなどは含まれていない。
ここで、私は①について、もう少し穿った憶測をしています。
それは、中国が軍事的なヘゲモニーを国際社会でとるのみならず、経済セクターでも覇権主義の行使の冒険に出たのでは、という推測です。
言うまでもなく、中国は農産物、工業製品、金融などの分野で供給においても需要においても世界最大の市場です。その市場の中心である私企業を政府(党?)の支配下に置くということは、国際経済において政府が中国との取引国の生殺与奪の権を握るということです。
もとより、習近平のこの決定は世界が中国経済を自由主義原則が機能しない存在であると見做すリスクとの天秤にかけたものでしょう。
しかし、中国市場が輸出においては為替以外の、輸入については関税以外の手段で党の支配下に置かれるということは、世界制覇を目指す習近平にとって笑いが止まらないことと思います。
以前から、上海株式市場の動向は、共産党のコントロール下に置かれていると言われてきました。こうしたことは、共産主義国としては当然と言えば余りにも当然なことなのですが、世界は安易に中国経済が自由主義陣営に属すると見做し過ぎてきました。
さらに申せば、③の次の段階として、アジアで初の時価総額4,000億ドルに達しようとしているアリババなどの巨大資本企業などを共産党が支配下に置くことによって、世界の資本市場も制圧しようとしているのではないかという憶測です。
共産党が経営意思決定に介入することができれば、配当なども共産党の思惑に従って決定できるわけで、中国に集中する資金を人質にとって、世界の資本市場を思いのまま動かせるようになることも将来、予想されます。
もっとも、中国経済の減速が以前から指摘されているように、そう簡単に中国が経済において世界で覇権を握ることはできないでしょうが、少なくとも自国との貿易・金融取引企業には大きな影響力を及ぼすことができます。
今回の中国政府の私企業に対する支配力強化という事態は、日本としても経済面のみならず、軍事的手段以外の安全保障面からの不安要因として注視する必要があると思います。
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オカブさま (kuranishi masako)
2017-08-17 20:16:03
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 オカブさまのご指摘は、まことにその通りであると思います。従来においては、中国企業と外国民間企業との取引は、政府を介さずして直接に行われてきたのでしょうが、今後は、全ての案件について、中国共産党を通さなければ如何なるビジネスも成立しないことでしょう。それは、とりもなおさず、中国共産党が国際経済の主導権を握ることに他なりませんし、おそらく、この措置により、習近平主席、並びに、中国共産党は、貿易や投資に関する利権を独占することでしょう(さらに腐敗体質が強化されるのでは…)。毛沢東を越え、マルクスとレーニンに列する地位に上り詰めた結果が、典型的な”国家資本主義”となるのですから、何とも皮肉な結果です。中国の思惑通りに経済覇権を握れるかどうかは不透明ですが、何れの展開に至ろうとも、軍事力を自らの体制を支える要に据える事だけは確かなように思えます。
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