新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

ブラック・レイン 今は亡き優作と大阪の風景

2024年03月21日 | 映画/音楽


昨夜はアマプラで、久しぶりに『ブラック・レイン』を観ました。

十年ぶり、いや、二十年ぶり?

最後に観たとき、「『キリンプラザ』ももうないんだよな」と思いながら観ていた記憶がありますから、二十年は経っていないはずです。キリンプラザが閉鎖したのは2007年、取り壊されたのは2008年でした。

大阪に来た当初は、『ブラック・レイン』のロケ地を通り過ぎるたび、感動していたものです。終電を逃して、ほぼ無人の阪急梅田のコンコースを通りかかったときは、酔っ払っていたのもあって、「優作!」と大声で叫んでしまいました。

まあ、映画を見返してみると、阪急のコンコースでチャーリーのコートを奪うバイクの男は、優作ではなく、優作の子分役の國村隼だったんですけれどね。

チャーリーが殉職するのは、地下鉄御堂筋線の予定だったそうですが、許可が降りず、結局、あの惨殺シーンはアメリカで撮影されたそうです。大阪のどこのモータープールで撮影されたのか、いつか聖地巡礼したかったので、残念です。

溶鉱炉のある製鉄所は、加古川の神戸製鋼だと思っていました。機動隊員や工場労働者のエキストラを演じたという人が、そう話していたからです。しかしよくある「吹かし」だったのでしょう。ロケ地は新日本製鐵堺製鉄所なのですね。

しかし新日本製鐵では、銃の使用に許可が降りず、さらに役者がベルトコンベアに乗ったことに工場長が激怒して、追い出されてしまったのだとか。結局は大正区の中山製鋼所転炉工場で撮影されたそうです。こちらも銃の使用には許可が降りなかったのか、銃撃シーンのロケ地は『ターミネーター2』のあのラストシーンを撮影したカリフォルニア・スティール・インダストリー・インクということです。

大阪での撮影は、いろいろ制約が多かったようで、リドリー・スコット監督は「もう二度と大阪では撮りたくない」と言っているようです。


ところで、急に『ブラック・レイン』を観たくなったのも、柏木隆雄先生の小津安二郎論を読むうちに、『蘇る金狼』を思い出したからです。

晩年の小津安二郎は、戦後復興、高度成長を支えたサラリーマンを主人公にした名作を生み出していきます。これが映画『無責任男』シリーズ、漫画の『釣りバカ日誌』『総務部総務課山口六平太』などのサラリーマン作品のプロトタイプになっていったのではないかと、考えたわけです。小津の死の一年前から連載が始まった、企業乗っ取りをめざす青年を主人公にした『蘇る金狼』も、高度成長の時代を背景にしたサラリーマン小説、企業小説でもあるのです。小津映画から大藪春彦、松田優作を連想するのは、私くらいでしょうが。

久しぶりに『ブラック・レイン』を見ると、大阪の町並みもすっかり変わってしまったことに気づきます。

阪急梅田のアーチ型天上の旧コンコースは、平安神宮や築地本願寺を設計した建築家・伊東忠太の設計による近代建築の名品でしたが、2005年、阪急百貨店の建て替えとともに姿を消しました。阪急百貨店の十三階レストランに再現されているそうなので、一度は見に行こうかと思います。

ニックがヤクザの親分の菅井に会いに行く、豊崎のゴルフ練習場も西宮に移転してしまいました。森下仁丹の電飾看板が出ていたビルももうありません。

ニックがチャーリーを偲ぶ、心斎橋の歩道橋も取り壊され、今や御堂筋の横断歩道として、一部が残っているだけです。

ヤクザのアジトになっている京橋のパチンコホール「京一会館」の一階部分は、今はファミマになっているようです。ホール内に「アレパチ」なる看板が出ていて、CR全盛期のデジパチしか知らない私は、「なんだそれ?」と調べてしまいました。

スマホの小さな画面で観ていたので、記憶もあやふやですが、1980年代後半の雰囲気を今に留めているのは、十三の栄町商店街くらいでしょうか。第七藝術劇場やねぎ焼きのやまもとがある通りです。あと、そんなに変わっていないのは大阪府庁でしょうか。

やはり見返すたびに発見があります。

小野みゆきが演じた、キリンプラザがロケ地になった「クラブ都」のホステスが、銀行の貸金庫に預けた偽ドルの見本刷りを封筒に入れ、タクシーを降りてきた内田裕也演じるヤクザに渡す場面も印象に残りました。「大阪にあんな場所あったっけ?」と思っていたのですが、神戸の元町なんですね。タクシーを捕まえるのが大丸のショーウィンドウの前のようです。

道理で見たことがなかったわけだと思いました。私は震災前の神戸を知りません。『ブラック・レイン』は貴重な映像遺産、記憶遺産でもあるのだと思いました。

「そうだったのか」と思いだしたのは、あの赤白ツートンカラーの煙突は、高倉健演じる松本警部補の自宅から見えたものだったということです。前回観たときも同じこと考えたような気がします。アメリカに送還されることになったニックが、離陸直前に荷物用エレベーターで脱出し、停職中の松本警部補の自宅を訪ね、協力を求めに来る場面です。

私はあの煙突は、大阪府庁がロケ地となった大阪府警から見える情景とばかり思い込んでいました。

大阪に来たころ、大阪城公園駅から、赤白ツートンカラーの煙突が間近に見えたのが、インパクトがあったのですね。東京や名古屋や姫路や高松や松山にも城があり、工場地帯だってあるわけですが、歴史景観エリアと産業エリアは棲み分けていると思うのです。USJもアトラクションの途中に工場が見えるのに幻滅する、ネズミーランドはそういう夢をぶち壊しにするようなことはない、という感想を聞いたことがあります。大阪はあくまで商業のまち、産業のまちで、観光都市としてのホスピタリティには欠けるところがあります。

大阪城公園駅は、4年前、大阪城ホールにコロナの集団接種を受けに行って以来です。あの日は特に周囲の風景を気にすることもなく、今もあの煙突があるかどうかわかりません。ただ、第二寝屋川のクルーズ船の大阪城港近くで撮影された写真に、赤白ツートンカラーの煙突が写っています。


なんの工場なんだろう? 最近はハイキングで忙しいですが、いつか休みをつくって、探検に行きたいものです。

前回『ブラック・レイン』を見たときも、あの煙突が松本の自宅から見えたものであることに驚き、「松本は城東区あたりに住んでいるのだろうか」と考えたものでした。

しかし、そうではなく、松本の自宅のロケ地は、ニュートラムのポートタウン東駅周辺の集合住宅という設定なんですね。大阪府警までは中央線乗り換えで直通ですから、通勤は便利ではあります。

あの煙突の立つ、近未来的ともいえなくもない埋立地の風景は、大阪万博の迷走に示される、今の大阪の地盤沈下ぶりを先取りする情景です。

今はもう見ることができないものといえば、松田優作もそうです。

本作での松田優作の演技は神がかっていました。『嵐が丘』を撮った吉田喜重監督がいうとおり、まさに「婆娑羅」でした。若い人にもぜひ『ブラック・レイン』を見ていただきたいものです。

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