昨日の続き。
鶯茶も、その代案の鶸茶も、初めて使う色だった。
お客さんも感心していたが、20年近くやっていると、ネタも尽きてくる。
「黒さん、この色、去年も使っていますよ」
とデザイナー氏に指摘され、
「さよか」
と、「海老茶」を同一色で漢字表記が異なるだけの「葡萄茶」(えびちゃ)に差し替えるなど、よくあることだった。
和歌でも花札でも、「梅に鶯」というが、これはメジロとウグイスを混同したのだろうといわれる。メジロは花蜜食で梅や桜に集まってくるが、ウグイスは昆虫食で花の近くに来ることはほぼない。『エコエコアザラク』にも、美しい声で鳴くウグイスは、実はこんな醜い虫たちを食べているというエピソードがあったと記憶する。ウグイスは「ホーホケキョ」という鳴き声がするだけで、人前に姿を見せることはない。
晩年の吉本隆明は、ホトトギスの実在を疑い、上野動物園に質問するなど迷走しまくっていた。
『フランシス子へ』のラストで、この本の作り手たちはホトトギスの鳴き声を吉本に聞かせる。
「すごいなあ。いやあ、はじめてだなあ。はじめて『いる』という感じを与えられた」
吉本はそう喜び、「ちょっと呼びますか」と家族を集めもう一回聴いた。
「さあ、みんな呼んで。みんな呼んで」
これは何も「ホトトギス」に限ったことじゃない。…
本当はどんなことだってそうで、そう簡単には言えないよ。
…「実在」を本当に確かめるのは大変ですから。「いや、本当にそうか」って追究していったら、なかなか断定なんてできるもんじゃない、ということばを吉本は残している
(『フランシス子へ』吉本隆明)
「すごいなあ。
いやあ、はじめてだなあ。
ホトトギスはいるんだね」
この吉本の言葉に、私も鳥肌が立った。
ホトトギスは実在する。しかしそう語った吉本はもうこの世に実在しない。
吉本にいろいろ批判はあるわけだが、ホトトギスなんかこの世に実在しなくていいから、長生きしてほしかったよ。フランシス子にも。