かつて山手線で一番乗降客数の少ない駅といえば、鶯谷駅だった。
しかし、2020年に開業した高輪なんとか駅に抜かれてしまったらしい。
「JR山手線」1日の平均乗車人員が少ない駅ランキングTOP30! 1位は「高輪ゲートウェイ駅」
!【2021年度調査】
第1位:高輪ゲートウェイ駅(7867人)
第2位:鶯谷駅(1万8890人)
なんということだ。浅草線や京浜急行も乗り入れているのに、JR単独駅の鶯谷駅より少ないとは驚きである。地図を見ても駅前も空き地が広がっているようで、開発はこれからのようである。インバウンドも見込んだのだろうが、コロナ禍の直撃を受けたということかもしれない。
鶯谷駅は降りた覚えがない。今も変わらないようだが、鶯谷といえばラブホテル街である。東京時代、私も上野公園のデート帰りに利用したことがあったかもしれないが、上野から徒歩圏で、わざわざ電車に乗るまでもなかった。駅を降りたらすぐラブホ街というシチュエーションは、非常に便利のようではあるが、他の乗客の視線が気になるところではある。
Wikipediaによると、鶯谷の地名の由来はこう説明されている。、
江戸時代に寛永寺の住職として、代々京都から皇族が駐在していた。その一人である公弁が、元禄年間に「江戸の鶯はなまっている」といって当時の文化人・尾形乾山に京都から鶯を運ばせて、この地域に鶯を放し、鶯の名所になったことに由来する。
公弁法親王の項ではもう少し詳しい。
寛永寺住職であった時、上野の森の鶯の鳴き始めが遅く声も美しくないことを悲しみ、尾形乾山に命じて京都から美声で“はや鳴き”の鶯を3,500羽取り寄せ、根岸の里に放鳥した。このため根岸の鶯は美しい声で鳴くようになり、江戸府内でも最初に鳴き出す“初音の里”として名所になった。鶯谷の地名はこれに由来しているとされる。
坂東のウグイスはなまっていると、難癖をつけたのか。これだから京都人は気に入らない。しかし、ウグイスもさえずり始めは下手で、徐々に上達していくと聞いたことがある。さえずりの美しいものの声を聞かせて上達させることも平安期から行われていたらしい。
Wikipediaのウグイスの項に、興味深い話があった。
要約すると、ハワイに生息するウグイスは日本から人為的に持ち込まれたものだが、ハワイに生息している種の鳴き声(さえずり)は日本に生息しているものと比較して単純化されているというのである(国立科学博物館の筑波研究施設による)。これはハワイでは縄張り争いや繁殖の争いが日本に比べて激しくないためと推測されているとのことである。
江戸郊外も、古くから開けてきた京都に比べて、ウグイスの縄張り争いも激しくなかったのではないか。スレた京鶯が、のんきな江戸鶯を放逐してしまったということか。
ところで、天保年間刊行の『江戸名所図会』には、なぜか鶯谷の記載はない。「初音の里」についても白山権現の御薬園(おやくえん)について、「この辺りを初音の里と字(あざ)す。里諺(りげん)に、江戸の時鳥(ほととぎす)はこのところより発声す、ゆゑにしか名づくといふ」とあるのみで、根岸の里には言及がない。
『日本地名大百科』(小学館、1996年12月20日初版第一刷、1997年4月1日初版第二刷)を引いてみた。
鶯谷 うぐいすだに[東京都台東区]
区北西部、上野公園の北端、JR山手・京浜東北線の鶯谷駅を中心とする地区の通称。駅名は近くを流れていた音無川(おとなしがわ 現在は暗渠)がウグイスの名所であったことにちなむと伝えられる。上野公園の裏玄関口にあたり、駅北東部は根岸の里とよばれた風光明媚な地で、江戸から明治にかけて多くの文人墨客が住んだ。駅南の寛永寺霊園には6人の将軍を祀る徳川家霊廟がある。
音無川は石神井川の支流で、三ノ輪橋を経て、思川(おもいがわ)と山谷堀に分かれたらしい。現在は暗渠の音無川に架かっていた鶯橋(水鶏橋 くいなばし)のネット探訪記事も見かけた。
ただし、この『地名大百科』も「と伝えられる」で、はっきりしたことは書いていない。
実際、江戸時代、鶯谷と呼ばれた場所があったのは事実のようだが、どこだったのかは、よくわからないらしい。文献の伝えるところでは、日暮里や西日暮里周辺で、現在の鶯谷駅周辺ではなさそうである。寛永寺の住職(公弁法親王)がウグイスを放鳥したという話の出典は、『新編武蔵風土記稿』のようだ。
根岸には花街があり、また金持ちの別邸がたくさんあったという。根岸に住んだ子規は鶯谷について「妻よりも妾の多し門涼み」の句を詠んだという。これは空想だが、鉄道省の役人に洒落がわかる人がいて、四十八手の鶯の谷渡りにも引っかけながら、この近辺にあった鶯谷の名を駅名に冠したというあたりが、真相ではないか。
鶯谷のある東京に住んだけれど、関西に移り住むまでウグイスのさえずりを聴いたことはなかった。最初は10年ほど前、能勢に訪ねたときだった。二回目が今年、丹波にある農園の小屋に泊まったときである。あの晩は鹿の鳴く声を聴きながら眠り、ウグイスのさえずりで目覚めた。水路にはゲンジホタルも出る。スマホの光に呼ばれたのか小屋の中にも迷い込んできた。夏が終わり、収穫の秋を迎える。
おまけ。こんな面白いネット記事も見かけた。
沖縄県・南大東島のウグイスは「ホーホケキョ」の節回しが独特 国立科学博物館が発表