尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

遊行寺で横浜ボートシアター『小栗判官・照手姫』を見る

2023年11月04日 22時30分52秒 | 演劇
 神奈川県藤沢市遊行寺(ゆぎょうじ、正式には清浄光寺)本堂で、横浜ボートシアターの『小栗判官・照手姫』をやるというので見に行ってきた。横浜ボートシアターは名前は知っているけど、初めて見た。2020年に亡くなった劇団主宰の遠藤啄郎(えんどう・たくお)の追悼公演である。『小栗判官・照手姫』は1983年に遠藤が紀伊國屋演劇賞個人賞を受けた作品だ。しかし、その年は就職・結婚した年で、なんか船の上で公演する劇団があるという評判は聞いたけど行くヒマがあるはずがない。

 前から遊行寺に行ってみたかったので、今回行くことにした。箱根駅伝で「遊行寺坂」を通るので、名前を知ってる人も多いだろう。ここは一遍の開いた時宗の総本山である。そしてここには「小栗判官」と「照手姫」の墓がある。伝説だろうと言われるかもしれない。でもモデルみたいな人物はいる。墓がその人のものか、僕はよく知らない。でも一度死んだはずの小栗判官は家臣の頼みにより、閻魔大王の命で藤沢上人に預けられる。これは遊行寺の上人のことである。そして熊野の湯の峰温泉に浸かって蘇る。前に湯の峰温泉に行ったとき、小栗判官伝説がいっぱい書かれていた。まさか死者は蘇らないだろうが、素晴らしい名湯だった。
  (順に小栗判官、照手姫、名馬鬼鹿毛の墓) 
 家からは遠いと言えば遠いけど、実は乗り換え一本である。藤沢はずいぶん栄えていた。遊行寺は北口を降りて15分程度。間違えることもなく到着した。早く行って宝物館などを見た。11月なのに夏日という日だが、ちょっと坂になっていて涼しい風が吹いている。いつから入れるのかなと思っていたら、いつの間にか入場が始まっていた。本堂の中は当然写真禁止だろうから撮ってない。そんなに広くなく、そこに椅子席、及びその前に座椅子席がある。大昔に大谷石の採石場で転形劇場を見たことがあるが、テント芝居は別にして、劇場以外で見るのは久しぶり。役者の後ろにご本尊の仏像があるわけだから、ムードがあると言えばその通り。
 (本堂)(一遍上人像)
 『小栗判官・照手姫』の細かい筋書きは書かない。役者は仮面を付けていて、いくつかの役を演じる。と同時に両脇に様々な楽器が置かれていて、それを演奏するのも役者である。その音楽は「アジア」的なムードで、どこかインドや東南アジアなどの仮面劇を呼んできたという感じである。昔そういうのを結構見てるが、紛れもなく日本の伝承を演じているはずが、どこか異国的なムードを感じる。説経節の「おぐり」自体、自分の属する文化という感じがしない物語である。中世の伝承で、時代が違いすぎるのである。だから『マハーバーラタ』を見るのと違わない。
(遠藤琢郎)(今回の上演ではないけど)
 だけど、この芝居は傑作だと思う。椅子に座っているとお尻が痛くなるが、大いに見る価値がある。ただ普通の意味の観劇体験とは違うのである。テーマや物語に共感するようなタイプの劇ではない。そもそも仮面を被るということが、(能などもそうだが)登場人物の「個性」を鑑賞するというのとは違う。役者の肉体は鍛えられていて、いろいろな人物をどんどん変容しながら演じていく。常にドラムなどの音楽が鳴り渡る。そこで普通のドラマとは違う、生と死のファンタジーが身体に染み渡る。演劇と言うより「舞踏」に近いのかもしれない。でも、ストーリーももちろん存在する。日本の伝承をやってるんだから、何となく知っている。
(遊行寺坂)(説明板)(大イチョウ)
 中世の荒々しさ、宗教の持つ力など、前近代の物語の枠組で語られるから、ちょっと遠いところもある。そこに「温泉伝承」がプラスされるところが、日本的というべきか。昔見たらもっと感激したんじゃないかと思う。「アジア的」とか「身体」とかに関心が強かったから。今見ると、こういう芝居が作られた時代が懐かしい感じもした。11月23~25日に代官山シアターでも上演。
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