京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

火床

2023年09月22日 | こんな本も読んでみた
【筑豊炭田はほぼ1世紀に近い年月にわたって日本最大の火床として繁栄を誇ってきた。
我が国の資本主義化と軍国主義化を推し進める重工業の歯車が、この黒い熱エネルギーによって廻転した。三井・三菱をはじめ大小諸々の財閥が、この地底から富をすくい上げ今日の基礎を築き上げた。
(このあたりは、学校の授業で習った記憶がある)


そして、地下王国を支えてきたものは日本の資本主義化と軍国主義化のいけにえとなった民衆の、飢餓と絶望であった。
言語を絶する野蛮な搾取。奴隷的な労働の質。飢餓賃金、飢餓生活は、哀れな労働者たちの逃亡を防ぎ、使える限り奴隷としてつなぎとめておくための最も効果的な足枷でもあった。
抗夫たちの前に明日がない。それゆえ彼らは絶望も持たなければ希望も持たない。

自分が語らずにおれないのは、炭鉱の合理化問題や失業問題などではなく、虚しく朽ち果ててゆく抗夫たちの歯を喰いしばった沈黙、組織されずに倒れてゆく抗夫たちの握りしめた拳なのだ。】
…と、みずからも炭坑夫として筑豊に生きた上野英信は著書『追われゆく抗夫たち』で書いていた。


同時期に偶然に中古書店で見つけたのが、エッセイが収められた『上野英信集』だった。
ここで、漱石の『抗夫』を知った。


あまりの圧制。
読んでいて胸はふさがり、腹はふくるるばかり。さて、私はどう自分の人生の中で消化していけるだろう…。読んだこともいずれ忘れ去るのだろうか。
いくつかを選んで読んできたが、ここらで小休止と決めた。やたら気分は重く、疲れた。


 〈こほろぎの待ち喜ぶる秋の夜〉  エアコン不要で、窓を開けている。

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2 コメント

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同じ時代に私は… Reiさん (kei)
2023-09-24 10:53:12
これは自分がいくつのときの話かと、立ち止まる箇所は私にもありました。
人間離れした無慈悲の極み、胸が苦しくなる凄惨な記録でした。
明治時代から筑豊の地底で生き抜いてきた老抗夫・山本作平さんが10年間日夜絵筆をとり続け、
ひそかに絵を書き留めたそうです。画文集になったそうです。
長崎から北海道まで、脱走につぐ脱走で80のヤマを渡り歩いた抗夫も絵を残し、上野氏宅に預けに来られたそうです。
「正確な事実へのすさまじい執念の結晶」とありました。
炭坑での労働がこれ程までとは知りませんでした。

きっかけは葉室麟さんによる『豆腐屋の四季』だったなと思い出しました。
葉室氏は学生時代に上野氏を訪ねていて、感激した話を何度もエッセイにされているようです。
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「追われゆく坑夫たち」 (Rei)
2023-09-23 20:51:55
「蕨の家」に続いてようやくこの2冊目を読み終えました。
読み進む途中で気付きましたが、描かれている背景は
昭和30年を中心の何年かですね。
同じ時代に私は二人の子供を産み育てていたころで
この近代にこんなひどい仕打ちをされた人々が
いるとは信じられない思いです。
所どころに差し込まれた写真が一層胸打ちました。
特に子供の写真には。
昔、小林多喜二の「蟹工船」を読み衝撃を受けましたが
時代は私の生まれる前の事、時代が違う、昔のことと
思えましたが
今回のは私が「ノホホン」と生きていた同じ時代に起きたこととは信じられませんでした。
上野栄信氏は体を張って潜入、作品にされました
「炭鉱王」たちにこの作品を読んでほしいと思います。
紹介いただきありがとうございました。
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