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変調読書之ススメ:001:『ヒッチコック/トリュフォー 映画術』(晶文社)
A.ヒッチコック/F.トリュフォー 山田宏一/蓮實重彦重彦(訳)
推薦度:4
映画好きの人、映像芸術に関心のある人には、推薦度は5。少しマニアックということで4。
難易度:4
たくさんの図版を用いて、ヒッチコックの作品を詳細に解説。インタビュー形式なので文章そのものは読みやすいが、飛躍や省略もあり、話題となっている映画を観たことのない人には少しわかりにくいところもある。全体を理解するには、映画に関するの或る程度の知識が必要。
本書、映画ファンの間では有名な名著。
『サイコ』『知りすぎていた男』『北北西に進路をとれ』といった、映画史の古典となっている、数多くの名作の監督、アルフレッド・ヒッチコックに、『突然炎の如く』『恋のエチュード』『終電車』といった、これも間違いなく映画史の古典になる名作を残した監督、フランソワ・トリュフォーが自ら行ったインタビューの記録。
映画の評論家としてデビューしたトリュフォーは、その辛辣で仮借のない批評活動によって「フランス映画の墓掘り人」と呼ばれた過去があるほどの人間であるが、本書はそのトリュフォーが、敬愛し尊敬する巨匠、ヒッチコックに、心からの敬意を持って映画芸術創造の秘密を聴きだしていく...
自身も創造する側に回った表現者として、トリュフォーは、単なる質問には終わらない、鋭く、深い問いかけを投げかけており、本書は、ヒッチコックに対してその作品制作の内奥を聞き出すインタビューであると同時に、二人の類い希な創造者による、真摯で見事な対話になっている。だから本書、HITCHCOCK/TRUFFAUTという標題で知られているほどである(原題は、Le Cinema selon Alfred Hitchcck)。
本書、邦題の『映画術』というタイトルがふさわしいもので、たくさんの写真図版を用いて、ヒッチコック作品の表現の意図を、映画制作上の技法から、かなり詳細に解明していく。俳優のキャスティングや台本、衣装、あるいは演技指導、照明、小道具、台詞回しといった演出上の工夫、カット、編集上の工夫...文字通り、映画技法の集大成のようになっている。
画面に映っている一組の男女がただのカップルではなく、どれほど熱く、深く愛し合っているのか...一瞬たりとも離れることができないほどに愛し合っている、その有様を映画は観客に見せなくてはならない。目で見せ、感じさせなくてはならない。そのために映画製作者は、演技の指導をし、カメラのライティング、アングルを工夫し、カットの繋ぎのリズムを工夫し、音響を工夫し、必要に応じて小道具を用いる。
一人の男が歩いている、ただそれだけのシーンの中に、これから始まる出来事の中で展開される恐怖が予感として感じられるように、その「恐怖」「不安」を見せなくてはならない。「愛」「悲しみ」「怒り」あるいは「不安」「絶望」「希望」といった、現実の中で形を取っているわけではない精神的、内面的なものを、目に見える映像として表現する...その「見せる」というところに「映画術」はある。
本書を読み込むことによって、映像の表現というものが、どれほど繊細で、どれほど精密に作られているのか、かなりはっきりとした形で知ることができる。映画といえば、CGのような特殊効果以外は、俳優の演技のようなもので支えられ衣いるのだと一般には思われがちであるが、舞台演劇で行われるものとはまったく違う表現世界がある...それが映画である。
(2012.12.25)
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