はじめに、こちらを...
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私事ですが、私が恵林寺にご縁を結ぶことができたのは、ひとえにこの『退蔵院方丈襖絵プロジェクト』の舞台となっている妙心寺山内塔頭退蔵院の住職、松山英照和尚様のおかげです。和尚様が私を徒弟として受け入れ、退蔵院のメンバーとしてたくさんのことを教えてくださり、今があります。
そして、道場での修行を終えてから、紆余曲折があって道が定まらず、路頭に迷っていたところを、助けていただいたのも、実はここで表彰されています退蔵院の副住職松山大耕師のお力添えによります。
ちょうど私が退蔵院の徒弟として住み込みの修業をさせていただくとき、数日の違いで同期で一緒に入門したのが、このプロジェクトの主人公の一人、絵師の村林由貴さん。
私は、半年の短い期間でしたが、一緒にお寺の様々な行事を体験し、日常を過ごしました。
そして、私は山梨。村林さんは、京都。
絵師として重い責任を背負い、創造に携わるという厳しい日常の緊張感の中、この4月で「九度目の春」を迎える...
今回、3月18日に『平成三十年度 文化庁長官表彰』を受けたとのこと。ほんとうに嬉しいこと...
受賞理由は、
「襖絵を制作する過程を通じて、若手芸術家の育成と伝統技術の継承を合わせて行う取り組みは、現代社会における文化支援の在り方を提示している」と高く評価いただいたことによります...
とのこと。
発案者の松山大耕師、絵師の村林由貴さん、プロジェクトに関わる職人さん、スタッフの皆さん、そして退蔵院の和尚様、奥様、お寺を支える皆さん...ほんとうにおめでとうございます。
心からのお祝いを申し上げます。
退蔵院での半年間は、和尚様、奥様、そして副住職の大耕さんが、「人を育てる」ということにどれほど多くの労力を割き、真剣に向き合っているのか、私自身が肌で実感する毎日でした。
今回の受賞は、アイデアの斬新さもさることながら、こうした着想が付け焼き刃のものではなく、日常の積み重ねの中で自然に生み出されてきたものだと、身をもって知っている者として、喜びはひとしおです。
アイデアは思いつくとしても、それがどれほど大変なことなのか...
その大変なことを黙々と、人生の時間を削りながら、成功するという確証がないところに踏みとどまって格闘を続ける...宣伝や広報、発信などといった軽薄な思いつきの類いとは次元が違うこと...当然のことそれなりのお金がかかっていて、大勢の人の仕事がかかっていて、そして何よりも才能ある一人の女性の人生がかかっているのです。
この受賞によって、絵師の村林さんの役割は、一層重大なものになります。そして、ここまで来ると、私は、この役割をまっとうに向き合って果たす人は、村林さん以外には誰もいないと思っています。
創造という仕事は、徹底的に孤独な作業です。
しかし、そもそも人間は、多くの人の愛情と力を借りて、多くの人の暖かい手に支えられてこの世に生を享け、生きていくものではありますが、それと同時に生まれるのも、死ぬのも独りきり...
心からの喜びとともに笑顔で誕生を見まもってくれる人がどれほど大勢いたとしても、惜別の涙に頬を濡らしながら最期を見送ってくれる人がどれほど大勢いようとも、誰もが最後のギリギリのところでは、独りで生まれ、独りで死んでいかなければなりません。誰も同伴することはできませんし、代わってもらうこともできない。
これは、人間に限らず、すべての生命に共通に定められたことです。
だから、徹底的に孤独に向き合うということは、創造に従事する者だけではなく、すべての人間、すべての生命に課せられたことではないか。
後はどこまでそれを直視し、目を逸らすことなくまっすぐ歩くか...
それは一人一人銘々の問題です。誰かがどうのこうの言うことではないと、私は思います。
かつて、この絵師の村林さんと妙心寺の法堂の傍らで、戯れにサイダーで乾杯しながら、それぞれの進むべき道に正直に、誠実に、誤魔化さないで立ち向かうことを誓い合った時のことを、今も思い起こします。いわば戦友の宣言。
二十代の前半だった村林さんはともかく、私に関して言えば、年齢を考えるならば青臭く愚直な限りだと、今は若干の恥ずかしさを覚えつつ、そうは言いながら、そうしたものをすべて捨て去ってしまうような人生以外には、本当の魅力は感じない自分を今も抱えています。
ともあれ、遙か彼方を見つめ続けるだけではなく、同時に、あたりまえの日常を真摯に、淡々と、しかし情熱を持って送る者だけがこの道を行くことができる。
受賞の喜びのその足下から、厳しく息詰まる日常の積み重ねが再び始まります。
「本表彰をいっそうの励みに進めて参ります」
の言葉、この人から発せられることの重みと、そしてその先に広がる世界に大いなる期待を持って、遠い山梨の地から熱いエールを送りたいと思います...
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