研究開発業務に従事する者(以下、本稿では「研究開発職」と呼ぶ)については「労働時間を管理しなくてよい」と思い込んでいる経営者も多いが、そう言い切ってしまうのはリスクを伴う。
たしかに、研究開発職は「専門業務型裁量労働制」の代表格(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項に列挙される業務のうち第1号)であって、これの適用を受ければ、労使で合意した一定の時間数(みなし労働時間)を労働したものとみなすことになる。 しかし、専門業務型裁量労働制を適用するには、労使協定を締結し管轄労働基準監督署へ届け出たうえで、本人の同意を得る(同条第3項;今年4月1日より施行)等の手続きを踏んでいなければならないし、そもそも担当業務の特性等により労働時間を本人の裁量にゆだねることができないものだと裁量労働制は適用されないことには注意を要する。
また、研究開発職に従事する労働者に係る三六協定(サブロク協定;労働基準法第36条に基づくのでこのように呼ばれる)には、その時間外労働時間の上限が無い。 これも誤解されがちだが、決して「研究開発職は上限なしで残業させられる」という意味ではなくて、時間外労働の限度時間を「行政からの指導による」のでなく「労使で決める」ということなのだ。
そして本稿の本題、「裁量労働制が適用される研究開発職は労働時間をまったく管理しなくてよいか」と問われると、「労働時間の“管理”は不要だが、労働時間の“把握”は必要」と答えるのが正しい。
というのも、労働安全衛生法第66条の8の3には「事業者は‥労働時間の状況を把握しなければならない」と定められ、その対象には研究開発職(高度プロフェッショナル制度の適用を受ける者を除く)も含まれるからだ。
さらには、労働時間を把握した結果、時間外労働・休日労働が月80時間を超え、疲労蓄積があり面接を申し出た者は医師の面談指導を受けさせなければならない(同法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の2)。 ここまでは研究開発職以外の職種に就く者と同じだが、研究開発職の場合には上述のとおり時間外労働の上限規制がないため、時間外労働・休日労働が月100時間を超えた者についても医師の面談指導が必須となっている(同規則第52条の7の2)。
つまり、研究開発職の“健康”を管理することこそが重要なのであって、「労働時間の把握」はその手段に過ぎない。 「管理」だの「把握」だの言葉尻をとらえるのは、あまり意味が無いのだ。
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