経営上の事情により従業員を解雇せざるを得ない場合、その当否を判断するために「整理解雇の4要素」を用いることは、判例的にもほぼ固まっている。
これは、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)解雇手続の妥当性、の4項目を言い、「整理解雇の4要件」とも呼ばれるが、一つでも“要件”が欠けると認められないというものではなく、これらを総合判断の“要素”として用いることから、近年では「整理解雇の4要素」と呼ばれることが多くなっている。
ところで、この4要素は、必ずしも整理解雇の場面だけに限らず、他にもこの法理を用いて当否を判断するケースが見られる。
例えば、内定取り消し。
そもそも「採用内定」とは、解約権を留保された雇用契約であるところ、会社が一方的に解約権を行使することの合理性や相当性は、「整理解雇の4要素」により判断されるべき(東京地判H9.10.31)とされる。
また、労働条件の不利益変更にあたっても、4要素が用いられることがある。
過去には、経営上必要な労働条件変更による新たな雇用契約の締結に応じなかった従業員の解雇を、「変更解約告知」(労働条件を変更するための解約)という新たな類型のもと、(1)労働条件の変更が必要不可欠、(2)その必要性が労働者の受ける不利益を上回る、(3)新契約締結の申込みの必要性が解雇を正当化するに足りるやむを得ないものである、(4)解雇回避努力が十分に尽くされている、という基準を満たす場合に認める裁判例(東京地決H7.4.13)も出されたが、この1例を除き、他の類似事案(東京地決H10.1.7、大阪地判H10.8.31等)においては「整理解雇の4要素」によって労働条件変更の当否を判断する傾向が見られる。
労働条件の不利益変更は、いわば「雇用を継続する」ことを意味するのに、ここで「整理解雇の4要素」を持ち出すのは、矛盾するように感じられるかも知れない。しかし、労働者がこれに応じなかった場合には解雇する(すなわち労働者にとっては「低下後の労働条件を受け容れる」か「解雇される」かの二者択一になる)ことから、その前提となる「解雇」の合理性・相当性を検討しなければならないのだ。
「内定取り消し」や「労働条件の不利益変更」は、無論「解雇」ではないのだが、その当否は、整理解雇法理により判断されるべきものであることを理解しておきたい。
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