今から五十数年前、「ウルトラセブン」という円谷プロの子ども向け特撮番組がありました。小さい時に見たのかどうか、それさえはっきりしないんですが、何十年もかけて再放送やら、衛星放送、DVDなど、いろんな形で見続けて、ほぼだいたいは見たのかなと思うのですが、気づいた時には、第12話が欠番になっていた、というのをこれまただいぶ昔に知りました。
なぜ欠番になったかというと、物語の中に出てくる宇宙人がケロイド状の皮膚だったそうで、原爆被害者をイメージしたつくりになっていたので、こんなのは放映禁止にしてほしいという申し入れがあり、円谷プロは二度とこの作品を表に出さないことに決めたそうでした。監督は、映像にこだわってた実相寺昭雄さんで、被害者を茶化すつもりはなかったはずですが、結果として不快な気持ちを与えたので、やはり、ずっと封印されていくのでしょう。
ボクが生きている間に、日の目を見る時は、たぶんないはずだから、本放送で見ていないボクなんかは、永遠に見られないでしょう。まあ、それはいいのです。
何十年もの間に、気になる作品ができてくるものです。そこが人生のめぐりあわせというものなのか。最初のうちはちっとも面白くないと思ってたこの作品、第26話「超兵器R1号」のギエロン星獣。オッチャンになった私には、今では現役の怪獣となっているんです。何か不思議です。これはたまたま私がそうであって、他の人に通じるものではないかもしれません。私の変な感じ方のせいなんでしょう。
地球防衛軍が新型兵器を開発して、ギエロン星というところで実験して爆発させて、ギエロン星を吹っ飛ばしてしまいます。ムチャクチャな実験をしたものでした。まあ、生物もいないし、実験しても問題ないだろうという地球での判断だったのでしょう。
それから、しばらくしたら、ギエロン星から矢のように地球に向かってきたのが、このギエロン星獣でした。もう地球で大暴れ、超兵器でも死なないんだから、無敵の強さで、ウルトラセブンだってタジタジだったのです。
でも、セブンが最後の力を振り絞って、ギエロン星獣の腕を引きちぎり、怪獣を倒した。そうすると、クチバシがあったけれど、鳥みたいな羽毛も出てきて、実はそんなにムチャクチャな生き物ではなかったのに、地球人の侵略によって、その仕返しに巨大化・狂暴化してやってきたのではなかったか、というのをナレーションはないけど、映像の中でそういう虚しさみたいなのをちゃんと描いていて、大人になった私なんかは、シンミリさせられたものでした。
小さい時にテレビで見た「シェーン」、主役のアラン・ラッドさんは小柄な俳優さんだったそうですけど、作品の中ではタフでたくましくてカッコイイ人に見えた。でも、後々人々がこの映画を見てみたら、村を去っていったシェーンさんは、墓場を通り過ぎていき、最後はこんなふうに死んでしまうんだよ、というのを結末に無言で語らせるラストというのがあったそうです。それがジンワリ、ジンワリ大人になってから効いてくるんだけど、あれと同じで、ギエロン星獣も、私たちに人間文明の行きつく先を示してくれていたと、オッサンの私は今でも思うのです。
ウルトラセブンもわかったし、シェーン、カミンバックもわかったけど、全然過去の話ですよね。おかしいね。
ちっとも今の話ではないんじゃないの?!
そうなんです。でも、今の時期、「あっ、ギエロン星獣鳴いてる!」と思ってしまうんです、バカな話ではあるんですけど……。
三重県で、ギエロン星獣が生息しているわけはないので、何かの間違いではあるのです。気のせいかもしれない。
でも、ボクだけは、そう思って、ひとりでニタニタしているんです。
テレビの中で流れてたギエロン星獣の鳴き声、あれはキジの鳴き声だったのです。
キジというと、「ケーン」とオスが鳴き、「ホロロ」とメスが鳴く(?)、どちらも愛想がなくて、何ものも相手にしない、無愛想そのものの鳴き声ということになっています。だから、何かのお願いに行った時に、全く相手にされなかったら、「けんもほろろの対応だった」という風に表現してきました。日本人には、桃太郎でもおなじみだし、里山でよく見聞きするトリだったのです。
そのキジの鳴き声を、怪獣にかぶせてたなんて、五十数年前の番組スタッフのみなさんの刷り込みのおかげで、オッチャンのボクは、今でも小さい頃の思い出を、何度も何度も蘇らせなくてはならなくなってしまったのです。
もう、ギエロン星獣なんて忘れよう! 全然関係ないよ、そう思うんです。でもまだ、キジの鳴き声を聞くと、ついついイメージが重なってしまう。どこにも怪獣はいなくて、草の生い茂ったところでキジのご夫婦がおしゃべりしているだけなんだけど。
いつか、忘れてしまうのかな。いや、いつまで経っても、キジとギエロンを結び付けてたいな。もうとことん!