紀勢線の熊野市駅のひとつ手前(松阪から見て)、大泊というところで降りました。お昼くらいになってたでしょうか。降りた人は私とあとひとり男の人、彼はどこへ行ったんだか、私と同じ方角ではなかったようです。
駅から降りる道には、ずっとアロエの花が続いていました。まさか、こんなにアロエが道沿いに続いているなんて、変ではないけど何だか不思議な感じです。そして、その花の方からコトリの声がするなあと見ていたら、メジロが蜜を吸っているようでした。アロエの花に集うメジロだなんて、初めて知りました。
松本峠の入り口は、国道沿いの騒がしいところにあります。昔は、こういう名所があるなんて、まるで知りませんでした。
何年か前に切手になった時に、初めてそういう場所から七里御浜をのぞけるところがあるのだと知りました。昔、こちらの方に住んでいる時には知りませんでした。そういうことって、よくあることで、長年の不在の中で新しい名所というのは作られていきます。この熊野古道入り口も昔はありませんでした。
かくして坂道を登り、すれ違う人もおらず、ただひたすら自分とのやりとりで、いつでも休憩はできるのですが、そんなに長時間の上りでもないだろうと黙々歩いたら、すんなり峠にたどり着きました。
ここまでずっとヒノキ林の中の道で、展望は何もなかったのです。おかしいじゃないですか。このまま下ったのでは、何のために登って来たのか分からない。
これは、道を降りずに海側に突き出た展望台というのをめざさなくてはならないようです。
200mということだし、そんなに起伏もなくて、スンナリと展望台にたどりつくと、やっと念願の風景を目の前にすることができました。
確かにそうなんだけど、町があまりに遠すぎて、細部が見えないようです。はるか向こうの新宮市までつながる海岸線が一望のもとです。
雲が空にかなりあるせいか、太陽光線はキラキラではないようです。
とりあえず、峠にはたどり着いた。帰りはどうなるんだろう。帰りの電車は、あと二時間後です。それまで何をして過ごせばいいのだろう。
少し峠を降りてきたら、切手の風景とピッタリの見晴台というところに出ました。これはふもとの町の熊野市から、峠越えをする際に開けてくる風景のようで、町もわりと近くに感じられます。あまりに遠いとピンと来ないし、やはりある程度の気配を感じなくてはね。
さあ、峠を降りましょう。どこへ行きましょう。時間はあるけれど、ゴハンは先ほど展望台でコンビニおにぎりを二個食べてしまいましたもんね。
さて……。