象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

リーマンとガウスとアインシュタイン”その2”〜一般相対性理論とリーマン幾何学と宇宙モデル

2019年07月02日 05時19分37秒 | 数学のお話

 先日の”その1”では、リーマン幾何学とアインシュタインの一般相対性理論との繋りについて述べました。

 因みに断っときますが、一般相対性理論と特殊相対性理論をゴッチャにしてはアカンですぞ💢絶対に。それらしきコメがあったので言っときますが、一般相対性理論と特殊相対性理論とは全く別モンと考えて下さい。後者はあくまで、特殊な場合のみ成立する理論ですからな。
 そこで今日は、リーマン幾何学(歪んだ空間の幾何学)について、少し突っ込んで述べたいと思います。そして、空間の歪みとアインシュタインの宇宙モデルで締め括りたいと。


ガウスの非ユークリッド幾何学

 ”数学の巨人”ガウス(1777-1855)は、空間内の曲線と曲面の性質に、微分積分学を応用し、今日の微分幾何学の基礎を築きました。
 特に、曲面の等長変換(空間内の2点間の距離を変えない変換)で変らない性質に着眼し、これを研究した。そしてガウスは、ユークリッド幾何学の”平行線公理”(直線外の1点を通り、この直線に平行な直線はただ1つある)を否定した、”曲面の幾何学”が成立する事を確信します。
 この”平行線公理”に関しては、”全ての三角形の内角の和は180°である”といった方が解り易いですかね。

 元々”公理”とは、何らの疑問を持たないで認めているものです。特にこの公理は自明性が低く、故に、この公理を証明しようと、多くが挑んだんですが、証明する事が出来なかった。
 そこで、この”平行線の公理”を否定したら?って。そこから全く矛盾のない非ユークリッド幾何学が生まれたんですね。故に”平行線公準”とも呼ばれます。

 そういった過程を経て、2000年以上も幾何学を支配したユークリッド原論の壁を、ガウスが打ち砕いたんです。
 しかし、当のガウスが発表を控えてる間に、ボヤイ(1802-1860)とロバチェフスキー(1793-1856)の2人がそれぞれ”平行線公理”を否定した幾何学が可能であると発表した。つまり、曲面の幾何学を人類至上最初に発表したんです。

 曲面上の直線を考えると、どの直線にも平行線は1本もない事は明らかですね。つまり曲面上の幾何学では、”平行線公理”は成り立たない。これこそが今日、曲面上の幾何学(非ユーグリッド幾何学)と呼ばれているものです。
 特にロバチェフスキは、曲率が負で平行線が2本以上無限に引ける双曲幾何学を発見した。しかし彼は、非ユークリッド幾何学は自ら発見した双曲幾何学しかないと思い込んだ。

 そして、この”空間の幾何学”に着目したのが、人類で初めて”曲率”を発見したガウスの弟子のリーマンで、彼は非ユークリッド幾何学は無限にある事を発見した。つまり、歪んだ空間を体系化したんですね。 


リーマンの非ユークリッド幾何学

 ”その1”でも述べた様に、1854年にリーマンは、ゲッティンゲン大学講師就任講演(教授資格講演)「幾何学の基礎をなす仮定について」にて、曲面上の幾何学を、”n次元の曲率を持つ空間の幾何学”へと拡張します。
 これには、流石のガウスも感服します。このn次元多様体の全てに、あらゆる空間の幾何学が存在するのです。
 関数と(位相)幾何学を融合させた、凄い論文だったんですね。リーマンを一気にスターダムにのし上げた快挙でもあったんです。
 これこそが偉大なる”リーマン幾何学”である。 アインシュタインが、これを一般相対性理論(=重力は空間と光を曲げ、時間を遅らせる)の建設に利用して以来、人々の注目をひき、今日でも盛んに研究されてます。
 因みに、”平面や歪みのない空間”を対象とするのがユークリッド幾何学であり、一方”曲面や歪んだ空間”が非ユークリッド幾何学です。⚠歪みのない球体はユークリッド空間で、3次元ユーグリッド空間とも言います。

 この1854年の学位論文にてリーマンは、”非ユークリッド幾何学”の公理に挑戦します。
 例えば、”平行線の公理”にて、ユークリッド幾何学とは全く反対の、①総ての平行線は交わる②与えられた点を通る与えられた直線に平行な直線は無限にある、という幾何学の体系(非ユーグリッド幾何学)を発表した。 
 これは曲面上の幾何学として考えれば、明らかなんですが。曲面上の各々の点に於いて平行な直線(球の周円)は必ず交わりますし、球の上の任意の一点を通って、無限に周円(球上に於ける平行線)が引けます。

 この様な公理から出発し、リーマンは”ユークリッド幾何学”(平面の幾何学)とは別の、論理的には矛盾のない、新しい幾何学の体系=非ユークリッド幾何学と呼ばれるものの一つ)を構築したのです。
 因みに、前述したボヤイやロバチュフスキーも、リーマン幾何学とは別の非ユークリッド幾何学を創り上げましたが、少し不完全過ぎました。

 リーマンは、この論文の中で更に進んで、どの様にして曲率とか距離とかの概念を定義できるか”について論じたんです。
 その定義如何によっては、多様な幾何学(リーマン多様体)が考えられ得る可能性を示し、ロバチェフスキー幾何やリーマン幾何を含む、幾何学全体の新しい世界を開拓、いや発掘したのです。
 以上整理しておくとリーマン幾何学とは、”リーマン計量”と呼ばれる距離の概念を一般化した構造を持つ図形を研究する微分幾何学の分野で、この様な図形はリーマン多様体と呼ばれます。 


空間歪曲率と現代の幾何学トポロジーと

 前述した様にガウスは、”空間歪曲率”という概念を考えました。
 現在では、空間歪曲率ゼロのものがユークリッド幾何、プラスの値ががリーマン幾何、マイナスの値をとるものがロバチェフスキー幾何と定義され、幾何学全体が統一されてます。 
 この事により、実在する空間と一致する真の幾何学と考えられてたユークリッド幾何も、一つの論理的体系にすぎない事が判明したんです。
 因みに、リーマン幾何を位相幾何学(トポロジー)と呼びますが。リーマンは”位置の幾何学”というガウスが好んだ言葉を使ってました。

 少し脱線しますが。幾何学では図形の形と量を扱うのですが。”位相”とは要素(元)の事で、集めた元同士を関係づける事を”位相づける”と言います。また、それら各元が位相づけられた集合を「位相空間」と呼びます。
 例えば、人間を元とした集合とみなすと、血縁関係は元同士の1つの関係性になる。あの2人は親子関係だとか、叔父甥の関係だとかいう様にです。それに集合が空間内にある場合、元同士には必ず”距離の関係”(血縁関係)が存在する。

 図形を表面的な形に捉われず、図形上の点と点の関係性が集まったものと捉えると、伸ばしたり縮めたり(同相写像)しても変わらない性質が現れる。この様な、点同士の関係の視点で図形の性質を研究するのが位相幾何学(トポロジー)です。リーマンやガウスが”位置の幾何学”と呼んだのも、この為なんですね。 


一般相対性理論と宇宙の空間の歪み

 幾何学全体が統一されたこの半世紀の後、アインシュタインは、ミンコウスキーの4番目の次元である時間軸と3次元空間を一まとめにした”4次元時空連続体”の概念に、”リーマン幾何”(空間の歪み)を適用する事で、一般相対性理論による、宇宙モデルを確立する事が出来たのです。
 つまり、ニュートンによって万有引力として説明された重力場”という現象が時空連続体の”歪み”として、説明された。
 質量が時空間を歪ませる事で、重力が生じると仮定すれば、大質量(=太陽の10の5乗倍から10の10乗倍程度の質量を持つブラックホールみたいなもの)の周囲の時空間は歪んでいる為、光は直進せず、時間の流れも影響を受ける。

 これが”重力レンズ”や”時間の遅れ”といった現象となって観測され、故に、”重力が空間と光を曲げ、時間を遅らせる”という「一般相対性理論」になるんですな。
 因みに、”重力レンズ効果”とは、重力により光が曲がる状態が、光学レンズによる光の屈折と似ている為、重力レンズと言われます。

 一般相対性理論をもっとわかり易く言えば、”重いものの周りでは、時間は遅く流れ、空間が歪む”という事です。
 一方で、特殊相対性理論とは、”光の速度よりも速いものはなく、超高速で動くものは、時間が遅く流れる”。重さとエネルギーは同じ、つまり、止まってるものにもエネルギーがあると。
 何だか、後者の方が難しい様ですが、前者の方がずっと難解です。

 また質量が移動する場合、その移動にそって時空間の歪みが移動・伝播していく為に、”重力波”が生じる事も予測されます。
 そして2017年に遂に、その”重力波”が観測されたんですね。アインシュタインが”時間や空間は歪むもので、その歪み(重力波)は水面を伝わる波の様に宇宙を伝わっていく”と予言してから、丁度100年後の事です。
 因みに、重力波を電磁波などの波動(の発射)と勘違いしてる人もいる様ですが。宇宙戦艦ヤマトの波動砲のイメージとは少し違うんで(笑)。ここら辺が難しい所です。

リーマンとガウスとアインシュタイン

 つまり、アインシュタインは、リーマン幾何学を使って、宇宙が歪んでる事を予想したんですが。実際には、光は空間を最短距離で進むという原理がありますが、そのような光の軌跡をリーマン幾何学では”測地線”と呼びます。
 この光の軌跡(測地線)を観測する事で、実際に宇宙は曲がってるのを知る事ができたんです。

 しかし現実に、空間の歪み具合や空間の構造を数学的に解き明かすのは、容易ではない。曲面など二次元なら図に表せるが、高次元になると、それを図に表す事も、イメージする事さえも難しくなるからです。

 しかし、ガウスが確立した微分幾何学では、このような空間を数式によって表し、その幾何学的な性質を解明して来たのです。
 つまり、ガウスは人類で初めて、微分幾何学という概念を駆使し、空間の歪みを解明しようとした。そして、弟子のリーマンがそれを引き継ぎ、高次元の空間を数式化し、体系化する事に成功した。

 いつの日か宇宙全体の形が解明され、リーマン幾何学によって表された宇宙地図を使って、宇宙旅行をする日が来るかもしれないと、某教授は語っておられます。
 こうして見ると、ガウスとリーマンとアインシュタインの関係が手に取る様に、イメージ出来ます。ガウスなくして、リーマンは語れないし、リーマンなくして、アインシュタインの宇宙空間の歪み、つまり一般相対性理論は存在しないのです。

 全2回に渡り、ガウスの微分幾何学とリーマン幾何学とアインシュタインの一般相対性理論について、超ややこしい”テンソル”の概念を抜きにして、大まかに判り易く書いてきました。

最後に

 アインシュタインの名誉の為に言っときますが。彼は原爆の製造や理論には一切関与せず、原爆投下を辞めるよう助言しただけです。つまり、原子力がいかに大きなエネルギー(E=MC²)であるかを警告しただけです。
 勿論、彼が発見した”E=MC²”だけでは原爆は作れる筈がありません。故に、”原子爆弾を作る元となる理論を考えついた”というのも、とても失礼な言い方です。

 しかし、アインシュタインの意に反する様に、原爆投下は実行され、広島と長崎の地形は”歪んで”しまいました。原爆の衝撃で、皮肉にも時空が歪んでしまったんです。強力な重力が宇宙の時空を歪ませた様に、原爆の凄まじいエネルギーが歴史をも歪ませたんです。それは、第二次大戦後の歴史を見ても明らかですね。



8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
日米同盟の歪みとアインシュタイン (hitman)
2019-07-02 08:44:51
流石に最後はまとめますねえ〜。
Hoo嬢のように、座布団2枚といきたいんですが。

わたし的には、原爆の凄まじいエネルギーが日米同盟をも歪ませたと言っておきましょうか。

アメリカが原爆を落とした時点で、世界は世界の歴史は歪んだんですよ(●`ε´●)
返信する
象転さんへ。 (テレビとうさん)
2019-07-02 09:25:14
直線の定理:空間上の2点の最短結線。また、その延長線。(球面では赤道が直線になる。)
円の定理:空間の一点を中心に、その中心点から直線で等距離にある総ての点の軌跡。(3次元空間では球面が円になる。)

平行の定理:2本の直線の最短距離が常に等しい状態。(均質に歪んだ)3次元空間では「スパイラル直線」も平行と言える。

球面(2.5次元)での考察。

赤道は「直線の定理」と「円の定理」の両方を満たしています。
赤道と黄道との関係は「平行の定理」を満たしているように見えます。
黄道は「直線の定理」は満たしていないので「平行の定理」の対象外です。

ここに書いているのは「公理」ではなく「定理」なので、自由に「定義」を変える事は可能です。

リーマンの「直線・直進・円・平行の定理」は、どうなっているのでしょうか?

それと、確かここで言う「重力波」は、重力の(恒常的な)移動ではなく「重力量の(歪な)変異による波動」だと理解していましたがどうでしょう?

重力波:物体の非対称な「加速度運動」によって放出される。
返信する
hitmanさんへ (lemonwater2017)
2019-07-02 11:31:09
実は私も同じ事考えてたんですよ。

日米同盟の歪みは原爆投下の時から始まってると。結局アメリカも解ってんですかね。原爆投下が明らかにミスであった事を。

それでも想定内のエネルギーであったなら問題はなかったかもですが。予想を遥かに超える衝撃波でした。

あの時以来、世界は狂った様に核開発に走りました。それが今の現状ですね。全く日米同盟だけでなく、アメリカを中心に回る世界自体が狂ってるような気もします。

Hoo嬢みたいに座布団3枚と生きたい所ですが、1枚でご勘弁を(笑)。
返信する
TVとうさん (lemonwater2017)
2019-07-02 11:35:45
 多分、曲面を”球面”と間違って書いてた所があり、少し場違いな?コメを誘ったんでしょうか。”球体”が非ユークリッド空間でないのは明らかですね。早速修正しました、悪しからずです。

 お詫びとして、公理の話をです。

 元々”公理”とは、何らの疑問を持たないで認めているものです。故に、この公理を証明しようと、多くが挑んだんですが、証明する事が出来なかった。そこで、この”平行線の公理”を否定したら?って。それから、全く矛盾のない非ユークリッド幾何学が生まれたんですね。

 一方重力波は、確かに”波(動現象)”ですが。電磁波などとは大きく異なります。つまり重力波は、”重力”を発生する起源である”質量”が運動する事で発生します。当り前ですがね。

 平行線の公理も重力波もサイトを潜れば腐る程出てきますんで、説明する事もないでしょうが。
返信する
曲面と球体と球面 (paulkuroneko)
2019-07-02 13:08:46
球体とは3次元ユークリッド空間で、球面とは3次元ユークリッド空間上の2次の閉曲面ですが。曲面と球面は、しばし混同して扱われるので注意が必要です。

でもそれ以上に曖昧なのが”平行線公理”です。この公理は自明性が低く、幾つかの疑念がありますから、今では”平行線公準”と言います。お陰で、証明できないのも当然なんですが。

しかし、平行線公理が曖昧だからといって、ユークリッド幾何学が矛盾という訳でもないんです。つまり、ユークリッドではないのが、非ユークリッドですから。

”非常識な幾何学”という言い方もありますが、ユニークだと思います。

一応、余計な補足でした。ご参考までに。
返信する
象転さんへ。 (テレビとうさん)
2019-07-02 14:24:51
重力と重力波の違い。

波動にはエネルギーが必要で、波動を放出するとエネルギーを失います。懐中電灯も光(波動)を放出して電気エネルギーを失います。

重力波を放出する天体は、エネルギーを放出する事で新しい質の天体に変貌すると言われています。
重力は何時でも感じますが、エネルギーは移動しません。

これは、重力と重力波とは別物である事を示唆します。

重力の伝播(重力場)にはエネルギーの移動は不要で、重力波の伝播はそれ自体がエネルギーの放出ではないでしょうか?

質量=重力
質量の移動=重力場の移動
質量の非対称な変動(運動ではない)=重力波

また、通常の核反応は質量がエネルギーに変わるだけで、重力波は放出しないと思います。
返信する
paulさんへ (lemonwater2017)
2019-07-03 02:08:53
返事遅くなりましたです。

昨年書いた記事の更新という事で、うっかりしてました。ご指摘とても助かります。

でも自明性の低い”平行線の公理”から、非ユーグリッド幾何学が誕生したのは、皮肉にもいい所ですね。非常識な幾何学と呼ぶのものも頷けます。

数学というものは基本的な部分の理解を厳かにしてるケースが多々あり、色んな誤解を招く事がありますが。これも数学という学問の運命ですかね。
返信する
TVとうさん (lemonwater2017)
2019-07-03 02:12:52
下記のサイトに、東大研究所の方が非常に判り易く書いてます。

https://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/plan/aboutu-gw

これを読んで解らなければ、お手上げです。

私の他にもブロガーは沢山います。彼らとお友達になられては?仕事もあるし、一々付き合ってられんので、私はもう結構です(疲)。

正直、キモかったんですが(笑)、今まで色々とお世話になりました。貴君のご健闘をお祈りします。お身体にもお気を付けて。悪く思わんでね(^o^)
返信する

コメントを投稿