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【感想】又吉直樹著「火花」

2017年04月26日 | 本と雑誌
やっと読んだ、又吉直樹著「火花」。
横浜市立図書館で予約待ちは3200人超え。
2年待って2時間で読み終わり、もったいないような気がした。
今さら誰にも読まれないかもしれないが、自分の記録的に感想を書く。

芸人を目指しながら、世間の波にもまれてあがく主人公・徳永と、人生の全てを芸人として生きようとする先輩・神谷を主軸に、物語は展開する。

徳永は移り変わる風景、人、自分を見つめ、焦りや不安、寂寥を嚙みしめながら夢に向かって行く。
対して神谷は、世間に寄らないがために世間から弾き出された存在である。
真樹の所に転がり込み、ご飯を食べさせてもらい、小遣いをもらって飲み歩く。後輩にお金は出させない。真樹が去ると、借金をしてまた飲み歩く。借金取りに追われて姿をくらます。
正真正銘、クズ男である。
それなのに、滅茶苦茶なまでに真実に優しい。
世界を、人を、すべてを信頼している。

この2人がどうなるか。
なんと、どうにもならないのである。
去っていく人たち、変って行く人たちに置いてけぼりされたような2人。
徳永は若さを失ったことを感じている。

真樹は神谷を支えるために売春し、そこで知り合った男と一緒になる。
彼女の存在は、神谷だけでなく徳永にとっても大きな支えだった。
十年後、徳永は偶然、少年の手を引く真樹を見かける。
小説内で唯一、時をまたいだのはこの場面であり、美しく印象的だった。

  誰が何と言おうと、僕は真樹さんの人生を肯定する。僕のような男に、何かを決定する権限などないのだけど、これだけは、認めて欲しい。真樹さんの人生は美しい。あの頃、満身創痍で泥だらけだった僕たちに対して、やっぱり満身創痍で、全力で微笑んでくれた。そんな真樹さんから美しさを剥がせるものは絶対にいない。

そして、芸人として最後の舞台。
相方の山下と、反対語で漫才をするという場面に、私は胸が熱くなった。

  「そんな、素晴らしい才能の天才的な相方に、この十年間、文句ばっかり言うて、全然ついてきてくれへんかったよな!」
  僕は、天才になりたかった。人を笑わせたかった。
  「なに言うてんねん」
  僕を嫌いな人達、笑わせてあげられなくて、ごめんなさい。
  「そんな、お前とやから、この十年間、ほんまに楽しくなかったわ!世界で俺が一番不幸やわ!」
  相方が漫才師にしてくれた。
  「ほんで、客!お前達ほんまに賢いな!こんな売れてて将来性のある芸人のライブに、一切金も払わんと連日通いやがって!」
  そして、お客さんが、僕を漫才師にしてくれた。
  (又吉直樹著『火花』2015年 文芸春秋)

     
世間の声を気にしながら、その不器用さも武器にできず、徳永の夢は花火のように散って終わる。

図書館という公の場所にも関わらず、私は胸をぎゅっと掴まれて苦しくて涙が出そうだった。

文体は、正しい日本語で初々しい感じ。
次作も楽しみです。

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