この頃、お出かけしたことばかり書いていて、ちょっと気が引けてます。
なので、今日は「絵本」のおはなし。
絵本というくくりに入れていいのかどうかわからないけど、グレーの紙に
黒く細い線画がとてもいいので、装丁は、ちゃんとした「本」みたいだけど
「絵本」ということで‥
『タイコたたきの夢』 ライナー・チムニク 作 矢川澄子 訳
同じ作者の『クレーン男』を、1か月前くらいに読んで、ふーむとなりました。
寓話なのかなと思ったけど、うまく自分の気持ちをまとめられなくって、
同じ作者の、別の作品も読んでみようと思い、こちらを手にとりました。
題名がすごく気になったのです。
表紙だけみると、描かれている二人の男がプロの「タイコたたき」で、
その男たちの夢見ていること、って内容みたいですよね。
でも、この男たちは、大勢の中の誰かであって、名前もなければ、
タイコをたたくのが職業というわけでもありませんでした。
むかしむかしのあるくにで、ある日、ひとりが言い出すのです。
「ゆこう どこかにあるはずだ
よっとよいくに よいくらし!」
それに賛同したものたちが、太鼓を打ち鳴らしながら、自分の国を出て、
よそのまだ見ぬ、もっとよいところを目指します。
現状に思い悩んでいるのなら、立ち上がって、太鼓を鳴らして
どんどん外に出ていくのが、得策であり、良策であり、人間としての本能でも
あるのかなあと思います。
でも、城壁の中で、それなりに満ち足りた暮らしをおくっていたのに、
どこの誰ともわからない男たちが、大勢で太鼓を鳴らしながらドカドカ
やってきたら、それもどんなものなのでしょうね‥
いろんな側面から、いろんなことが感じられます。
いま、私がいちばん思うのは、太鼓の音が聴こえてきたら、きっと
ドキドキしちゃうなあということ。
そのドキドキは、侵入者に対しての警戒であるよりも、一緒に行こうという
誘いに聞こえてしまうからかな・笑。
色々な意味で、太鼓の音には、揺さぶられます。
太鼓の音といえば、春樹氏の初期のエッセイ『遠い太鼓』の一節が、
必ずセットで思い出されるのです。
ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が
聞こえてきた。ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、
その太鼓の音は響いてきた。とても微かに。
そしてその音を聞いているうちに、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。
春樹氏は、日本を離れてギリシアやイタリアで生活し、そしてそのあと
『ノルウェイの森』が出版されました。
なんか、すごいむかしばなしをしているみたいで、それに驚きますが(笑)、
「遠い太鼓」を最初に読んだときに、私も、この場所にいてはだめ、
行きたいと思っているところにいかなくちゃ、と強く思ったことをよーく
覚えています。
太鼓の音を、思い浮かべただけで、だから、気持ちが今でも揺さぶられる
のでしょう。
『遠い太鼓』
私たちのお店、BOOTS&STICKS の「スティックス」も、もちろん
太鼓をたたく、スティックのことです。
(私たちのお誘いは、まだ見ぬよい国へ、ではなく、ちょっとそこらへんの
散歩や、頭の中で、好きな場所へ行くことですけどね ♪)