「クリスティーナの世界」習作
日曜日、北浦和にある埼玉県立近代美術館で、ワイエスの絵を観てきました。
今回の展示は、「オルソン・ハウスの物語」というサブタイトルからもわかるとおり、
丸沼芸術の森が所蔵する「オルソン・シリーズ」からの、水彩やデッサンや
習作で、その数はおよそ200点です。
オルソン・ハウスとは、メイン州の海岸にある古くて大きな農家で、
身体が不自由なクリスティーナとその弟のアルヴァロが住んでいました。
ワイエスはこの地を30年に渡ってたずね、姉と弟、オルソン・ハウスそのものを
描き続けました。
アルヴァロが世話をしている馬や牛、ブルーベリーを摘むアルヴァロ。
納屋の中に入り込んだつばめ、海からの風にそよぐカーテン、穀物袋など‥
メイン州の空は鈍い色で塗られているのに、地面にはくっきりと物や人の影が落ち、
私は一度も訪れたことがない場所なのに、納屋の内側から、母屋の壁を
見たことがあるような気持ちになる自分に驚きました。
海からの風が、そのとき吹いてきたような気さえするのです。
ワイエスがアメリカで絶大な人気を誇っているというのも、昨日の絵を観て、
わかる気がしました。
アメリカ人の心の奥にある、荒涼とした果てしなく広い大地へのあこがれのようなものが
ワイエスの絵を観ていると、揺さぶられるからなのでしょう。
絵の中に、風が感じられることって、今まで経験したことがなかった気がします。
埼玉県立近代美術館の展示は12日(日)までです。
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前に一度、ワイエスの絵を観たことがあるけど、あれはいつだったのだろう?と
気になっていましたが、年表で確認したら、それは1990年のセゾン美術館での
ヘルガを描いたシリーズだったとわかりました。
1990年。
20年前ですね。あの時、何を思って自分がワイエスの絵を観ていたのか
思いだすことはできませんが、ヘルガが着ていたセーターが、とても緻密に描かれていて
まるで写真のようだと思ったことはなんとなく覚えています。
ヘルガという女性のことや、ヘルガを長年に渡って描き続けたワイエスという画家の
生い立ちや成長過程や内面のことなど、あの頃はまるで考えもしなかったなあと、
今、思います。