6月の、「はじめましての絵本たち」で紹介してもらった絵本で、
さらにじっくり読みたいと思ったものを、図書館で予約して借りました。
(今回、なんだか響いてくる絵本が多かったのです)
その中の1冊。
宮沢賢治が、妹トシを亡くした翌年の大正12年8月、樺太へ向かう旅の
途中で旭川を訪れたことを書き記した詩が残されていて、
その「旭川。」という詩をもとにして、あべ弘士さんが、あらたに創作を
加えた絵本です。
裏表紙の見返しに、宮沢賢治直筆の詩が載っていますが、その一篇の詩を
ただ読むよりも、あべさんの「創作」で、賢治自身と御者との会話を中心とした
散文と、さらにあべさんの絵が加わることで、とても上質のドラマか、まるで映画を
観ているような気持ちなったのでした。
夏の朝の、爽やかな空気の匂いまで紙面から立ち昇ってくる気がしました。
パカポコゆれる
馬車の振動のこころよさ。
こんな小さな軽やかな馬を、
朝はやくから私は街をかけさす。
天にものぼる気分だ。
そして、ポプラ並木を抜け、そのむこうに官舎が見えてきて…
「つきましたよ」
「農場試験場はやっていますかね」
「聞いてきましょう」
という御者との静かな会話…。
目当ての農場試験場は別の場所に移っていて、御者は賢治に
「お役にたてませんで…」
「いえいえ、お世話になりました。
とてもさわやかな街でした。
好きになりました」
空を舞うオオジシギは樺太まで飛んでいくやつもいるらしいと教えてもらい、
「樺太ですか……。
むこうでまた会えるとうれしいなあ」
と、こたえる(絵本の登場人物の)賢治が、詩の作者の宮沢賢治よりも、
私は、読み終わった後に、確実に好きになっていました。